第11話 鑑定士ミラ
調査依頼の翌日、
ギルドの空気が、わずかに変わっていた。
依頼札の前に立つ冒険者たちが、
俺を見る。
視線は、好意でも敵意でもない。
《評価変化:
無関心 → 要注意》
……面倒な段階に入ったらしい。
◆
「レイ」
受付の男が、珍しく名を呼んだ。
「奥に来い」
奥――
ギルドの事務区画。
Fランクが呼ばれる場所じゃない。
◆
小部屋には、女が一人いた。
年は、二十代半ば。
簡素な服装。
だが、目だけが異様に鋭い。
机の上には、羊皮紙と魔導具。
「あなたが、例の調査報告を書いた人?」
「例の、が何を指すかによる」
女は、口元だけで笑った。
「減額されなかった調査依頼。
帰還率一割の谷」
《人物解析:
職能者/鑑定系》
AIが、短く示す。
◆
「ミラよ」
彼女は名乗った。
「鑑定士。
あと、情報屋」
「兼業か」
「正確には、
鑑定できるから、情報を扱える」
なるほど。
◆
ミラは、俺の報告書を机に広げた。
「これ」
指で叩く。
「嘘がない。
誇張もない。
しかも、判断理由が全部書いてある」
「事実を書いただけだ」
「それができない人が多いの」
《虚偽率:0%》
《情報信頼度:高》
AIの表示に、ミラが一瞬だけ視線を向けた。
……気づいた?
◆
「聞きたいことがある」
ミラは言った。
「どうして、奥に行かなかった?」
「危険だった」
「それだけ?」
「それ以上、行く意味がなかった」
ミラは、少しだけ目を細めた。
「普通は逆よ。
危険でも、行く」
「普通じゃない」
「ええ」
彼女は、はっきり言った。
「だから、価値がある」
◆
ミラは、別の羊皮紙を出した。
「仕事の話」
「依頼か」
「共同」
内容は、こうだ。
ダンジョン外縁の調査
鑑定はミラ担当
判断と撤退は俺
報酬欄。
【銀貨三十枚】
分配、ではない。
《単独支給:双方》
「高いな」
「情報は、命より安いと思われがちだけど」
ミラは肩をすくめた。
「正確な情報は、戦争一回分の価値がある」
◆
「条件がある」
ミラは続けた。
「無理をしないこと」
「一致してる」
「死なないこと」
「同上」
彼女は、満足そうに頷いた。
◆
現地。
前回とは別の地点。
ミラが、魔導具を起動する。
「鑑定開始」
《鑑定反応:多数》
《真偽判定:混在》
「……やっぱりね」
ミラは、眉をひそめる。
「この辺、
鑑定結果が安定しない」
「空間が歪んでいる」
「分かる?」
「体感で」
AIが、内部で警告を出す。
《空間変動:継続》
◆
二人で進む。
俺は前。
ミラは後ろ。
「止まって」
彼女が言う。
「今の反応、
罠じゃない。
誤検知」
「鑑定が騙されてる」
「ええ」
ミラは、舌打ちした。
「嫌な場所」
◆
奥へは、行かない。
二人とも、同じ判断だった。
「今日は、ここまで」
ミラが言う。
「十分だ」
帰路。
ミラが、ぽつりと言った。
「ねえ」
「何だ」
「あなた、
世界を“数字”で見てる?」
一瞬、間が空いた。
《応答選択:注意》
「結果を、数で整理してるだけだ」
嘘ではない。
ミラは、それ以上踏み込まなかった。
「いいわ」
「深入りはしない」
それが、彼女の流儀らしい。
◆
ギルド。
報告。
ミラの鑑定結果と、
俺の地形判断が、噛み合う。
「……助かる」
受付の男が、素直に言った。
銀貨三十枚。
机に置かれる。
重い。
《収支:安定増加》
◆
外に出ると、
ミラが足を止めた。
「しばらく、組まない?」
「理由は」
「あなたといると、
情報が壊れない」
それは、最高の評価だった。
◆
夜。
宿で、俺は考える。
ミラは、鑑定士。
情報屋。
つまり――
世界を“値段”で見る人間。
《新要素:
情報の市場価値》
AIが、静かにログを残す。
(……次の段階だな)
討伐でも、踏破でもない。
世界を、持ち帰る仕事。
冒険者という立場で、
できることは、もう見えてきた。
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