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数日後、ディケインは万全な状態にまで回復し、僕たちはまた教団の元を目指して歩き始めた。それから更に数日森の中を歩き続け、ようやくその場所に辿り着く。
『近い……。もう、すぐそこのようです』
イコルの言葉に前を向くと、目の前には遺跡のような場所が広がっていた。そこがダンジョンの最奥、僕たちの目的地のようだ。
二人で遺跡へ足を踏み入れると、中で一人の男が待っていた。彼はその場所に置かれた椅子に座っていて、僕たちの存在に気付くと顔を上げてこちらに視線を向ける。
「二人か……珍しいな。求める者はどちらだ?」
ディケインが一歩前へ出ると、その男は椅子から立ちあがり、手には一本の剣、黒い煙を纏った禍々しい剣が握られた。それ以外特に武装は無く、多少屈強な体つきではあるが、外見歳は三十前後の普通の男のようだ。
「既に一つ、足して四つか……。幸運にも最後の一つはそこにある」
「あ?何が言いたい?」
「隣の男を殺せ。そうすれば力を与えてやる」
ディケインは一度僕の方を見て、それから血の剣を抜いた。それを僕ではなく男の方へ向ける。
「嘘つけ。この森で五人殺せば力を得られるって話か?もし本当なら、とっくにお前は誰かのものになってる筈だ。今まで何人挑んだと思ってやがる」
「俺に剣を向けるか……。まあ、試してやってもいい」
男は剣を構え、ディケインは彼に向かっていった。二人の剣が交わり鈍い音が周囲に響く。それから彼らは暫く剣をぶつけ合ったが、ディケインの剣が相手の体を切り裂くと、傷口からは赤い血の代わりに黒い液体が流れ出し、それは彼が人間でないことの証に思えた。
暫くの後、二人が一旦距離を取り、ディケインは斬撃を受けた傷口を眺めている。深い傷もあり出血も多いように見えるが、彼なら問題なく再生できるはずだ。
「ディケイン?」
「アラン。悪い、手貸してくれ」
男が大きく一歩踏み込み剣を振るおうとするが、ディケインの反応は明らかに遅れている。そこへ僕が割り込んで、代わりに男の剣を受け止めた。
イコルの力を開放しディケインを庇うように立つ。
イコル、彼の能力は?
『え、えっと……彼の、力は……』
どうしたの?
『い、いえ、その……』
イコルにも能力が分からない……?人に宿った状態でないと判別がつかないのか?
ディケインは傷口を手で押さえながら後退していく。うまく再生できないのだろうか。
僕は血の鎧で全身を覆い、それから男に向かって尋ねた。
「その剣、再生を封じる力があるんですか?」
「再生、か。何にせよ、お前の仲間が負った傷は致命傷になる。放っておけば命はないぞ」
「貴方を倒せば助かりますか?」
「倒す?それができるのなら、そうだな」
「なら、全力でいきます」
僕は自身の血でもう一つの鎧を生成し、その操作をイコルに託した。そうすることで僕は自分の動きに集中でき、二対一の状況が完成する。
僕が一歩踏み込んで剣を切り上げると、男は後方へステップして避けた。そこへイコルの鎧が飛び掛かり、男は剣でそれを受け止め、僕はサイドから回り込んで男の無防備な体に剣を突き刺す。
イコルとの連携はここ暫くの訓練で身に着けてある。単純な斬り合いで負けることは無い。
そう思ったが、しかし僕の剣は男に届いていなかった。
状況を把握するには少し時間が必要だったが、イコルの鎧が僕の剣を受け止めている。男も一瞬驚いた表情を見せたが、すかさず剣を振るい僕の剣を弾き飛ばした。
剣が手から離れ宙を舞う。それを目で追いかけながら、今の状況を整理しようと思考を巡らせた。
鎧の操作を男に奪われたようだ。それも彼の能力の一部……いや、今の表情を見た限り、相手にとっても予想外だった可能性が高い。だとすると、イコルが操作を誤った。
もしくは、僕を裏切ったのか……?
視線の先で、一人の男が僕の剣を空中で掴んだ。彼は勢いそのままに剣を地面に叩きつけるように振るう。力のこもった一撃に、相手は一度後方へ下がった。
「アラン!何してる!」
彼、ディケインは僕の目の前に飛び込み口を開いた。
「お前一人で勝てねえなら、二人でやるだけだ!」
「ディケイン……き、傷が……」
「俺の心配なんかするな!俺は大丈夫だ!」
「君は下がっていい……もう、血が……」
「うるせえ!力はもう目の前にある!俺はこいつを従えて、生きてここを出るぞ!これからもお前と旅を続けるために!それで文句ねえだろ!」
「それは……もちろん、そうだけど……」
「合わせろ、アラン!いつも通りに!」
彼はそう言い剣を構え、目の前の相手に向かって切りかかった。僕は頷いて、彼のその動きに合わせる。
完全に息の合った連携、しかし計算された筈の動きにはすぐに誤差が生じた。ディケインの持つ剣が想定よりも遥かに脆く、相手の黒い剣を受けることができなかったのだ。イコルが寝返ったことで、その剣からは力が失われていたようだ。
黒い剣がディケインの持っていた剣を砕き、そのまま彼の体を貫いていく。
僕はこの光景を一生忘れないだろう。自身の弱さ故に友人を失う、その瞬間をとらえたこの光景を。




