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街は既に青い炎に包まれていて、僕は進める道を探しながら自分の家の方角へ急いだ。家が近づくとすぐ目の前で大きな炎が上がり、ふと足元を見ると黒く焦げた肉片が転がっていた。これが数分後の自分の姿だと思うと、恐怖で足がすくむ。それでもどうにか家の前まで辿り着くとその場でアイカが戦闘していて、彼女は片方の手に大きな血の盾を構え青い炎を受け流している。
炎を放っているのは、アイカと対峙して立つ青いローブの男。街を覆う炎は全て彼によるものだろうが、恐らくこれはカオスの技ではない。
『アラン様、所有者です。ここは退くべきです』
所有者……教団の力の?
『はい。すぐ近くに感じます。蒼炎を操る力、それと、これは一体……』
イコルが何かに気づいたようだが、僕はすぐさまナイフで手首を切り流れる血を増幅させてアイカと同じように血の盾を作った。盾を構えてアイカの元へ駆け寄ると、彼女の前に立ち青いローブの男に視線を向ける。男の後ろにはもう一人、黒い鎧の少女が立っていた。彼女もカオスの戦闘員だろうか。
アイカは咳き込みながら口を開いた。
「アラン……。ごめん。こいつ、私じゃ無理っぽい……」
「無事ならそれでいいよ。シルベは?」
「あの人なら地下に向かってる筈。あんまり戦えないみたいだったし、先に逃げてもらった」
「そっか、ありがとう。あとは僕が相手になるから、アイカも逃げて」
「は?いやいや、一緒に戦った方がいいって」
「死ぬ覚悟はできてるの?」
「と、当然……」
「なら、全身焼かれて苦しむ覚悟は?」
「そんな覚悟はできてないけど……。ていうか、さっきからあいつらも何か話してるね……」
確かに、戦闘中の間としては長すぎる。青いローブの男は攻撃を中断し、鎧の少女と何か話していた。
『アラン様、恐らくですが……』
ああ、なるほど。教団同士は互いの存在が分かるのか。つまり、あの青いローブの男に気付かれた可能性が高い。
『いえ、所有者の反応は二つあります。それに、片方の能力はどうしてか詳細が分からないのです』
二人共……?詳細が分からないって、どういう……いや、あとにしよう。
青いローブの男は、その青く輝く瞳をこちらに向けた。彼がその手を振ると無数の青い火球が放たれ、盾で受けようとした瞬間目の前で爆発した。凄まじい風圧に体を持っていかれたが、地面を転がりながらもどうにか受身を取る。
手に持っていた盾は割れてしまった。地面に手をついて立ち上がろうとするが、腕にうまく力が入らない。呼吸をすると胸に痛みが走り、せき込むと同時に口から血が吐き出される。
アイカは少し離れた場所に倒れていて、僕以上にダメージを負っているように見えた。
僕が立ち上がると再び目の前に無数の火の弾が迫っていて、僕は一瞬の判断で今吐き出した血でアイカを守るように壁を作った。次の瞬間、火の弾は再び爆発し、先ほど以上の勢いで吹き飛ばされる。今度は受身を取る暇もなく、僕の体は建物の残骸に突っ込んだ。体中に瓦礫の破片が突き刺さり、大量の出血とそれに伴うあまりの痛みに声を上げる。
敵の方に顔を向けると青いローブの男がこちらへ向かって歩いてきていて、彼はすぐ側まで来ると僕に質問をした。
「何故力を使わない?」
「そうか、能力……」
「名は?」
「あ……アラン……」
僕が名乗ると、男はハッとした表情で後ろを向く。彼の後ろには鎧の少女が立っていて、彼女も少し驚いた表情をしていたが、その後口元に笑みを浮かべ口を開いた。
「面白いね。この少年はお前に任せる。先に少女の方だ」
ローブの男は頷き、アイカの方へと歩いていく。
僕は体中から流れる血を操り無数の糸を生成して男の方へ放ったが、しかし全て青い炎に阻まれ散ってしまった。
力が要る。今すぐに。
『だから忠告したのです。ここは退くべきと』
アイカを見捨てられなかったんだ。どうか君の力を貸してほしい。彼女を……この街を守るために、もう少しだけ戦いたい。
『分かりました。それでは、目をお借りします』
彼女の声と共に視界が赤い光で覆われた。目に宿る輝き、これが教団の力を開放した者の証だ。
『私の能力によってアラン様の血はより強くなります。恐らく今の貴方なら、頭で思い描く通りの戦闘ができる筈です』
カオス側に居た鎧の少女は、僕の目に輝きが宿ったのを見て警戒のため後退を始めた。しかしその猶予も与えず、血の濁流が彼女を襲いその小さな体を飲み込んでいく。先ほど流れた僕の血が急激に増幅し目の前の物全てを押し流していった。血の増幅はブラッド戦闘員にとって基本的な動作の一つだが、通常ここまでの増幅はできない。血の強化によりブラッド戦闘員としての能力が大幅に上昇しているようだ。
血の濁流は青いローブの男も巻き込み、彼らをアイカの元から離した。
僕が瓦礫の山から立ち上がると、再生力も向上しており全身の傷が一瞬にして塞がっていく。この力があれば、カオスの二人に対しても十分に戦える筈だ。
僕はアイカの元へ駆け寄り、彼女の容態を確かめる。
「アイカ、大丈夫?」
「あ、うん……どうにか……。でも、足が動かなくて……今はちょっと、歩けないかも……」
「分かった。ここで休んでいて」
「待って、その目……嘘でしょ……?そんな力、いつから……」
「黙っていてごめん。この力のこと、僕もよく分かっていなかったんだ」
「そっか……。私も傷を再生できたらすぐに加勢……いや、邪魔にならないように逃げるね」
「うん、そうして欲しい。この街は僕が守るよ」