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かつて浮遊大陸にサカズキという男が居た。それは現在のパール勢力を率いる王の名であり、彼はその身にデウス教団、空間制御の力を宿している。
大陸を浮遊させる力の根源が、その空間制御、デウス教団の力に由来するものだとすれば話は繋がる。この地で力無き者として虐げられてきた、アウローラを筆頭とする彼女たちこそデウス教団の末裔だ。大陸を浮かせること、それは彼女たちにとっての役割であったが、いつしか竜の血族として進化したファフニール教団の末裔により支配され、奴隷制度が作り上げられた。
だとすれば、かつてサカズキが地上へ降りた時と同じように、デウス教団の儀式によって大陸ごと空間の歪みを抜けられるかもしれない。徐々に大陸を降下させ、位置を調整し、下の世界の海に着水させることができれば、もう誰も死なずに済む筈だ。
「あった……。空間を歪ませる儀式……」
フィオから渡された資料に目を通しながら、僕は自分の考えが正しかったことを確信する。
「え、どれですか?」
「ほら、ここ。世界を覆う程の歪みをどうやって作りだしたのかは分からないけど、少なくともデウス教団の儀式によるものだったみたいだ」
「本当ですね。逆の儀式は……あ、ありますよ!」
「うん、これで下へ行ける。儀式が扱える人を何人か集めて練習してもらおう。歪みが近づいたら実際に試してみないと」
「そうですね、早速伝えてきます!」
その後大陸は数日かけて徐々に歪みまで落ちた。その間に各街の住民を一か所に集め、不要な土地は歪みの中へと切り捨てることで大陸そのものの体積を減らした。
アヤとアウローラの間を取り持つことにも苦労したが、彼女たちがそれぞれの立場の代表として争ってくれたおかげで、他の場所で騒動が起きることは少なかった。それでも争いが起きたときはルークが介入し、力で人々を黙らせた。
大陸が歪みの高度まで達すると、まずは儀式により歪みに小さな穴をあけ、人が安全に通れることを確認してからアヤを一人で下へ送った。彼女は下でブラッドの中枢、ルインブラッドに経緯を報告し協力を仰ぐ。報告を聞いたブラッド統括はすぐさま行動に移り、大陸を着水させる海域の整備と、同時に浮遊大陸の住民をブラッド勢力として受け入る体勢を整えた。
それから更に十日以上かけて、浮遊大陸はブラッド統括より指定された海域へと無事に着水した。その光景を見たパールの王サカズキはブラッドを訪問し、ブラッド統括との交渉の結果、アウローラを除くデウス教団の人々はパール勢力が受け入れることで話がまとまった。
僕とルーク、アヤの三名は後日学校で教師に呼び出され、その場にはブラッド統括と、それからパールの王サカズキも同席した。
「大きくなったね、アヤ」
サカズキはアヤの姿を見て、嬉しそうに口を開いた。彼は思っていた以上に若く、一勢力を束ねる王の風格や威厳もあまり感じられない。しかし力は確かなようで、僕に宿るイコルも反応を示した。
『強い力を感じます。詳細までは不明ですが……アラン様の思考の通りであれば、デウス教団、空間制御の能力でしょう』
詳細不明ということは、彼の力も第四期のものか……。
アヤはサカズキから目を逸らし何も言わなかったが、それでも彼は笑顔のまま続ける。
「今回の件、僕からもお礼が言いたくて同席させてもらったよ。アウローラの支配を止め、大陸を落としてくれたこと、その地の出身者として感謝したい。本当にありがとう」
僕は彼に疑問を投げかける。
「ですが、どうして今まで下へ降りる選択をしなかったのでしょうか。デウス教団の儀式があれば可能だった筈です」
「我々が教団の末裔であることを知らなかったんだ。そもそも儀式というものが何か、何故それを続けなくては大陸が落ちるのか、それさえ知る術はなかった」
「デウス教団を宿す、貴方でさえもですか?」
「そうだね。僕だってみんなと同じだったから。ただ力を持っていただけで、教団についての詳細は下へ降りてから知ったよ」
「そうですか……」
僕たちはその後統括や教師から賞賛され、戦闘学校の卒業試験及び過程の免除を受けた。統括からは僕もルークたちと同じ年で卒業することを認めてもらえたが、しかし僕は自分の意思で六年目を通うことに決めた。




