なかよく
第2話です!
ある日、慎二くんに「明日暇?」と言われた。
「暇だけど何かあるの?」
私はわくわくしながら言った。
「明日、俺の友達と一緒に出かけるけれどたな……結月は行く?」
私はとても驚き、言葉が出なかった。何がって? 急に推しに誘われたからだ。二人で出かけないのは残念だったが、誘われたのが嬉しかった。
「え? 良いの!? 行きたい!」
私は目を輝かせながら言った。
「じゃあ七人で決まりか」
そうか。慎二くんには五人の友達がいたんだ。私は「羨ましいな」と思いながらアニメを観ていたんだった。
今日は、七人で出かける。
人見知りで話せるかな、と私の心の中はわくわくと不安の気持ちでいっぱいだった。
「暑いなぁー」
慎二くんの友達、光くんが手で顔を仰ぎながら言う。
今は秋。夏のような暑さだ。
「あ、ねぇ、田中さん。好きなタイプは?」と光くんが訊いてきた。何も話すことがなかったのだろう。だけど「慎二くん」とは言えない。
どう答えようかと迷っていた時、光くんの隣にいた淳司くんが「答えなくていいぞ。その前に自己紹介しろよ」と言った。
だけど、折角私に話しかけてくれたのだから、と思い控えめに「優しい人かな?」と答えた。
「ふーん。あ、俺は澄川 光。こっちは山形 淳司でこっちが辻道 明でその隣が川淵 遥、その隣が江利山 由依」と紹介してくれた。
私は全員に「よろしく」と言った。
「ねぇ、私、服屋さんに行きたいんだけど、いいかな?」と遥ちゃんが言った。
「いいよ」とみんなは言った。
「ここが一番おすすめなんだー」と私に向かって遥ちゃんは紹介する。
「へぇー」
二階建ての白い建物で、こげ茶色の屋根。一階は服屋で、二階はカフェらしい。店内は、こげ茶色の木の床で暗い白の壁。
遥ちゃんは色々な服を見て、「うーん」と何か考えている。
数分後、遥ちゃんは上下の服を持ってきた。
「ねぇ、結月ちゃん、これ着てみて! 絶対似合うから!」と、服を渡された。
少し着丈が短く、胸辺りに英語で何か書かれている白いTシャツと、明るめの色の少しダボっとしているダメージジーンズだった。
「これでいいかな?」
試着室のカーテンをゆっくりと開け、私は言った。
「めっちゃ似合ってる! あと帽子着けてみて!」
渡された帽子はベージュ色で筆記体で刺繍されていた。
「こ、こう……?」
周りから見つめられて私は恥ずかしくなった。
「いいね! いいね! じゃあ、サンダル!」
「いいね! 次はネックレス!」
「指輪!」
と次々にお願いされ、私は困ったが、嬉しかった。
「これでいい……?」
「いい! めっろや似合う!」
みんなも、うんうんとうなずく。だけど慎二くんは、そっぽを向いていた。私は少し慎二くんの顔が赤くなっているのに気付いた。
私は目を逸らし、反射的光くんを見た。光くんは腕時計を見て、驚いた顔をした。何だろう? と思って見つめていると
「もう四時回ってるぞ!」と光くんがみんなを見て言った。
「じゃあ、もう帰るか」
「そうだね。私はここで」
「俺も」
残ったのは慎二くんと私だけだった。
(気まずいな……)
そう思った時、慎二くんが口を開いた。
「楽しかった?」
「うん。すごく楽しかった」
……あ、そうだ。戻る前にこれたけは言っておきたかったんだ。
私は立ち止まり、少し改まった口で言った。
「あの、私、三次元から来て……。その……」
慎二くんが不思議そうに首を傾げる。
「中学生なんだ」
そう言い終えると、私は少し彼の反応が怖かった。
──距離を置かれるかもしれない。
──もう一生話してもらえないかもしれない。
そういう思いが私の頭をよぎる。
「あの……」
「そっか」
慎二くんは空を仰いだまま、ただそれだけしか言わなかった。
期待していた反応と少し違かったけれど、それで良かったのかもしれない。
「家が見えてきたな」
彼は微笑んで歩き出す。
「そうだね」
少し寂しい気持ちになったけれど言葉にせず、そっと心の奥にしまった。
家に着き、私は「じゃあ、また明日」と言って軽く手を振った。
「またな」
彼は優しい笑みを浮かべながら手を振り返し、ゆっくりと歩いていった。
私は、彼が見えなくなるまで外に居た。
今日の夕焼けは一段と綺麗だった。
雲一つない青空の下、私たち七人は他愛もない話をしながら学校へ向かっていた。それはいつもの光景だが、私にとっては大切な時間だ。
「みんなと話しながら学校に行くと早く感じるね」
私がそう言うと、にこにこしながらみんなは頷く。
教室に着き、荷物整理を済ませた数分後、ホームルーム前のざわめきの中で、慎二くんの落ち着いた声がした。
「ノート、見せてくれない?」
私は「うん、良いよ」と迷いなく言った。普段は課題を完璧にこなす彼が、私にノートを借りるなんて珍しい。
ノートが返ってきたのは一時間目の途中だった。今回の課題はいつも以上に量があった。普通なら二十分くらいで終わるはずの課題だが、今回は四、五十分かかった。
「ごめん。遅くなって」
小声で謝る彼に、私もつられて「ううん。大丈夫。課題やってこないって珍しいね」と小声で言った。
「忙しかったんだ」
そう言った彼の顔が、少しだけ疲れているように見えた。その時、「田中、作山さくやま」と先生の注意する声が教室中に響いた。みんなはビシっと背筋を伸ばした。
私たちは顔を見合わせ、くすっと笑い合った。その瞬間、なんだか二人だけの秘密ができたみたいで嬉しかった。
授業が終わり、休み時間。ノートを開くと慎二くんの丁寧な字でノートの端にメッセージが書かれていた。
『ノート貸してくれてありがとう。話したいことがあるから休み時間、俺の席に来てくれない?』
私は何故かドキドキしていた。何で呼ばれたか分からないのに。
私は胸を押さえながら慎二くんの席に向かった。慎二くんは本を読んでいた。
彼はすぐに私に気付き、本を閉じ、そっと立ち上がった。周りをきょろきょろ見て、「ちょっと移動しよう」と言って私の腕を掴んだ。
「あ、あのさ、私、忘れ物があるから取りに行ってもいいかな……?」
そう私が言うと「いいよ」と彼は言い、掴んでいた私の腕をそっと離した。
「用意できたよ」と私が言うと、今度は私の手を優しく掴み、早歩きで教室を出た。
教室はいつもよりざわざわとしていた。視線が私たちの方に集まっていくのが分かった。
「ちょ、ちょっと、みんな見てたよ」
私は慌てた言うが、慎二くんはにっこりと笑っていた。
「大丈夫」
そうして私たちはあまり使われていない階段の踊り場に着いた。
彼の顔は、先ほどの眩しい笑顔とはまるで違う、真剣な表情を浮かべていた。
「あのさ、結月は三次元から来たんだよな。だから、俺を忘れないようにこれを作ったんだ」
……忘れないように?
手渡されたのは慎二くんの手作りらしい、小さなお守りだった。
「ありがとう。……あと、私からもあるんだ。最近頭痛や目眩がして元の世界に戻りそうな予感がするんだ。だから“忘れないように”これ、あげるね」
そう私は言ってシャーペンと手作りのお守りを差し出した。
「被っちゃったね」
私たちは顔を見合わせ、笑い合った。
その後、二人で話をしながら教室に入った。
第3話もよろしくお願いします!




