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闘技場の中央に立つと思っていた以上に観客の姿が視界に入り、その多くは知っている顔だった。統括、ベルク、アヤ、女王、蒼炎、それと……フィオにラビ、シルベの姿まである。
ルークは僕の前に立ち声をかけてきたが、やはりいつもの威勢は無いように見える。
「アラン……。悪いが、今回も勝つのは俺だ」
「どうしたの?威勢が無いように見えるけど」
「はっ、うるせえな。安心しろ。俺は何も変わってねえからよ。俺は変わらず、お前の遥か先に居る」
「良かったよ。僕もそのつもりで来てる」
僕の言葉にルークが笑みを浮かべ、そして試合開始の合図が鳴った。
合図と同時にルークは拳を構えたが、しかしまだ距離がある。破空の届かない距離、撃つとしたら破天か。
僕が目の前に血の壁を張ると、直後にその一部が弾け飛んだ。小さく穴が開いたが、それだけだった。
技として完成しているかは不明だが、やはり破天に系統する攻撃だったようだ。僕はその技の原理を自分なりに解析し、対策を考えてきている。
恐らく破天で扱われる動作は三つ。空間を打つ打撃、点を打つ打撃、そして鎧通しだ。破天は打撃を飛ばしているのではなく、鎧通しで空間をかわし、打点を変えているだけ。つまり、射程は空間が続く限り。別の物質を間に挟むだけで簡単に無効化できる。
習得難度に見合わず、使いどころが限られる。皇国ですら使い手がいないのはそれが理由だ。
僕はイコルの力を開放し血の鎧を纏った。手を前方に向けると血の壁が溶け一点に集約され、次の瞬間一直線に打ち出される。血の列は高速でルークの肩を貫き、彼は小さく呻き声を上げて傷口を抑えた。
互いに新たに習得した技、挨拶代わりの一発では僕の方が勝ったようだ。
僕はたて続けに血を一列に並べ、ルークはそれをかいくぐり前進してきた。しかし全ては避けきれていないようで、傷を負いながらようやく破空の射程に踏み込んだ。そして次の一撃を放つ。
ルークの拳が空間を捉え、そこから生じた亀裂が僕の体を血の鎧ごと引き裂いていく。破空を完全に防ぐ手段は無い。けれど、以前ルーク本人が言っていたように正しい受け方ならある。
空間の亀裂は少しの間そこに留まるため、下手に動けば亀裂に体を裂かれてしまう。僕は足元に血を流して固めることで自分の体を倒れないよう固定し、ダメージを最小限に留めた。
それでも体からは血が噴き出し、ルークは舞う血の飛沫を潜り抜け前進を止めず、その踏み出される足に僕は狙いを定めた。彼が一歩を踏み込んだ瞬間に足元の血を一瞬で固め、体制を大きく崩したところへもう一度血の列を並べる。彼を貫いた血は更に剣へと形状を変え、僕はその柄を握り渾身の力を込めて振り上げた。
血の剣はルークの体を大きく切り裂き、傷口から噴き上がる血は地面に広がる僕の血と混ざりあう。ルークは重大な傷を負いながらも再生力で体を維持し、足の拘束を破って上空へ跳躍した。
一気に距離を詰める気か。だとしたら、次に彼の拳から放たれる技は残る一つの皇国流、破城である可能性が高い。
僕は咄嗟に後方へ跳び直撃を回避する。ルークの拳は先ほどまで僕の立っていた地面に突き刺さり、その場所を中心に闘技場の床全体を砕くほどの衝撃が生まれた。
これが皇国流格闘術の中でも最大火力の技。人間の拳で生み出すことのできる、この世で最大の衝撃だ。
直撃こそ免れたもののその威力は凄まじく、僕の体は闘技場の壁まで軽く吹き飛ばされた。全身に強烈な痛みが走りすぐには立ち上がることができず、よろめきながらもどうにか体勢を立て直す。
身に纏っていた血の鎧は欠損が激しく、僕は一度武装を解除してルークの方を見た。流石の彼も傷が治りきってはいない様子だ。
「ルーク、これ以上は……」
僕が彼に声をかけると、彼は頷いて笑みを浮かべた。
「ああ……。殺生の話でもするか……」
そう言うと彼は片方の拳を地面につけ、大きく息を吐いた。体中の血管が浮き上がり、目は赤く血走ってゆく。周囲の空間は捻じ曲がり、その一部が耐え切れず崩壊し断片が地面に散らばる。
皇国流……その更に先か……。
「分かった……。そうしよう……」
僕も一度頷いてから両目を閉じ、左の瞼を手で押さえた。
ルドラ。
『俺を使うか』
僕の力である限り、この場では使うのが義務だ。
『いいだろう』
手を放し目を開けると、右目に赤い輝きを宿したまま、左目には黒い輝きが宿った。左右それぞれで別の教団を開放する、二教団同時開放。これがルークに対抗するための、僕の切り札だ。




