76/132 (3/8)
アランとの会話の後、ルークは一度自分の控室へ戻った。中に入るとそこで一人の女性が待っていて、彼女は心配そうな表情でルークを見ている。
「ルークさん?何かありましたか?」
彼女、フィオの言葉に、ルークは椅子に座って俯いた。その手は僅かに震えている。
「アランに会った。あいつは、恐らく今日に照準を合わせてやがる」
「それが、どうかしましたか……?」
「俺はこれまでに二度、戦闘中に負けるかもしれねえと思ったことがある。一度目は前回アランと戦ったとき、二度目は皇国騎士第四席と戦ったときだ」
「は、はぁ……」
「二度目の皇国騎士のとき、俺は内心驚いた。アランの時に感じた、絶望にも近い恐怖を一切感じなかったからだ」
「恐怖、ですか……?」
「白状するが、手の震えは武者震いなんかじゃねえ。俺はあいつを恐れてる。前回植え付けられた恐怖がトラウマになってるみてえだ。今明確に分かったが、俺が怖いのは単なる敗北じゃねえ。あいつに、アランに負けることだ」
「それは、どうして……」
「さあな……。あいつが、俺にとって唯一友と呼べる存在だからかもしれねえ」
「は……?さっきから、何を言ってるんですか……?」
「戦闘前の感覚としては初めてだが、はっきり言うぜ。俺は今日、負けるかもしれねえ」
「だから……さっきからずっと!貴方は何を言ってるんですか!?今更、そんな弱音吐いて……!貴方に、そんなことを言う資格はありません……!他人に弱さを見せる資格なんてないんですよ……!」
「はっ、そうだな……。ならお前にだけだ。フィオ、もし俺が負けても、また俺についてきてくれるか?」
フィオは膝を着き、ルークの震える手を強く握りしめた。そして彼を睨みつける。
「当たり前です……!」
フィオの心からの怒りはルークに伝わった。ルークは笑って彼女の手を振り払い、そして戦いの場へと向かう。
一回戦は残すところ最終試合のみとなり、観客はそのほとんどが闘技場を去った。最終試合は無観客。席に残ることが基本的に禁止されているためだ。
ブラッド統括アスラは観戦席に残り最終試合の開始を待っていたが、少し離れた席にブラッド戦闘総隊長ベルクの姿を見つけると、その近くの席へと移動した。
「よお、ベルク。随分静かになったな」
「ん?ああ……」
「血が疼くんじゃねえのか?お前が観てるだけなんて性に合わねえだろ」
「今の試合まではな」
「そうかよ。しかし、お前が出ねえと聞いたときはビビったぜ。今もまだ信じられねえが……ルークに負けるから出ねえって?」
「ああ。俺では遥かに及ばない」
「なら、この試合もルークが勝つと思ってんのか?」
「当然だ。俺にはあの男が負ける姿など想像もつかない」
「そうか……。お前がそう言うならおもしれえ」
「……お前は逆だと?」
「まあな。どうすりゃアランに勝てるのか、俺には想像もつかねえよ」
「ふっ……それは面白いな」
二人が話していると闘技場の案内人の女性がアスラに近づいてきて、彼に声をかけた。
「すみません、統括。今外で、何故試合を観れないのかと暴れている方が一名居まして……」
「一般人か?」
「いえ、大会参加者の一人、ラビという方です」
「なら、まあいいか。めんどくせえから入れてやれ」
「いいのですか?」
「ああ。自己責任でな」
「わ、分かりました……」
案内人の女性が去った後、少ししてまた別の女性がアスラの元へ来た。彼女、シルベは近くの席に座り、それを見てアスラは声をかける。
「悪いな、来てもらって」
「いえ、アラン君のためですから」
「試合後すぐ動けるよう準備しておいてくれ」
「分かりました。もうすぐ始まりますね……」
「ああ……。見届けようぜ。今からここで、歴史が動く」




