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皇国騎士第六席の息子として産まれたロダは、親の指導もあり早い段階で剣の才能を開花させていた。同時に類まれな戦闘センスを持ち、周囲からは天才ともてはやされて育った。彼自身も腕に絶対的な自信を持ち、そのまま皇国の戦闘員養成施設を卒業すると、すぐに全ギルドを統括するギルバードからその才を認められることになる。
数年前のその日、ロダは統括に呼ばれ彼の元を訪れた。
「貴殿の父、皇国騎士第六席が退くことになった。これにより、第七席以下の序列が繰り上がり、第十二席に空きができる」
その言葉にロダは少々戸惑いを顕わにしたが、ギルバードは彼の目を見て話を続ける。
「ロダ、私は貴殿にその席を与えたいと考えている。父の頼みでは決してなく、私自身の判断だ」
「僕が、十二席……」
「その歳で席が与えられれば歴史上でも最年少となるだろう。皇国中にその名が轟くぞ」
「ありがとうございます。正直まだ、実感が湧きませんが……」
「すぐに定着する筈だ。そして貴殿の実力であればより上を目指せる。いずれ父をも超える剣士になると、私はそう信じている。剣帝ロダ。今後の活躍に期待を込め、貴殿にその称号を与える」
「け、剣帝……」
「そしてもう一つ、私から個人的に頼みたいことがある」
「はい、なんでしょうか……」
「皇国流を完成させてもらえないだろうか。皇国流剣術、過去に何度も試案されたが、いまだ完成には至っていない。しかし、これからの皇国にとっては必要な流派だ」
「それは……流石に僕では荷が重すぎます。もっと適任が居るのではないですか?第四席、第一席、第五席でも……」
「第一席は我流を極めすぎた。第四席は異才だ。通常の剣術をあまり扱わない。第五席は一刀では戦わない。ロダ、貴殿の剣は誰よりも基礎を重視し、小さな技術を少しずつ積み上げた、万人の模範と言えるものだ。そこに生まれ持った才能など関係なく、努力した者が辿り着ける境地。皇国流の考案は貴殿にこそ相応しいと言える」
「し、しかし……」
「皇国の未来のため、剣士に道を示してほしい」
「……話は分かりました。まずは勉強からさせてください。その上で、できることからやってみます」
会話の後、統括はロダにこれまでの皇国流剣術について記された様々な書物を紹介した。ロダは熱心に勉強を重ね、席を退いた父にも協力を仰ぎ、それから凡そ百日余りで一つの技を形にしたのだった。
昨年の闘技大会予選、ロダは第一席からその枠を奪うために参加を表明した。
試合当日、ロダは初めてその男、皇国騎士第一席と対峙する。
無刀流の称号を持つ皇国最強の剣士。彼は僕の前に立つと、退屈そうに腕を組んだ。試合開始の合図が鳴り僕が剣を構えても、彼は腕を組んだままそこに立っているだけだ。
「どうした?始まっているぞ」
彼の言葉にロダが一歩踏み込むと、その瞬間彼の手に握られていた筈の剣が後方へ弾き飛ばされた。ロダには何が起きたのか理解できず、少しの間呆然としその場に佇んでいた。
第一席は再びロダに声をかける。
「終わりか?それとも、まだやるか?」
ロダは無防備に背を向けて剣を拾いに向かったが、第一席は攻撃を仕掛けてこない。多くの観客が見守る中剣士として恥を晒し、それでもロダは再び剣を手に第一席の前に立った。
そして、剣を利き手ではない方に持ち替える。
「もう少しだけ相手をしてください。僕には使命がありまして、今日ここに立っているのはそのためなんです」
「ほう?」
「これから一つの技を試します。まだ試作段階ですが、貴方に通じなければ意味が無い」
「面白い。受けよう」
ロダはその場で第一席の間合いに入らないよう注意して、剣に気力を集中させる。そして踏み込みと同時に突きを放つと、剣が貫く空間に僅かな歪みが生じた。闘技場には剣と剣がぶつかる音が確かに響いたが、気づくとロダは斬られその場に倒れていた。
「剣帝か……。これからが楽しみだな」
第一席はそう言い残し、ロダに背を向けた。
翌年の闘技大会予選、ロダは参加しなかった。アランという知り合いを誘って試合を見学し、そして大会当日、まさにそのアランと、大会とは全く別の場で対峙することになる。アランは実力でロダを圧倒し、攻防の末にロダは利き腕を斬り落とされた。
アランはロダに背を向け立ち去ろうとするが、ロダは床に突き刺さった剣を利き腕とは逆の手で引き抜く。
「まだ未完成なんだけどな……」
ロダの言葉にアランは立ち止まり、ため息を漏らした。
「もう立たなくていい……。君に勝ち目はないよ」
「そうだね……。だから今成長するしかないんだ。勝ち目なんかなくたって、勝たなきゃいけないんだからさ……」
ロダは剣に気力を込め、大きく一歩踏み込むと、渾身の力で突きを放った。剣はアランの体を空間ごと切り裂き、彼の体の中心に風穴を開ける。
皇国流剣術最初の技、刺空。奥義体得の瞬間であった。




