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聖女様は、こう仰せです

作者: 赤戸まと

 

「◯△□X! ◯△□X!(聖女召喚に成功したぞ!)」


 ふぇ? さっきまで、中庭でお弁当食べてたのに、ここはどこ?

 突然足元に魔法陣みたいなのが現れて、気付いたら知らない場所にいた。


 きらびやか……ってほどでもないか。かつては華やかだったっぽい部屋に、ローブや正装のおじさんたちがなぜか私を取り囲んで叫んでる。

 喜んでるみたいだけど……何語!? 何言ってるかぜんぜんわかんない!

 もしかしてこれ、ラノベとかで読んだことある異世界召喚!?


 言葉が通じてないと、わかってもらえたらしい。

 おじさんたちは戸惑っていたけれど、その中から一人、見目麗しい青年が前に出た。


 うわ、すごいハンサムさんだ。サラッとした金髪にキラキラした青い瞳。優しい微笑みを向けられたので、思わず顔を反らしてしまった。無理無理、耐性がないんだよ。


「◯△□X……◯△□X……コニチワ……◯△□X」


 あっ、今こんにちはって言った? この人なら言葉、通じる?


「こっ、こんにちは!」


 思わず大声を出したら、ハンサムさんはちょっと驚いた後、すごい笑顔で大きく頷いた。


「ワイノ言葉、ワカラヘン?」

「わ……わかります」


 ちょっと訛ってるけれど、通じるっぽい。

 それで、ここはどこで私がどうしてここにいるか、説明してもらえるのかな?


「ワイノ名ハ、ルーク。アンタハ、聖女様ヤカラ、召喚サレタンヤデ」


 私が、聖女!? 違うよ、ただの女子高生だよ。何ならヒエラルキーの下の方の。今日だって、お昼休みに隠れるように人気(ひとけ)の無い中庭でお弁当食べてたんだから!

 べつにいじめられてるとかじゃないんだけど、いっつもおどおどしてるから、まわりから一段下に見られがちなんだよね。

 そんな私が聖女なわけないよ!


「ホンデモ、召喚ニ反応シタンヤカラ、聖女ヤデ?」


 うーん、ハンサムさん、顔と口調があってないなあ。


「◯△□X! ◯△□X!(おい、聖女様にキチンと説明して差し上げろ!)」


 一番地位が高そうな人がハンサムさん――ルークさんだっけ――に何か言ってる。服装からして、王様かなあ? げっそりとして、困ってるっぽいけど、私に何をさせようっていうのだろう?


「コノ国ハ今、魔物ノ脅威ニ晒サレテンネン。聖女様ニ、国ヲ護ッテ欲シインヤ」

「そんな! 魔物と戦うなんて無理! 元の世界に返して!」


 私の言葉に、ルークさんは驚いたような、感心したような顔をした。


「◯△□X! ◯△□X!(聖女様は、何ておっしゃってるんだ?)」

 王様たちがルークさんに問い詰めてる。通訳するように言ってるんだろう。しっかり通訳してね、ルークさん!


 ルークさんはお偉いさんたちを見渡して、私の言葉を通訳した。

「◯△□X! ◯△□X!(聖女様は、こう仰せです――魔物ごとき、元の棲み処に叩き返してやる! と)」


 一瞬の静寂の後、室内に集まった方々の歓声が爆発した。


「「◯△□X! ◯△□X!」」


 えっ、えっ? 何で? 元の世界に返して、って言っただけなのに。ルークさん、ほんとにちゃんと通訳してる? 皆さんすごい笑顔で興奮してるんですけど?


 この盛り上がりで収拾がつかなくなって、私は別室へ連れて行かれた。


 すごく豪華な部屋。天蓋付きのベッドまであるよ。さっきまでいた謁見の間みたいなところよりも豪華だ。侍女さんみたいな人も付けられて、今、お風呂でくつろいでいます。

 私、本当に聖女扱いされちゃってる……。どうしよう!


 ***


 結局あの部屋で一晩泊まった。人生初の天蓋付きベッドで、ぐっすり寝ちゃったよ。

 うわあ、元の世界には、帰れないのかなあ。


 今日は、場所を移して大聖堂みたいなところに連れて行かれた。


 司教様や綺麗なシスターさんたちに傅かれて、居心地がとてもよろしくない。そしてやっぱりルークさんもいる。

 朝早いのに流れるようにサラサラした金髪が輝いてる。ふぁ、やっぱりかっこいいなあ。

「今日ハ、聖魔法ノ訓練ヤデ、ガンバリヤ~」

 この妙な訛りが無ければね。


 司教様に私の見定めをしていただいたんだけど、本当に、私に聖女の力があるらしい。

 ルークさんの通訳を通して司教様に指導してもらったら、ちょっとした結界のようなものが張れるようになった。この結界は魔物の力を弱め、逆に人間の活動力を高める効果があるんだって。そして、戦場を覆うような巨大な結界を貼るには、聖女でないとできないらしい。


 どうやら私が直接魔物と戦うんじゃなくて、実際に戦う冒険者や騎士たちを支援する役割みたい。それなら、何とかやれる、のかな?


 この結界を長時間維持させることが、今の私の課題だ。

 だけどこれ……すっごくお腹が減るのよ! 今朝から何も食べてないのに!


「もう……だめ。お腹すいた。朝ご飯食べさせて……」


「◯△□X……(大丈夫でしょうか、聖女様は何と?)」

 司教様が私を見て心配そうにしてたけど、ルークさんはいい笑顔でぴしゃりと答えた。


「◯△□X!(こんなの朝飯前だ! と、おっしゃっています)」


 ***


 訓練も数日が経過した頃、ようやく私の結界も及第点になってきた。そんな時、兵士たちの様子が慌ただしくなった。

 関係者が例の謁見の間に集められ、報告会が催された。


 ルークさんの通訳によると、魔物の大群が、この王都に向かって押し寄せているとのこと。その数、約三千体。

 それって、ラノベで読んだことがある。


「うわあ、スタンピードじゃないですか!?」


 つい大声をだしてしまった。論争していた大臣さんたちの注目が集まる。三千体という前代未聞の大群に対して、いったい聖女様は何とおっしゃられたのか。

 ルークさんは、両手のひらを上にして、私の言葉を通訳した。


「◯△□X(まあまあ、スタンダード?)」


 何て訳したのか知らないけれど、大臣さんたちは居を正して、私に向かって涙を流しながら拍手をした。何で?


 事態は私の意思を無視して、淡々と進んだ。


 聖女の正装に着替えさせられて、兵士たちを率いて城下街を行進する。


 神輿のようなものに乗せられて、街の人の歓声を受けとめる。けれどなんだか兵士の方々の足取りは重い。これから決死の戦いに赴くんだ。民衆も懸命な歓声の奥に、怯えや恐怖を覆い隠そうとしているのが伝わってくる。


 私が失敗すれば、魔物がなだれ込んできてこの人たちがみんな危険に晒されてしまう。怖いけれど、この日のために訓練したんだ。隣にルークさんもいてくれる。頑張らなきゃ!


 ルークさんから、兵士や街の人に向けて激励の言葉が欲しいと促された。


 ええ~、そういうの、苦手なんだけどなあ。でも、これから魔物と対峙するのに、こんなことで尻込みしてちゃだめだよね。

 腹をくくって、私はあらん限りの声を張り上げた。


「えっと、あの、私一人では何も出来ませんが、皆さんはせめて戸締まりをしっかりしておいてください!」

「◯△□X!(私一人いれば魔物に何もさせない! 兵舎や冒険者ギルドなど入口を施錠しておけ!)」


「兵士の皆さんも、怪我の無いように、気をつけてくださいね」

「◯△□X!(兵士ども! もたもたしてたら怪我をするぞ! 私の邪魔をしないよう気をつけろ!)」


「魔物たちは、私が精一杯食い止めますから、あとは皆さんにおまかせします!」

「◯△□X!(魔物どもを腹一杯喰らい尽くしてやる! お前らはその後始末だ!)」


 みなさん笑ったり怒ったりしてるけど、士気は高いみたい。ルークさんもちゃんと訳してくれたみたいね。

 そうしていると、とうとう城下町の門の外までやってきてしまった。


 うわあ……まだ遠目だけど、すごい大群がやってきてる。

 ゴブリンに、オークに、オーガ。定番のモンスターたちだよ。


 ゴクリ。


 ギリギリまで引き寄せて、私は結界を発動した。

 東京ドーム1個分(適当)くらいの結界が城門前に完成し、その中を兵士や騎士たちが魔物たちに向かって飛び出していく。みんな、頑張って!


 戦況はこちらの優位に進めているみたい。だけど、問題は私の結界が最後まで保つかどうかだ。

 結界の維持にお腹が減るっていうのは伝えてある。ルークさんに。


 だから、私の前に次々と料理が運ばれてくるよ。

 美味しい!

 食べながらでも結界は維持できるので、戦ってるみんなには申し訳ないけれど食べちゃう。

 こんなに食べたら太ってしまいそうだけど、食べた分は次から次へと魔力として結界に流れ出るから大丈夫、のはず!


 こんな戦場によくこれだけ食材があったなあ。これ、なんのお肉だろう? 豚肉っぽいかな?


 目の前で、兵士がオークを斬り捨てている。その屍を、何故か後方支援の方々が運んでいくけれど?

 うん、あまり考えないようにしよう……。


 ***


 無事、魔物の襲撃を乗り越えることができた。みなさんの頑張りのおかげだ。


 その夜、盛大に宴が催された。

 私も聖女として、主役みたいに持てなされたよ。あ、お肉はもう結構です。

 私がなにか言うたび、ルークさんの通訳で盛り上がるんだけど、もういいや。ここの人たちはこういう国民性なのだろう。


 今回の討伐で、魔物の親玉を討ち取ることができたらしい。これでもう魔物に悩まされることも無いんだって。めでたしめでたし。


 そして、私も元の世界に戻ることになった。良かった、ちゃんと送り返してくれるんだ。


「オオキニナ、マタキテヤ!」

 いちばんお世話になったルークさんとがっちり握手を交わして、魔法陣から旅立った。

 そういえば、最後の方ではルークさんの顔もしっかり見れるようになってたなあ。


 戻ってきたら――あっ、中庭だ。ちょうどお弁当を食べ終わったところ。こちらでは時間は全く進んでいなかったってこと?

 夢とかじゃあ、ないよね。 ルークさんの手のひらの感触も、しっかり覚えてる。


 次は体育の時間だ。はやく着替えてグラウンドに行かなきゃ。


 午後の授業中も、まだ夢の中にいる気分でふわふわしてる。

 私、異世界に行ってきたんだなあ。


「おい、何をぼーっとしてるんだ! 次はお前の番だぞ!」

 いけない、先生に怒られた。まわりのみんなもクスクス笑ってる。今は体育の、走り高跳びの時間だ。

 ん? 以前までは走り高跳びなんて怖くて怯えてたけれど、ぜんぜん怖くないぞ?


「どうした? またいつものへっぴり腰かあ?」

 先生が私をからかって、クラスメイトも何人かニヤニヤしてる、いつもの空気だ。


 だけど、こんなのオークやゴブリンに比べたら!


「いーえ! こんなの、朝飯前ですよ!」


 胸を張って言ってやったわ。先生もクラスメイトもびっくりしてた。

 まあ、跳んだら普通に失敗したんですけどね。


 マットの上で大の字になって、私はあはは! と笑った。


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