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僕は再び血の鎧を纏い、手には血の剣ではなく黒色の剣が召喚された。鎧が剣の魔力を吸収し黒い紋様が血管のように浮かび上がる。剣を払うと黒い瘴気が地面に飛び散り、血と混ざりどす黒く変色していく。
僕が剣を構えると、目の前に居た筈のルークが突如視界から消えた。彼は一瞬で僕の背後に回り込み、勢いを乗せた蹴りを放つ。その一撃は空間を捻じ切り胴体部分の鎧が中の体もろとも裂かれ血が噴き出た。
僕はすぐに振り向いて剣を横に一振りすると、ルークは跳躍することで少し大げさに避けたが、すぐに空中を蹴ってこちらへ向かってきた。一瞬で僕の眼前に飛び出すと、彼は渾身の力で拳を振り抜く。
放たれた技は恐らく破城。だがこれは悪手、僕にとってはチャンスとなる。破城は直撃した対象に気力そのものを流し込み破壊する技だ。ルドラの瘴気を纏う鎧に効果は薄く、実際正面から受けた僕にほとんどダメージはなかった。
ほんの一瞬、ルークの動きが止まった。目を見開き、驚きを隠せない様子だ。僕は彼の腕を掴んで剣を突き刺す。そのまま腕を切り落とそうとしたが、振りほどかれ距離を置かれた。しかし傷を与えるだけで十分。ルドラの瘴気には血統の力を封じる効力がある。これで彼は利き腕を封じられ、暫くその腕で皇国の技は打てない。
僕は大きく一歩踏み込んで距離を詰めると、剣を下から上へ高速で二度振り上げる。X字型に放たれた斬撃は前方に黒い瘴気を飛ばし、ルークは空間を打つことでそれをかき消そうとしたが、そのとき初めて皇国の技が封じられていることに気付いたようだ。彼は咄嗟に体を捻じるようにして回避することしかできない。ここで僕は地面に溜まった血を一気に増幅させ、血の波にルークを巻き込み闘技場の壁まで押しやった。更に血を硬化させ中に閉じ込めようとしたが、その猶予はなく血の波は空間の歪みに飲まれ散り散りになる。
それでもこれだけ距離を離せたのは大きい。今こそ見せる時だ。ここ暫くの修行の成果を……否、彼に絶望を。
僕が剣を地面に突き刺すと、地面に溜まっていた血は剣の魔力を吸って黒く淀んでいく。そして僕の意志にあわせて蠢き、無数の線が上空へ向かって伸びた。
線はうねるようにそれでも自身を直線に保ち、それらが交わる一点がやがて細長い空洞となって対象までの道を示した。この一瞬、覗く景色は瞳に映え、何かを思う猶予もなく大気を焼き切る音だけがただ耳に心地よい。あとは空洞を埋めるように、隙間なく一列に並べるだけだ。僕の中にある全ての力が混ざりあう、その渾沌を一列に。
美しく伸びた渾沌の線はそこに生じた空間の歪に飲まれ四方へと散ってしまった。並んでいた列は途切れ、空間を走る大きな亀裂が障壁となっている。
それを見て、僕が両腕をゆっくり前方へ伸ばすと、内に宿る強大な力がそれに応じる。新たに生じた無数の線が地や空を切り裂いて一点へと向かい、再びそれらが合流したとき、確かに僕はルークの姿を視界にとらえた。その瞬間、覗き込んでいた方の目を激痛が襲い、僕は声を上げて仰け反る。片目を潰された。感覚で分かるが、この傷はすぐには癒えない。
針の穴に、先に糸を通されたのか……利き腕と反対の腕から放たれた、出来損ないの破天で……。
ルドラを開放していた方の目が潰され、地面に刺さった黒い剣が消滅していく。けれど既にこの場にある瘴気がすぐ消えるわけではない。この技で決めれば、何も問題は無い。
再び渾沌が一列に並んだとき、完成された技は対象を貫き、痛みとそれ以上の恐怖を与える。渾沌一列。後にそう名付けられ、ブラッドの歴史に綴られることとなる、この技が僕の答え。君を倒すための牙だ。




