第15話 撤退できなかった日
依頼内容は、普通だった。
【浅層ダンジョン・調査補助】
【目的:安全確認】
【報酬:銀貨二十五枚】
【編成:既存パーティ支援】
支援。
調査。
危険度は低い。
《依頼危険度:低(表記)》
《実測危険度:中》
AIの表示に、わずかな乖離がある。
(……嫌なズレだ)
◆
現地で合流したのは、三人組の冒険者だった。
全員、若い。
装備も新しい。
「噂の人だろ?」
一人が、軽く笑う。
「死なないって」
「死なないように動くだけだ」
「はは、頼もしい」
《過信傾向:高》
嫌な予感が、強まる。
◆
ダンジョン内部。
最初は、問題なかった。
罠は少ない。
魔物も弱い。
《進行判断:可》
だが、分岐点で――
ズレが出た。
「右だ」
俺が言う。
「いや、左だろ」
リーダー格の男が言い返す。
「資料では左だ」
《資料信頼度:低》
「資料が古い」
「問題ない」
判断が、割れた。
◆
一瞬の迷い。
それが、致命的だった。
左の通路で、
床が沈む。
「――罠だ!」
声を上げた時には、
もう遅い。
◆
爆音。
石片。
悲鳴。
俺は、咄嗟に防御を張る。
間に合った。
だが――
一人、飲み込まれた。
《生命反応:消失》
……遅れた。
◆
残った二人が、動揺する。
「な、なんだよ……」
「戻る!」
「落ち着け!」
俺は、声を張る。
「今すぐ撤退だ!」
《撤退成功率:中》
だが――
足が、動かない。
恐怖で。
◆
追撃は、なかった。
ダンジョンは、
“仕事を終えた”ように静かだった。
それが、余計に重い。
◆
地上。
二人は、座り込んだまま動かない。
「……俺たち」
「生きてる」
俺は、そう言った。
だが、
それが慰めにならないことも分かっていた。
◆
ギルド。
報告書。
死亡者一名。
原因欄に、
俺は正確に書いた。
【判断遅延】
言い訳は、しない。
《責任分配:未定》
◆
受付の男が、紙を見て言った。
「……初めてか」
「ああ」
「止められなかった?」
「半拍、遅れた」
男は、黙って頷いた。
「それが現場だ」
◆
夜。
宿の部屋。
俺は、何もせずに座っていた。
《感情反応:重度抑制》
AIの表示が、淡く滲む。
(最適解は、常に存在する)
(だが、
常に間に合うわけじゃない)
◆
ミラの言葉を、思い出す。
――出し方は、選べる。
だが、
判断が遅れれば、
選ぶ前に終わる。
◆
翌朝。
ギルドの前で、
あの“地味な男”が待っていた。
先日現れた、国家関係者。
「昨日の件、見ていた」
「……どこまで」
「最初から」
《監視:確定》
◆
「君は、正しい判断をする」
男は言う。
「だが、現場では――
一人では足りない」
「分かってる」
「なら、提案がある」
男は、低い声で続けた。
「冒険者を、やめないか」
◆
「正確には」
彼は、言い直す。
「冒険者の立場を、越えないか」
それは、誘いだった。
だが――
同時に、宣告でもある。
《次段階:不可逆》
AIが、静かに表示する。
俺は、答えなかった。
だが、心の中では、もう決まっていた。
冒険者としてできる最善は、
ここまでだ。
これ以上先は――
立場を変えなければ、誰かが死ぬ。
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