第17話 何もない領地
馬車を降りた瞬間、分かった。
ここは――
詰んでいる。
《初期評価:
人口減少/税収低下/物流停滞》
AIが、淡々と数値を並べる。
だが、数値を見る前から、空気が違った。
人が少ない。
声がない。
畑はあるが、手入れがされていない。
「……ここが、任地だ」
地方領地。
名前だけは、地図に残っている。
◆
迎えに出てきたのは、初老の男だった。
「調査官様ですね」
腰が低い。
だが、期待はない。
それが、余計に分かりやすい。
「案内します」
◆
役所と呼ぶには、あまりに小さい建物。
書類はある。
だが、整っていない。
「税帳簿はこちらです」
渡された紙束は、
年ごとに数字が落ちていた。
《税収推移:
右肩下がり/回復兆候なし》
(……止血が必要だ)
改革以前の問題だ。
◆
「人は、どれくらいいる」
「把握できていません」
即答だった。
「出て行く者が多く……」
「生まれる者は」
「……少ないです」
《人口動態:
崩壊段階》
ダンジョンより、厄介だな。
◆
「魔物被害は」
「あります」
「どの程度」
「……分かりません」
ここまで来ると、逆に冷静になれた。
冒険者の時と、同じだ。
情報がない場所は、
最も危険で、
最も判断しやすい。
◆
俺は、椅子に座った。
「今すぐ変えることは、しない」
男が、少しだけ驚く。
「……よろしいのですか」
「まず、壊れている場所を確認する」
《方針設定:
即時改革:否
現状把握:最優先》
AIが、短く整理する。
◆
外に出る。
市場――だった場所。
売り手が少ない。
買い手も、少ない。
《流通密度:低》
「交易は?」
「ほぼ、ありません」
「理由は」
「利益が出ないので……」
当たり前だ。
利益以前に、
循環が死んでいる。
◆
夕方。
領地を一望できる丘に立つ。
広い。
だが、使われていない。
《可動資源:未活用率 高》
(……数字は、嘘をつかない)
ここは、
英雄を求めていない。
奇策も、求めていない。
必要なのは――
止めない判断だ。
◆
夜。
仮の宿で、
俺は帳簿を広げる。
税。
人口。
流通。
AIが、次々に可視化する。
《優先課題:
流出停止
最低限の循環確保
情報更新》
冒険者の時と、同じだ。
無理をしない
踏み込まない
だが、見逃さない
◆
「……できるな」
小さく、呟く。
ダンジョンなら、
撤退していた。
だが、ここは違う。
撤退すれば、
誰かが確実に死ぬ。
《判断:
継続介入》
AIが、初めて明確な肯定を示した。
◆
窓の外。
静かな夜。
この領地に、
劇的な変化は起きない。
だが――
明日、誰かが出て行かないだけで、
それは成功だ。
俺は、帳簿を閉じた。
冒険者は、
世界を歩く仕事だった。
今は――
世界を、止めずに支える仕事だ。
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