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その日から皇女に仕える日々が始まった。彼女が外出する際は必ず護衛として同行し、それ以外の時間は城でジークの手伝いをした。休養日も設けてもらい、そういった日は体を休めるか、皇国領内を自由に歩き回り情報を集めることもできた。
ある日僕は皇女とともに統括ギルバードと接見した。
ギルバードは四勢力を代表する指導者の中で最も長くその地位についている。歳も恐らく五十を超えており、相応の貫禄を放っていた。
『アラン様、所有者です。オーディン教団、場を掌握する力のようです』
彼も所有者か……。指導者の立場とはいえ、自身の実力も相当のようだ。
「これはシルヴィア殿。そちらは?」
「私の劔です。立派でしょう?」
「劔……?」
「ジークの代わりと思っていただければ。今後私の公務には彼を同行させます。それから、ギルドの依頼を一部私の方へ回してもらえませんか?少しでもあなた方のお手伝いができればと」
「ほう、なるほど。そういうことですか……。分かりました。依頼書は誰に宛てれば?」
「私に直接で構いませんわ。どうぞ存分に試して下さい。王家の血も捨てたものではないと、証明してみせます」
「それは頼もしい。依頼は私の方で調整しておきましょう」
「お願いしますわ。貴方の方からは何かありますか?」
「そうですね……彼とも一度話をしておきたいのですが、よろしいですか?」
「……ええ、構いませんわ。では、私はこれで」
皇女が去り、僕は統括と二人でその場に残った。
彼は読めない表情のまま口を開く。
「皇女の劔よ、名は?」
「アランといいます」
「アラン……そうか、お前がブラッドの……。皇女を欺くことはできない筈だが?」
「そうみたいですね。彼女の指示に背く気はないということです」
「目的はなんだ?」
「皇女の手助けですよ。少なくとも今はそれだけです」
「ならば、私もお前のその意思を存分に利用させてもうらぞ。これからは皇女の望むまま、皇国に貢献することになるだろう」
「それで構いません。僕は僕の判断で動きます。例え皇国の利益になろうと、ブラッドの不利益になろうと、それは僕の判断基準にありません」
「読めないな……しかし不気味さもない。お前は何を考えている?」
「特別なことは何も。ただ世界が平和であってほしい。僕の考えはそれくらいです」
後日、約束通り皇女の元にギルドから依頼書が届き、僕は彼女と二人でそれを見ていた。
内容はAランクの魔物、ガイアドラゴンの討伐隊参加要請。皇国騎士第四席、覇剣のリサ率いる部隊との共闘。
皇女は悔しそうに拳を握った。
「Aランク……。最初からこんなの回してくるなんて……」
「この依頼、どうして共闘になっているんでしょうか」
「Aランクともなれば、席持ちの騎士が二名以上派遣されるのが普通よ。第四席は以前、ある一件のせいで皇国内での信用を失っているの。それで共闘相手が見つからず、依頼を回されたのでしょうね」
「そうですか……ある一件って、もしかしてE地区の……」
「あら、知っているの?皇国領民としてはε街と言ってほしいところだけど」
「第四席の率いる部隊が、ブラッドの二人を相手に撤退を強いられた件ですよね?」
「詳しいのね。その通りよ。ブラッド内でも有名な話なのかしら」
「有名というか、そのブラッドの二人の内一人が僕ですから」
「……え?聞き間違いかしら。今なんて?」
「第四席を退けたブラッドの一人が僕です。でも、実際に戦ったのはもう一人の方で、僕はサポートしていただけですけど」
「嘘でしょ……?ちょっと信じられないんだけど……。というか、それが本当なら別の意味で受けられないじゃない。顔は?知られてなかったりする?」
「知られています。そのときはまだルインブラッドの一員ではなかったので。彼女と対峙したときは仮面をしていませんでした」
「じゃあどうするのよ。仮面付けて同行するか、やっぱり別の依頼にしてもらう?」
「いえ、引き受けましょう。リサさんも皇国内で騒ぎを起こしたくはない筈です」
「そうね……。まあ、最悪私が仲裁するわ。じゃあ、ついてきて」
「どこへ行くのですか?」
「ちょっと運動よ。付き合ってくれるでしょ?」
皇女は運動用の服に着替えると、木刀二本を手に城の庭へ降りた。
彼女は木刀の一本を僕に手渡し、間合いと取る。
「剣を教えて。私も少しは振れるようになっておかなきゃ」
「えっ……シルヴィア様も戦うのですか?」
「どういう状況になるか分からないでしょ?念のための備えよ。貴方の力も見ておきたいし。第四席を退けた、その力をね」
「ですから、僕はただサポートしただけで……」
「さあ、来なさい。これも仕事よ」




