第13話 情報の値段
ミラが、先に口を開いた。
「この依頼、受けない?」
差し出された羊皮紙には、
見慣れない印があった。
【非公開調査】
【依頼主:匿名】
【報酬:銀貨八十枚】
【条件:内容秘匿】
……高すぎる。
《報酬期待値:異常》
《情報公開制限:強》
AIが、即座に警告を出す。
◆
「内容は?」
「まだ、全部は」
ミラは、視線を逸らさずに言った。
「でも、場所は分かってる。
例の谷と、構造が似てる」
「ダンジョン外縁か」
「ええ」
「奥まで行く?」
ミラは、一拍置いた。
「行けるところまで」
その言い方が、引っかかった。
◆
「情報は、どこまで出す?」
俺は、はっきり聞いた。
「ギルドには?」
「……必要な分だけ」
「必要って?」
ミラは、少しだけ眉を寄せる。
「全部出せば、
誰かが死ぬかもしれない」
「出さなくても、死ぬ」
「それでも」
彼女は、静かに言った。
「出し方は、選べる」
《価値観差異:検出》
AIの表示が、短く出る。
◆
現地。
谷の空気は、重かった。
鑑定反応が、断続的に乱れる。
「……やっぱり」
ミラが呟く。
「ここ、
“何か”を隠してる」
「それを、誰かが知りたがっている」
「ええ」
「理由は?」
ミラは、答えなかった。
◆
調査は、順調だった。
俺は地形を把握し、
危険域を塗り分ける。
ミラは鑑定で、
異常反応を拾う。
《マッピング:進行》
《危険色:橙→赤》
奥には、行かない。
それは、二人とも同じ判断だった。
◆
帰路。
ミラが、ぽつりと言った。
「ねえ」
「何だ」
「もし、この情報を全部出したら」
「どうなる?」
「誰かが、踏み込む」
「……死ぬ?」
「高確率で」
ミラは、歩みを止めた。
「それでも、
全部出す?」
◆
俺は、即答した。
「出す」
ミラが、わずかに目を見開く。
「判断材料は、多い方がいい」
「でも――」
「死ぬかどうかを決めるのは、
俺たちじゃない」
《意思決定:確定》
◆
ギルド。
報告書を、提出する。
地形。
歪み。
危険域。
ミラは、一部の鑑定結果を――
書かなかった。
俺は、気づいた。
だが、何も言わなかった。
《情報欠落:意図的》
AIが、静かに記録する。
◆
受付の男が、紙を見て言った。
「……これで全部か?」
ミラが答える。
「現時点では」
男は、深く追及しなかった。
銀貨八十枚。
机に置かれる。
重い。
◆
外に出た後、
俺は立ち止まった。
「次は、組まない」
ミラが、先に言った。
「……理由は?」
「あなたは、
正しすぎる」
それは、非難ではなかった。
「私は、
情報で生きてる」
「だから、
出し方を選ぶ」
「それが、君のやり方か」
「ええ」
◆
「俺は」
俺は、短く言った。
「判断を、隠さない」
ミラは、少しだけ笑った。
「知ってる」
◆
沈黙。
別れではない。
だが――
同じ場所には立てない。
「気をつけて」
ミラが言う。
「あなたみたいな人は、
上に行くと、
嫌われる」
「慣れてる」
◆
その夜。
宿で、俺は一人考える。
情報は、
守るためにも、
殺すためにも使える。
《新認識:
情報=武器》
AIが、静かに更新する。
冒険者として、
できることは、もう限られている。
正しい情報を出せば、
誰かが死ぬ。
隠せば、
別の誰かが死ぬ。
(……選べない)
なら――
選ばされる立場を、変えるしかない。
それは、
冒険者の仕事じゃない。
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