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闘技大会当日、急遽大会の延期が発表された。理由は公表されなかったが、その日の夕方になって知ることとなる。
僕は女帝に呼ばれ、彼女の座る玉座の前で跪いた。
「先ほどカオスブラッド両勢力が皇国への侵攻を開始した」
彼女の言葉を聞いて僕は全てを悟った。ブラッド統括アスラの狙いは、闘技大会開催による皇国主戦力の消耗だ。大会では皇国騎士同士が激しくぶつかることが予想されるため、その日に合わせて侵攻すればブラッド側が大幅に優勢となる。僕とルークの試合を見て思いついたのだろうか、分からないが、結果的にその策は失敗に終わったようだ。恐らく僕の送った文書の内容がシルヴィアから統括ギルバートへ伝えられ、ブラッドの策に勘付き大会を延期したのだろう。
もしそうだとしたら、大会に出場が予定されていた皇国騎士たちは、現在カオスブラッドの部隊を返り討ちにするため国境付近の街に配備されている可能性が高い。第十三席である僕が何も知らされずここに居るのは、僕がまだ彼女にさえ信頼されていないことを意味する。
皇国へ来て以来、ずっと彼女の指示に従ってきた。彼女の功績のために動き、支え続けた。女帝にまでなれたのも僕の力あってこそだというのに。皇国での日々、その全てが幻だったようにも感じる。
女帝は教団の力を開放して僕を見つめると、周囲に待機していた騎士たちに指示を出した。騎士はすぐさま僕を取り囲み、そして剣を抜く。
女帝は一度悲し気な表情を見せると、静かに口を開いた。
「アラン……どうやら信頼は潰えたみたいだね。今までありがとう」
僕は懐からルインブラッドの仮面を取り出すと、ゆっくりと立ち上がりそれを被った。
「こちらこそありがとうございました。僕はこれから王都を落とします。ですが安心してください。取るべき首は貴女じゃない。その首に価値が無いことを僕は知っていますから」
僕が銀の剣を握ると、女帝の表情が明らかに曇った。周囲の騎士たちも少しずつ後ずさりしていく。
「力量差の分かる優秀な方が多いようで良かった。無駄な血が流れずに済みます。さようなら、シルヴィア様。貴女に仕えることができて良かった」
城の広間へ降りると、そこに統括ギルバードの姿があった。
僕は彼に銀の剣を向けたが、彼は動じずに口を開く。
「アランだな?私の首を取りに来たのか?」
「はい。僕を皇国に迎えて頂きありがとうございました。とても良い経験になりました」
「私の方こそ礼を言いたい。女帝と共に奔走し、皇国の民のために戦ってくれたこと、本当に感謝している。だが、戦争状態となった今、私の首は重い。簡単に差し出すわけにはいかない」
「僕に勝てますか?失礼ですが、その歳で現役とは思えない」
「そうだな。私では君に勝てない。ロダ、出番だ」
統括の言葉に、後方で待機していたロダがその場に姿を現した。
「席を持つ他の騎士は皆出払っている。今は貴殿が最後の砦だ。アランの首を取り、王都を守れ」
ロダは僕の前に立ちふさがると、腰の剣を抜き放つ。
「承知しました。必ず、遂行してみせます」
ギルバードはこの場をロダに任せて立ち去った。
ロダは剣を上段に構え、少し口角を上げた。
「さあ……やろうか、アラン」




