第1話 転生者は、静かに計算する
魔法の威力がすべてを決める世界で、
俺は「当てること」だけを選んだ。
異世界に転生した少年レイは、
なぜか頭の中に“数値で世界を解析するAI”を宿していた。
魔力量は平均以下。
派手さもない。
だが――
魔法の精度だけは、異常だった。
王立魔法学園では、
威力至上主義の評価制度の中で「実戦不向き」と切り捨てられ、
親友を理不尽な事故で失う。
生き残るために学園を去ったレイは、冒険者となり、
鑑定・地形把握・ダンジョン解析・魔力管理で頭角を現していく。
やがて領地運営、国家運営へと関わり、
世界を管理する“神”の正体に辿り着いたとき――
AIは、単なる補助知性ではなくなる。
これは、
派手な力を持たない男が、
最適解だけを積み上げて世界の上位概念に辿り着く物語。
生まれ変わったと自覚した瞬間、
俺は泣きもしなければ、叫びもしなかった。
理由は単純だ。
――それどころではなかった。
視界の端に、見慣れない数字が浮かんでいたからだ。
《魔力循環率:42.8%》
《神経同調誤差:+18.1%》
《身体年齢:15.2》
……なんだ、これ。
文字は空中に固定され、瞬きをしても消えない。
だが、不思議と恐怖はなかった。
むしろ、理解できる気がした。
(ああ、これ……“補助”だ)
名前も、声も、人格もない。
ただ淡々と、現状を数値で示してくる“何か”。
俺はそれを、心の中でそう呼んだ。
――AI。
◆
場所は、王立魔法学園の入学式だった。
石造りの大講堂。
天井には光を集める魔法陣が張られ、昼間でも星空のように輝いている。
周囲を見渡せば、豪奢なローブに身を包んだ貴族の子弟。
魔力に満ちた空気に、誰もが誇らしげな顔をしていた。
その中で、俺だけが浮いている。
粗末な制服。
魔力測定前から、値踏みするような視線。
――貧民街出身。
それが、この場ではすでに「減点」だった。
◆
「次、レイ・アルトナー」
名前を呼ばれ、前に出る。
水晶球に手を置くと、魔力が数値化されて表示された。
《魔力量:平均以下》
講堂が、わずかにざわつく。
「ふん……」
「やっぱりな」
「入学枠の無駄だろ」
予想通りの反応だ。
だが、その瞬間――
《詠唱安定度:92.4%》
《魔力制御精度:上位3%相当》
……なるほど。
俺は内心で、静かに納得した。
(威力はない。
でも、外さない)
それだけだ。
教師は眉をひそめ、一言だけ告げた。
「……次」
評価はそれで終わりだった。
◆
席に戻る途中、背後から声をかけられる。
「なあ、お前」
振り返ると、短髪で人懐っこそうな少年が立っていた。
「俺、カイル。剣士科だ」
剣士科。
つまり、魔法が使えない側。
この学園では、半端者扱いされる立場だ。
「……レイ」
名乗ると、カイルは笑った。
「よろしくな。
さっきの測定、悪くなかったと思うぜ」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
(今のを“悪くない”と言うやつがいるのか)
AIが、淡々と数値を更新する。
《対人評価:敵意なし》
《信頼形成確率:67.2%》
……妙な感覚だった。
この世界に来てから初めて、
計算ではない温度を感じた気がした。
◆
講堂の最前列。
そこだけ、空気が違う。
青銀の髪を揺らし、悠然と立つ少女。
魔力量測定で、明らかに異常な数値を叩き出した存在。
エリナ・フェルシュタイン。
周囲が息を呑み、教師すら声を失うほどの“天才”。
彼女は一瞬だけ、こちらを見た。
いや、正確には――
俺の数値が表示されていた水晶球を。
興味は、すぐに失われた。
視線が外れる。
《観測:無関心》
《相互干渉:発生せず》
それでいい。
今は、まだ。
◆
入学式が終わり、廊下を歩きながら、俺は心の中で問いかける。
(お前は、何者だ)
返答はない。
代わりに、数値が浮かぶ。
《質問:定義不足》
《提案:観測を継続》
……相変わらず、愛想がない。
だが、悪くはなかった。
感情も、期待も、裏切りもない。
ただ現実を、正確に示す存在。
(それで十分だ)
俺は、静かに前を見据える。
この世界は、
才能と血筋と神話で回っているらしい。
だが――
精度なら、
計算なら、
積み上げなら。
まだ、勝負は終わっていない。
AIの数値が、微かに変動した。
《目標未設定》
《学習フェーズ:開始》
俺は笑わない。
叫びもしない。
ただ、静かに計算を始めた。
――ここから先を、生き残るために。
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