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ブラッド組織の統治する領内には長距離移動用の地下水路が張り巡らされている。地下水路は舟で移動でき、ブラッド領民の主な移動手段となっている。水路は赤く濁っていて常に激しく流れており、誤って水路に落ちれば救出困難なため、使用には年齢制限も設けられている。
僕たち戦闘専門学校の生徒も、各地からこの水路を利用して学校へ通っている。学校から歩いてすぐのところに地下への入り口があり、僕はシルベと二人でこの入り口から帰路に就いた。
地下へ降り舟に乗って進むこと数十分、僕たちは自分の街に到着し地上へと上がった。
シルベとは同じ街の出身で、家も近く幼馴染のような関係だ。途中までは彼女と一緒に歩き、街の中心地で別れて自分の家へ向かう。少し歩くと次第に頭痛や息切れと共に足取りがおぼつかなくなり、一旦道端のベンチに腰を掛ける。
『アラン様、大丈夫ですか?』
脳内に直接語りかけてくる女性の声。彼女は僕にとりついた教団の怨念だ。僕の思考は伝わっているようで、問題ないよ、と口には出さず彼女の声に答える。
『ダメージがまだ残っているのではないですか?』
ああ、そうかもしれない。もう少し学校で休めば良かったよ。
『そうですね……家まではあとどれくらいなんですか?』
もうすぐそこなんだけど……。
「何してんの?」
声をかけられ顔を上げると、目の前に一人の女性が立っていた。彼女は僕よりも一つ年下の妹で、アイカという名前だ。僕と同じ戦闘専門学校に通う生徒でもある。
「ああ、ちょっと頭痛がして……」
「大丈夫?家まで歩けそう?」
「うん、大丈夫。先に行ってて」
「え……?いや、なんか怖いから待つよ」
アイカはそう言い僕のすぐ隣に座る。それから少しの間頭痛が収まるのを待って、その後二人で家へ帰った。
家は二階建て一軒家で、これまでずっとアイカと、それから彼女が飼っている鳥、二人と一羽で暮らしてきた。家に着き中へ入ると、僕はリビングのソファに座り、アイカはリビングに置かれた籠の中、飼育されている鳥の様子を確認しながら口を開いた。
「体調は?大丈夫そう?」
「うん、だいぶ楽になったよ。学校でルークにやられたんだ。今日は模擬戦だったから」
「へえ……ルークって人、ほんとに強いらしいね。私の学年でも結構話題になるよ。ファンって言ってる子もいるし」
「そうなんだ。人気は学校でも一番かもしれないね。いや、もしかしたら実力でも」
「実力はアヤって人じゃないの?よく分からないけど、強いんでしょ?」
「アヤ……最上級生の?噂では聞くけど戦闘自体は見たことがないから。正直よく分からない」
「なんか、魔法みたいなことができるらしいよ。ブラッドとは関係ない感じの」
「魔法って……多分教団の力だよね?」
「ああ、それそれ。学校でも習ったけど、よく分かんなかった」
「アイカはまだ座学あるんだ」
「まあね。今日もあったし。めんどくさかった」
「今日はどんな授業だったの?」
「魔物について。特にアポピスってやつ。最近Sランク指定されて図鑑にも載ったんだって」
「アポピス……聞いたことないな。僕の頃は無かった授業だから、本当に最近の新種だろうね」
「うん、ちょっと前にパールで出たらしいよ。王が一人で撃退して、そのときの情報が共有されてるみたい」
この世界は四つの勢力に分断されている。今アイカの口から出たパールというのもその中の一つだ。四勢力の中で最も平和や秩序を掲げ、ブラッドや他の勢力に対してもよく情報を共有してくれる。
「Sランクを一人で?本当に?」
「さあ。でもパールからの情報だし、嘘ではないんじゃない?あ、手紙も書かないと」
「手紙?」
「メアさんに。こういう話好きじゃなかった?」
「ああ、そっか……。にしても、本当なら凄いことだね」
Sランクに指定される魔物は普通の戦闘員では到底太刀打ちできず、基本的に討伐不可能と言われている。アイカの言うことが正しくたった一人でSランクを撃退したとすれば、それは世界でも初めてのことだと思う。
他勢力を含めたら、世界には規格外に強い人たちが大勢いる。そういう人たちと比べたら、きっと僕やルークの実力など遠く及ばないのだろう。例えば僕がそのレベルの、世界でも注目される程の強さを目指すのだとしたら、学校でルークに勝つことはその最初の一歩に過ぎないのだと思えた。