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落下している状況に思考が追い付いたとき、僕は咄嗟の判断で指を噛み、血で生成した糸に血の杭を結び付けた。それを大陸へ向かって投げ、壁に刺さった瞬間僅かに杭の血を溶かして増幅、硬化することで固定する。糸は自身の体に縛り付け、その一連の作業を繰り返すことで体を空中に留めた。
これで空間の歪みに飲まれて即死することは避けられたが、イコルの加護が無くなった今異形化の進行は進んでいる筈だ。僕は血の刃を生成し毒を受けた足に突き刺すと、傷口から噴き出す異形に侵された血を捨てていった。代わりにまだ健康な部分の血を増幅させることで体内の血液を入れ替え、これを体力が尽きるまで続ける。ブラッドの戦闘学校で習う解毒の手法だ。
そうして力を使い果たした僕はゆっくりと空中で目を閉じた。
大きな揺れを感じて目を開けると、辺りは暗くなっていた。体は特に変化無く異形化は免れたようだが、この揺れは恐らくルークたちの仕業だ。僕が戻らないとみて動き始めたのだろう。
僕は血の糸をつたって上へ登り研究施設まで辿り着くと、血の刃を突き立てて壁をこじ開け中へ入った。周囲を見渡すと既にアウローラの姿は無く、部屋の中を少し歩くと、一人の少女が部屋の隅で蹲っているのを見つけた。僕が少女の側へ行くと、彼女は僕を見て目を見開く。
「あ……アラン様、ですか……?信じられません……一体どうやって……」
「血を入れ替えてどうにか……。ごめん、もっと警戒すべきだったよ……」
「そんな……謝るのは、私の方です……。逃げてしまってすみませんでした。謝って済む話ではありませんが、どうか……償わせてください……」
「つ、償うなんて、そんな……」
また地面が大きく揺れ、一旦口を止めた。既に大陸の落下が始まっている。長く話している時間はない。
僕は彼女に手を差し伸べた。
「イコル、もう二度と君に不安な思いはさせない。だからもう一度、力を貸してほしい」
「もちろんです。私の方こそ、もう逃げたりしません。これからもよろしくお願いします」
イコルは僕の手を取り、その瞬間、僕は彼女に秘められた強大な力を自らの物にした。
地上へ上がると、街は人で溢れていた。皆が膝を着き手を組んで祈りを捧げている。その中をかき分けて宮殿へ向かうと、人々の中心にルークの姿があった。
彼は全身傷だらけで、しかし平然としていて、僕に気が付くと口元に笑みを浮かべる。
「おう、アラン。遅えから始めてた所だ」
「遅れてごめん。アウローラは?」
「そこに転がってる。死んではねえから安心しろ」
ルークが指さす方向にアウローラの姿があった。彼女は地面に横たわっていて、付近では同様に数名が倒れている。その中にはアヤの姿もあった。
「アヤさんも寝てるけど……。もしかして、また二人が戦って相打ちに?」
「いや、両方俺がやった。そこで寝てるのは全員俺がぶっ倒した奴らだ」
「え、どうして……。ああ、いや、騒ぎが起きないようにだよね。ありがとう、ルーク」
「話が早えじゃねえか。案外簡単だったぜ……少し心配になるくらいな。それよりお前、大丈夫なのか?アウローラがお前を殺したってほざいてたぞ」
「うん、大丈夫。どうにか生きてるよ」
「ならいいが……。どうせ慈悲か油断だろ?俺に認められた男が、簡単に負けるなよ」
「そうだね、ごめん……。これからはもう負けないから。それで、状況はどう?予定通りにいきそう?」
「まあ、今のところはな。どうにか計画通り進んでる筈だが……あとの細かい指示はお前から頼む」
「分かった。教団については?」
「そっちはフィオに任せてある。詳しいことはあいつに聞いてくれ」
「フィオって?」
「あの女だよ。俺が最初に助けた。あいつには計画のことも話してある。あとはお前のいいように使え」
「分かった。混乱が起きたときは制圧を頼むよ。もちろん君のやり方でいい。地上へ降りるまでの間、この場では君が王だ」
「はっ、任せろ。力に任せた権力をクソみてえにぶん回してやる」




