86/132 (5/8)
後日、僕は統括に呼ばれルインブラッド拠点へと向かった。統括は険しい表情で口を開く。
「またゼノに二人やられた。一人が死んで……もう一人、アヤが重傷を負った」
「アヤさんが……!?容体は……」
「シルベに見てもらっているが、赤髪よりも深刻らしい。ブラッドの血が無い分、傷が再生しねえからな……」
「そうですか……」
「だが、代わりに奴の凡その居場所が割れた。これから向かおうと思うが、アラン、お前に同行を頼みたい」
「分かりました。いつでも大丈夫です」
「よし。これ以上奴の好きにはさせねえ。確実に仕留めるぞ」
統括と二人でその場所へ向かうと、僕たちはすぐに襲撃に遭った。その男は第二期教団の力を開放しており、凄まじい速度で攻撃を仕掛けてきた。僕は出血と同時に血を硬化することで軽傷ですませたが、統括は片腕を落とされている。いや、片腕で済ませたというべきだろう。
統括は教団の力を開放すると、その能力で斬られた腕が再生し、更に腕全体が甲殻で覆われていく。彼が宿す能力も第二期のものだ。
「大丈夫ですか?」
「問題ねえ。あいつ……何してる?」
「え……?」
ゼノは追撃せず停止してこちらの様子を伺っていた。顔を仮面で隠し、長い髪を後ろで縛った男だ。四肢は赤い毛に覆われており尻尾まで生えているが、強靭な体格も含め開放された教団の力故のものだろう。
相手を選んでいるのか……?赤髪とアヤさんが殺されなかったことにも、何か理由があるかもしれない。
統括は血から剣を生成し構えるが、何かに気付いた様子で口を開く。
「待て、あいつ……。いや、今更関係ねえ!」
統括は一気に仮面の男との距離を詰め血の剣を振ったが、彼の剣を僕が阻んだ。仮面の男……いや、男ではない。彼女は女性だ。
統括は僕を睨みつける。
「おい、アラン……なんの冗談だ……?」
「僕がやります」
「なんだと……?」
「僕に任せてください。お願いします」
統括は一度大きくため息を吐き、そして剣を下げる。
「信じるぞ」
「はい、ありがとうございます」
統括がその場を去るまで、赤毛の彼女は何もせずこちらを見ていた。
僕は銀の鎧を纏い、銀の剣を手に彼女に向き直る。僕が剣を構えると、すぐに向こうから攻撃を仕掛けてきた。彼女は高速で僕に接近し両手の鉤爪を振るう。僕はあえて剣で防がず鎧で受けたが、少し傷がつく程度で済んだ。素早い攻撃だが力はあまりない。相手の攻撃を見極めて剣を上手く合わせると、彼女の片手の爪が折れ、その断片が地面に刺さった。すかさず剣を振り彼女の顔を覆うその仮面を弾き飛ばす。そして追撃のために剣を振りかぶり、しかし剣を振らずに腕を降ろした。大きく隙を晒す僕に、今度は相手が僕の仮面を弾き飛ばし、続けて僕の手元に鉤爪を振り下ろし剣を手から叩き落とした。
「真面目にやってよ……」
彼女、アイカの言葉に僕はその場に両膝を着く。
「なんで……。斬れるわけないだろ……」
「馬鹿じゃないの?私はあんたの敵。こっちはもう覚悟決めてるんだから」
「敵か味方かなんて関係ない……。それ以前に、君は僕の妹だ……」
「何よそれ……。別に、本当の家族ってわけでもないでしょ……」
「家族だよ……。君が本気でも、僕は戦えない……」
「はぁ……。私だって、最初はあんたが心配だったよ。異形の研究について、ゼノさんから聞いたときはね」
「ゼノ……その力も、受け継いだんだね……」
「うん。私はこの力でルインブラッドと戦う。そして異形の研究を潰すの。それに加担する人間も、全員この手で殺さなきゃいけない」
「どうして……」
「分からないの?その研究でどれほどの人間が犠牲になったと思ってるの?」
「確かに、後遺症に悩む人はいるかもしれない……。でも、それで死ぬわけじゃない」
「死ぬんだよ。ゼノさんはこの前四十過ぎで死んだ。彼の症状が酷かったのもあるけど……研究対象になった人間は、生きている限り少なからず体を蝕まれる」
「で、でも……研究はもう完成してる。これ以上犠牲は出ない」
「は?だったらI地区の件は何?完成したのか知らないけど、研究は寧ろ加速してるんじゃないの?」
「それは……確かに……。統括は、何を考えて……」
「これから犠牲はどんどん増える。I地区で起きた感染症が広がって、一つ前の時代、異形に怯える時代に戻る。その未来を変えるには、今ルインブラッドを潰すしかない」
アイカは僕に手を差し伸べ、そして真剣な表情のまま言った。
「私と戦う気がないなら、ルインブラッドの拠点を教えて。私の意見に賛同してくれるなら、私と一緒にそこで暴れて」
「少しだけ時間が欲しい……。自分の考えを整理したいんだ……」
暫くの間悩んだ後、僕は彼女の手を握り返した。彼女の考えに賛同し、これから二人でルインブラッドへと向かう。




