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フレアの剣はディケインの心臓を貫く前に止まった。剣が皮膚を切り裂いてから心臓に到達するまでの僅かな時間で、流れた血を固めることができたようだ。最初に僕がフレアの攻撃を腕で止めたのと同じ技術。ディケインも僕と同等のレベルまで習得しているが、痛覚が麻痺した状態で成功させたのは彼の勝負強さ故だ。
フレアは更に深く踏み込んで剣を押し込もうとするが、足がもつれて耐性を崩した。ディケインの両腕断面から噴き出す血が地面で固まり、彼女の足をすくっている。
ディケインは両腕から流れる血を剣状に硬め、二本の剣で素早く斬り返す。剣はフレアの体を掠め、彼女は足を引き抜いて慌てて距離を取る。それを見てディケインは大きく跳躍し、勢いをつけて両腕の剣を上から叩きつけた。フレアは受けようと構えるが、ディケインの二本の剣は空中で重なり一本の巨大な槌へ形状を変える。
振り下ろされた槌は周囲に撒かれた血の霧をかき消し、フレアの防御の上からダメージを与え、それから一瞬置いて槌内部が炸裂し大量の血がフレアに付着する。二段階の衝撃にフレアは後方に倒れ、付着した血とその場に溜まっていた血が固まることで彼女の動きを封じた。
しかしディケインはその場に膝を着くと、苦しそうに胸を押さえる。
「がはっ……!くそ……痛覚が……」
「毒性の変化だよ……。きっともう長くは持たない……。安心しろ……君の死は私の力となり、ブラッドの未来を支える……」
「ああ、そうか……分かった。アラン……悪い、俺は……」
ディケインは静かに立ち上がり、フレアの元に寄ると、躊躇なく彼女の胸に血の剣を突き刺した。剣はフレアの心臓を貫き、彼女の息の根を止める。
「進む方を選ぶ……」
ディケインはその場に倒れ、僕は彼の元へ駆け寄った。
「ディケイン!気を失っちゃ駄目だ!」
「ああ……分かってるよ……。生きて、帰るさ……」
僕はディケインの切り落とされた腕を拾い、彼の腕の断面に合わせる。それから自分の血で彼の腕を固定し、他の傷口もできる限り塞いだが、ブラッドの再生能力自体を他人に影響させることはできない。あとは彼の生命力を信じて待つだけだ。
翌日、ディケインの容態は安定した。僕は彼の側で墓を掘り、フレアの遺体を埋葬して手を合わせる。
ディケインは初めから殺意をもって戦っていたわけじゃない。フレアの血の毒性について知り、咄嗟に判断しただけだ。あのとき少しでも躊躇していたら、きっとすぐにディケインの体は動かなくなり、やがてフレアが拘束から抜け出し、二人の生死は今と逆になっていただろう。やらなければやられていた。だから、ディケインの判断は……。
彼の判断は正しかった。僕に助けを求めていれば、確かに二人が共に生存する道はあったかもしれない。でもそれはその場しのぎにしかならない。最終的には誰かが死ななければ終わらなかった。中途半端な覚悟で僕が介入したところで、ディケインの足を引っ張っていた可能性もある。
少ししてディケインが僕の隣に並んだ。彼も僕と同じように手を合わせて、それから暫くの後に口を開く。
「重いな……」
「そうだね」
「軽蔑したか?」
「まさか。必要なことだったと思うよ。君は間違ってない」
「なら、いいんだが……。何にせよここを出たら自首だな」
「それなら僕も一緒に行くよ。ほとんど同罪だ」
「そんなわけあるか。お前に助けを求めていれば、フレアは死んでねえ。罪は全て俺にある」
「でも……」
「やめよう。まずは生きてここを出ねえと。後の話はそれからでいい」
「そうだね……。怪我は大丈夫?」
「ああ、順調に回復してる。おかげで腕もくっついたぜ」
「それなら良かった。もう数日休んだら出発しよう。万全な状態で進みたいからね」




