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夕方、ディケインたちと宿で合流すると、彼は一度僕と二人で話がしたいと言い出した。サリーとヒマリは先に部屋へ向かい、僕はディケインと二人で街の酒場へ向かう。中へ入り席に着くと、彼は少し思いつめたような表情で口を開いた。
「アラン、もしかしたらお前の耳にも入ってるかもしれねえが……。例のダンジョンの話、聞いたか?」
「えっ、見つかったの?」
「ああ、G地区の方でな。今ブラッド全体で結構な話題になってる」
「へえ、珍しいね。でもG地区なら、変に勢力間で争うこともなさそうだし、良かったんじゃない?」
「まあ、そういう意味ではな。だが、ブラッド内では既に何人も挑んで戻らないらしい。トップの部隊も組織として動く気はないそうだ」
「そっか。なら、暫く放置になるかもしれないね。ルインブラッドにも動くメリットはないだろうし……」
「そうなのか?」
「ああ、ごめん。ただの憶測だけど」
教団の怨念が住み着き、魔物を呼び寄せることで要塞と化した区画のことをダンジョンと呼ぶことがある。挑む者は皆その深部で待つ教団の力を求めるが、ルインブラッド直属の部隊は恐らく教団の力を保有する人間の集団だ。力は一人一つしか保有できないため、既に力を持つ者がダンジョンに挑むことは考え難い。
「放置、か……」
「もし君が挑みたいって言うなら、僕は反対だよ」
「お前らに追いつきたいんだ」
「危険すぎる。君はルークに言われたことを気にし過ぎだと思う」
「否定はしねえよ。でも、お前の力があれば……」
「それは話が違う。僕の力には期待しないんだよね?」
「そうだな……すまねえがもう一度撤回させてくれ。俺は、どうしても力が欲しい」
「それなら他にもっとやるべきことがある。挑むにしたって君にはまだ早いよ」
「ああ、その通りだ。お前の言うことは全て正しいし、俺の考えは間違ってる。でも、これはチャンスなんだ……俺にとっては一生で一度きりの……。今このタイミングでお前が班に居ることだって奇跡なんだよ……」
「命を懸けることになる。力を得るための代償としては釣り合わないよ」
「釣り合う。俺の中では、力に傾く」
「そう……。君の覚悟は分かったよ。考えておく」
「ああ、悪いな、アラン……」
宿へ戻り部屋へ入ると、中でヒマリが待っていた。今日も僕はヒマリと同室で、部屋にはベッドが二つ並んで置かれている。
夜、僕がベッドに腰を掛けていると、ヒマリが下着姿で僕の目の前に立って、好きです、と呟いた。僕がそれとなく拒むと、彼女はこちらを向いたまま僕の膝の上に座って首の後ろに手を回す。そのまま顔を近づけてきたので、今度ははっきり拒否するように彼女の体を押しのけようとした。すると彼女はこちらに体重をかけ、僕の手首をつかんでベッドに押し倒し、興奮気味にその顔を僕の首元に埋める。それでも僕が顔を逸らすと、彼女は片手で僕の首を掴み力を込め、そして無理やり唇を重ねた。
翌日、朝起きるとヒマリが謝罪をしてきたので、僕は今後のことも考えて彼女のことを許した。それから何事もなかったように支度をして、宿の前でディケインたちと合流し、その日はすぐに地下から舟に乗って学校へ帰還した。
学校で全ての依頼完了を報告し解散すると、ヒマリが僕のところに来て、僕の家に行きたいと言い出した。僕が寮であることを告げると、彼女は知ってる、と返して僕の手を握った。
僕は何か、誤解していたのかもしれない。ヒマリのことも、ディケインのことも、サリーのことも。それから、シルベもサキもルークも、アイカだってそうだ。全員がとてもいい人たちで、そして同時にどこか一か所僕とは決定的に分かり合えない部分がある。
僕はカオスに留まるべきだった。その一員となって蒼炎と組み、女王を支えるべきだった。今ならそう断言できる。




