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僕たちは世界の歴史を学び、研究の必要性を理解した。ブラッド統括が危惧する未来は、魔物によって人の歴史そのものが終わること。幾度となくそれを回避してきた過去に習い、統括は同じように異形の研究を進めているに過ぎない。より長い目で未来を見た時、その研究は人類にとって再びの救済となる可能性が高い。
アイカはルインブラッドに捕縛され牢に入れられたが、統括から言い渡されたのは禁固三十日という極めて軽い刑だった。彼女の改心への期待とその実力を買い、刑を終えたらすぐにルインブラッドの戦闘員として使うつもりだろう。
ついでに僕も禁固一日を言い渡された。統括の指示に背き、彼に剣を向けた罪だ。一日の刑期を終えルインブラッドの拠点へ戻ると、いつものように統括が居て、彼は笑顔でを僕を迎えた。
「おう、アラン。罪滅ぼしは済んだか?」
「え……あ、いえ……。すみませんでした。僕は、これからも……その……」
「今回の件だが、俺のお前に対する信頼が崩れる程のことじゃねえ。中途半端な知識でその場の正義感に駆られた人間を必要以上に罰する気もねえ。俺の気持ちとしては今まで通りだ。期待してるぜ。お前と、お前の妹にもな」
「はい……。ありがとうございます……」
「しかし、ゼノが死んでいたとはな……。なあ、お前も知らなかったんだろ?」
赤い髪の男が地下から上がってきて、カウンターの椅子に座った。彼は頷くと、顔を覆っていた仮面を外す。素顔を見るのは初めてだったが、目は統括と同じように黒く染まっており頬には大きな黒い痣がある。
「ああ、知らなかった。あの男がその意志を他人に継がせていたことも。アラン、せめて俺から謝罪させてくれ。すまなかったな。俺の父親が、お前の家族を間違った方向へ向かわせてしまった」
「いえ、そんな……。僕の方こそ、妹が大変なご迷惑をおかけしました。怪我はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、既に完治している。顔のこれは生まれつきだ」
「遺伝、ですか……」
「そうだな……。まあ、お前が不安に思う必要はないだろう。いずれ子を授かっても俺のようにはならない」
「そ、そうでしょうか……」
「お前の目はまだ正常だからな。それに、その血が継がれるなら、きっと強い人間に育つ」
牢を出て数日が経過した頃、僕は統括に呼ばれルインブラッド拠点を訪れた。この頃シルベの検査はなくなり、今日のように統括の依頼で呼ばれることがほとんどだ。シルベも僕に対しての研究を終え、今は別のことをしているのかもしれない。
「来たか、アラン。お前に頼みたい依頼があるんだが……これはいつもみてえな別の部隊から流れてきたものとは違う。俺からの直接の依頼だ。難度は不定、断ってもらっても構わねえ」
「そこまで言うということは、相当の内容ですね」
「ああ。簡単に言うと、少しの間皇国へ潜入してもらいたい。皇国の皇女が他勢力から戦闘員を招集しようとしていてな。潜入経路が沸いて出てきたようなもんだ。この機を逃したくねえ」
「皇国へ潜入……。僕で大丈夫でしょうか……」
「ブラッドの中じゃお前が適任だ。潜入期間は百日前後になる。急ですまねえが、受ける受けないの判断も早めに頼みたい」
「話は分かりました。依頼は引き受けますが、周囲の方にはどう説明すれば?」
「周囲には……そうだな、特別な依頼を受けたとだけ伝えるようにしてくれ。場合によっては俺の名前を出してもらっても構わん」
「いいんですか?」
「ああ、この際だからな。お前が俺の直属であることを周囲に知られるのは仕方ねえ。二番街の部隊には俺からも説明を入れておく」
「分かりました。お願いします」
「いつもお前頼みで済まねえな。詳細はまた三日後に話す。それまでに準備しておいてくれ」




