第16話 選別
場所は、ギルドの裏手だった。
酒場でも、執務室でもない。
記録倉庫の奥。
人が寄りつかない場所。
「ここで話す理由は?」
俺が聞くと、
男――国家関係者は答えた。
「記録に残らないからだ」
《会話秘匿度:高》
AIが、静かに示す。
◆
「冒険者は、優秀だ」
男は言う。
「だが、優秀すぎる者は、困る」
「困る?」
「想定外の判断をする」
その言葉に、妙な納得があった。
◆
「冒険者ギルドは、
現場の処理装置だ」
男は続ける。
「死者が出る前提で回る」
「効率がいい」
「だが君は、
死者を減らす方向に最適化している」
《評価:
管理不適合》
……なるほど。
◆
「だから、選別する」
「誰を?」
「残す者と、
立場を変える者を」
男は、羊皮紙を取り出した。
そこには、名前が並んでいる。
見覚えのあるものが、二つ。
俺と、ミラ。
◆
「ミラは、残る」
「情報屋として?」
「いや」
男は、少しだけ言葉を選んだ。
「国家情報部の鑑定補助だ」
……やはり。
◆
「彼女は、
情報を出す/出さないを選べる」
「だから、管理しやすい」
男は、そう言い切った。
《評価基準:
予測可能性》
◆
「君は、違う」
男の視線が、俺を射抜く。
「正しい情報を、
必ず出す」
「それは、危険だ」
「誰にとって?」
「管理する側にとって、だ」
◆
沈黙。
否定できない。
◆
「君に、三つの選択肢がある」
男は、指を立てる。
「一つ。
冒険者を続ける」
「その場合、
依頼は減る。
情報は、渡らない」
「干される、ということだな」
「穏便に言えば、そうだ」
◆
「二つ。
国家に来る」
「立場を与える。
権限は、限定的だが」
「情報は、最上位が流れる」
「代わりに?」
「判断は、上に委ねる」
《自由度:低》
却下だ。
◆
「三つ」
男は、最後の指を立てた。
「地方領地の調査官」
「表向きは、左遷だ」
「だが――」
彼は、言葉を切った。
「君一人で、
判断していい」
◆
……なるほど。
それは、
管理の外に置くということだ。
◆
「領地は、どこだ」
俺は聞いた。
男は、地図を広げる。
国境に近い。
人が減っている。
税収が落ちている。
《状況評価:
崩壊予備軍》
「ここは、
誰も正確に把握していない」
「把握できない場所は、
放置される」
「だから、任せたい」
◆
「失敗したら?」
「誰も困らない」
率直すぎる。
だが――
冒険者ギルドと、同じ論理だ。
◆
「ミラには、伝えたのか」
男は、少しだけ間を置いた。
「彼女は、もう承諾した」
……そうか。
◆
「君と彼女は、
同じ場所には立てない」
「最初から、分かってた」
男は、頷いた。
「だから、
この選択肢を用意した」
◆
俺は、少しだけ考えた。
冒険者として、
できる最善は、もう尽くした。
次に必要なのは――
判断が遅れない立場。
◆
「受ける」
即答だった。
男は、驚かない。
「条件は?」
「一つだけ」
俺は言った。
「現地判断に、口を出すな」
男は、少しだけ笑った。
「それが、
君を選んだ理由だ」
◆
書類は、簡素だった。
肩書きは、地味。
【地方領地調査官】
権限は、曖昧。
だが――
白紙に近い。
《自由裁量:高》
AIが、初めて明確な肯定を示した。
◆
ギルドを出る。
空気が、違って感じられた。
冒険者としての時間は、
これで終わりだ。
◆
宿に戻ると、
ミラから一通の手紙が届いていた。
短い。
「お互い、
立場が変わっただけよ」
「生きて」
それだけ。
俺は、紙を畳んだ。
返事は、書かなかった。
◆
翌朝。
街を出る。
荷物は少ない。
向かう先は、
地図の端。
誰も期待していない場所。
だが――
判断を遅らせないためには、
最適な場所だ。
《次段階:領地 移行》
AIが、静かに告げる。
冒険者は、
世界を歩く仕事だった。
次は――
世界を、止めずに回す仕事だ。
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