6/132 (6/8)
屋外に多くの生徒が集められた。全員が集まったかは分からないが、仮面の男は皆の前に立って口を開く。
「俺はルインブラッド直属の人間だ。今日は統括の指令を伝えるためにここへ来ている。端的に言うが、ブラッドはカオスとの全面戦争に入った。その戦争に、お前たちを起用する」
カオスというのはこの世界の四つの勢力の1つ。確かにブラッドとの関係は以前から悪かったが、全面戦争というのも急な話だ。
サキが僕の服の袖をつかんだ。彼女の方を見ると、まっすぐ仮面の男の方を見つめている。
決意の目……いや、死を目前にした者の目だろうか。いずれにせよ、これが僕たちの選んだ道だ。ブラッド勢力の駒として命を捧げる。そのことをきっとここにいる生徒全員が思い知らされ、それが自らの選択であることを思い出した。
仮面の男は続ける。
「これだけは言っておくが、お前たちは捨て駒じゃない。この学校のレベルの高さ、各個人の能力に期待しての起用だ。敵側カオスの人間は基本一人では戦えない。一対一に持ち込めば、お前たちの力は十分に通用する」
彼の言う通り、カオスの戦闘員はパーティーを組んで戦うことを基本とする。カオスは四つの勢力で最も集団での戦闘を得意とし、単独での戦闘を苦手としている。対してブラッドは、受けた傷を自分で癒すことができるため、回復に人手をとられない分個人でも動きやすい。
「具体的な動きだが、まずは各自故郷の街に戻ることを勧める。そこに滞在する部隊から状況を聞き、必要に応じて加勢しろ。ただし、普段班を組んでる生徒はそのメンバーで行動した方がいい。細かいことは自分で判断してくれ。他に聞きたいことがある者は俺のところに来い。この場はこれで解散とする。では健闘を祈る」
仮面の男は話を切り上げ、生徒たちはそれぞれが行動に移った。
サキは僕の裾から手を放し口を開く。
「ねえ、どうする?アラン……だ、大丈夫?」
僕は震える手を握りしめ、一度浅く深呼吸した。それから周囲を見渡しシルベとアイカがその場に居ないか確認したが、二人の姿は見当たらない。まだ学校に来ていないようだ。
僕は今日書庫へ寄るためいつもより早く家を出ているが、それが失敗だった。
「大丈夫じゃないよ。すぐに街へ戻らないと」
「もしかして、あんたの街ってカオス領に近いの?」
「うん、かなりね。既に襲撃されて、シルベもそこで戦っているかもしれない」
「だからまだ来てないってこと?じゃあ、私も行って加勢する」
「いや、サキはルークを探してほしい。学校に来てる筈だから」
「そっか、分かった。ルーク見つけたらすぐに行くから。街の場所はどこ?」
「Dの三。南西方向の水路から行ける。それじゃあ、またあとで」
僕はサキと別れ水路の方へと走った。
水路に着くと、既に多くの人が移動を始めているせいでどの舟にも乗ることができなかった。
僕は懐からナイフを取り出し躊躇なく自分の手首を切ると、傷口から噴き出す血は魔力により増幅し自分専用の舟を象る。舟に乗れない際、戦闘員が使う手法だ。僕は血の舟に乗り込み故郷の街D地区三番街を目指した。
街に着く頃、既に手首の傷は血の魔力によって完全に癒えていた。ブラッド戦闘員は出血を伴う傷であれば簡単に癒すことができ、再生力を極めた者は剣で首をはねられても死なない場合がある。他勢力からは不死の軍団とも呼ばれるが、弱点は出血を伴わない攻撃。打撃もそうだが、それ以上に恐れるべきものがある。
「これは、熱……。燃えているのか……」
街の地下は水路で避難しようとする人々で混乱していた。舟が足りていないせいで、水路に直接飛び込もうとする人もいる。これほどの混乱を生んでいる要因は、恐らく僅かに感じるこの熱。規模は分からないが、地上で火災が起きているようだ。
炎による攻撃は、ブラッド戦闘員にとって最大の弱点。炎の使い手が敵として襲来しているのであれば、街に配備されている戦闘部隊も苦戦している可能性が高い。
人混みをかき分けて地上へ上がると、強烈な熱と共に青く燃える炎が視界に広がる。その日僕の故郷D地区三番街は、青い炎の海に沈んだ。