第12話 死なない攻略
中規模ダンジョンの依頼は、掲示板の中央に貼られていた。
【遺跡型ダンジョン・外周調査】
【目的:構造把握/帰還】
【報酬:銀貨四十五枚】
【討伐不要/生存優先】
額が、露骨だ。
「……高いわね」
ミラが小さく言った。
「死にやすい」
「正確には、帰ってこない」
《依頼評価:
危険度:高/期待損失:大》
AIの表示が、冷静に告げる。
◆
編成は三人。
俺とミラ、
それから護衛役として雇われた剣士――名はロウ。
無口。
装備は使い込まれている。
《動作誤差:低》
《持久戦適性:高》
「当たりだな」
ミラが小声で言った。
◆
ダンジョン入口。
石造りの回廊。
天井は高く、音が反響する。
《空間安定度:中》
《分岐数:多》
「奥へは行かない」
俺が言う。
ロウは短く頷いた。
ミラも、異論はない。
◆
進行は、遅い。
急がない。
走らない。
角ごとに止まる。
《マッピング:進行》
《危険色:黄》
罠がある。
だが、作動条件が不自然だ。
「これ……」
ミラが囁く。
「侵入者を殺すためじゃない」
「迷わせる」
「そう」
《目的推定:
消耗誘発》
◆
魔物は、少数。
だが、配置がいやらしい。
ロウが前に出る。
一撃。
確実。
俺は、最小出力で補助。
《連携成功率:高》
派手さはない。
だが、時間がかからない。
◆
分岐点。
奥へ続く通路が、わずかに歪んでいる。
《空間歪度:上昇》
《危険色:橙》
「行かない」
俺が言う。
ミラは、すぐに同意した。
ロウも、止まる。
「……戻る」
◆
帰路。
背後で、何かが動いた気配。
だが、追ってこない。
《追撃確率:低》
(……誘ってるな)
逃げよう、確実に罠だ。
◆
地上。
外気が、やけに軽い。
三人とも、無傷。
「……生きてる」
ロウが、ぽつりと言った。
「当然だ」
ミラが答える。
◆
ギルド。
報告書を提出する。
構造図。
罠配置。
危険区域。
受付の男が、紙をめくる。
「……奥、行ってねえな」
「行く意味がない」
男は、少し考え――
頷いた。
「それでいい」
銀貨四十五枚が、机に並ぶ。
《収支:大幅増》
◆
周囲の冒険者が、こちらを見る。
「倒してないのに……」
「帰ってきただけで?」
ロウが、低く言った。
「文句があるなら、
死なずに戻ってこい」
誰も返さない。
◆
宿。
三人で、簡単な食事。
ミラが言う。
「分かったわ」
「何がだ」
「あなたのやり方」
彼女は、パンを割る。
「攻略じゃない。
生存を積み上げる」
「結果として、金も残る」
ロウが、静かに頷いた。
「いいやり方だ」
《パーティ安定度:高》
◆
夜。
一人になり、俺は考える。
倒さない。
踏み込まない。
壊さない。
それでも――
世界は、少しずつ見えてくる。
《新概念:
非踏破型攻略》
AIが、短く記録した。
(……冒険者としての最適解だ)
だが同時に、
限界も、はっきりしてきた。
この先にあるものは、
冒険者の枠では、扱えない。
それを知るには――
もう少し、情報が要る。
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