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女王の束ねた混沌  作者: GGGolem
6/15 G地区編
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 フレアは小川の岸に座って口を開いた。


「今年の始めに、ルークという男が部隊に入った。彼はその戦闘手法から周囲に理解されなかったが、フィオという竜人の女性と組むことで次々依頼をこなしていった。中にはリスクの高い依頼もあったが、彼らは達成率百パーセントを維持し続け、直にベルクがその実力を認めた」


 ディケインはすぐ側で腕を組んで立っていて、黙って彼女の言葉を聞いている。僕が頷くと、彼女は話を続けた。


「彼の活躍に、周囲の人間は皆自身の立場を危惧するようになった。入ったばかりの新人に抜かれるかもしれない。その不安はトップの部隊で動いてきた者にとって初めての感覚だったんだ」


「そして現実になったんですね」


「ああ。例の皇国の件で、ルークの実力が皆の想像の遥か上であることが分かった。もはや自分の立場がどうこうという話に留まらない。実質的なブラッドのリーダー。戦闘総隊長の交代。話はそこまで飛躍したよ」


「いや、さすがにそれは……ルークにベルクさんの代わりは務まりませんよ」


「暫くはそうかもしれない。今以上に多様性が認められる必要があるし、何よりルーク自身がそれを望んでいるわけでもない。だが、結局この世界では力が全てだ。個人の実力が一定を超えたとき、そこには権力が生まれる」


 フレアは喋りながらナイフを取り出し、自身の手首に傷をつけた。そこから流れる血は剣を象り彼女の手に収まると、彼女はその場に立ち上がり剣の先端をこちらへ向ける。


「一度、ルークに決闘を申し込んだことがある。この目で彼の実力を確かめるために」


「どうなったんですか?」


「雑魚に興味はないと、一蹴されたよ。これまでの人生全てを否定され、言い返すこともできず……だから私はここへ来た」


「そうですか……」


「一度立ち合ってくれないか?君たちの力も、今ここで知っておきたい」


「構いませんが……どちらからやりますか?」


「そうだな……ディケインからで頼む。アランは少し待っていてくれ」


「でしたら、一度彼と二人で話をします。貴女について気になることもありますから」


「そう、か……。何か、変だったかな?」


 フレアは手の剣を握りしめて僕を睨むと、明確な殺意を向けてきた。


 ディケインはすぐさま僕の側で臨戦態勢を取り、フレアと同じように手に血の剣を握る。僕はゆっくり立ち上がると、一旦ディケインを制止した。


「最初僕に剣を向けたとき、貴女の殺意は本物でした。魔物と間違えたわけではなく、僕の腕を切り落とせなかったことが想定外だったのではないですか?」


「ああ……あのときは驚いたよ。不意を打って尚、君の血の硬化は私の剣の速さを上回ったのだから。アランの名を聞いて納得したが、同時に君たちを襲撃することも諦めた。少なくとも、正面からは」


「ここがダンジョンの入り口付近だということも分かっていたんですね。貴女は元から、何も知らない侵入者を襲うつもりで待ち伏せていた。何故そんなことを?」


「この場所ではそういうルールだ。どうしてもあと二つ、命を奪う必要がある」


「あと二つ……?これまでにも何人か襲撃しているのですか?」


「既に三人……。今更引き返せない」


 フレアの剣の一部が溶け、血の雫が地面に落ちた。増幅する彼女の血がすぐ足元まで到達したとき、僕はイコルの力を開放し剣を構える。


「もう不意打ちはできませんが……。それで、どうやって僕たちを倒すんですか?」


「二人同時に来るのならそれも構わない。見せてやるだけだ……この場所で培った、覚悟の差を!」


 フレアが剣を振りかぶると、地面の血が巻き上がり、霧状になって剣の周囲を漂い始めた。彼女は上からのフェイントを入れつつ体をひねって下段を薙ぎ払う。僕が回避のために一歩距離を取ると、すかさずディケインが前へ出てフレアの攻撃を剣で受け止めた。しかし彼の体には赤い棘のようなものが無数に突き刺さっていて、彼はそれに気付かないまま僕に視線を送る。


「アラン、ここは俺に任せてくれねえか?二対一じゃ卑怯だからな」


「いや、ここで無茶をする必要なんかない。そもそも人間同士で争いにきたわけじゃ……あれ、血が……」


 僕の腕にも赤い棘が何本か刺さっていて、そこから血が流れていることに気付いた。痛みを感じなかったのは、恐らく痛覚が鈍っているから。フレアが巻き上げた血の霧、あれを吸い込んだせいだろう。彼女は自分の血液に毒性を付与しているようで、マスクをしているのは自分の血を吸い込まないようにするためかもしれない。棘の方は恐らく霧の一部を変化させたもの。一瞬で生成した数としては多く、彼女の技量がうかがえる。


 ディケインは一度フレアの剣を押し返し、その後で体から流れる血を確認した。


「痛覚麻痺か。大丈夫だ、問題ねえ。お前は俺を信じて待ってろ」


「そうじゃない、僕たちは……」


「ああ、お前の言いたいことなら全部分かってる。だから、そういうことも全部含めて、俺を信じろ」


「そっか……分かった。それなら安心だ」


 ディケインはフレアに向き直り、彼女動きに合わせて大きく一歩踏み込むと、両手で握りしめた剣を高速で二度振り上げる。身を挺した全力の振り。綺麗にX字を描くその斬撃はフレアの体を深く切り裂き、そこから迸る鮮血は瞬く間に霧状に広がり辺りに充満した。再び無数の赤い棘がディケインを襲い、しかし彼はそれを無視して剣を振るう。雄たけびとともに振り下ろされた剣はフレアの体を僅かに掠め、そして力なく地面に落下した。見ると彼の両腕は切断されていて、剣と共に落下したそれを見てディケインはフレアを睨みつける。


「そういうことか……」


「悪いな。さよならだ」


 フレア悲し気にそう言い、しかし一切の躊躇なくディケインの心臓目掛けて剣を突き刺した。

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