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その日は一日宿の中で過ごし、日が暮れる前にはルークが206の部屋に戻ってきた。
「見ろよ、アラン」
ルークはそう言い、手に持っていた石を僕に見せてきた。その石は宝石のように紫色に輝いている。
「それ、カオスの……」
「何?知ってるのか?」
「うん。カオスの戦闘員が身に着けていた装飾品と同じ色だ。多分だけど、この鉱石が素材なんだと思う」
「どういう効果があるんだ?」
「詳しくは分からないけど、儀式の効力を強くしているのかな……。どこで拾ったの?」
「地下だよ。こいつで溢れてやがった。この大陸を浮かしてんのは人力だけじゃねえみてえだ」
「なるほどね……。その宝石を徐々に取り除くことができたら、大陸もゆっくり落下するかな?」
「さあな。どのみち空間の歪みに飲まれる。何人助けようとしてんのか知らねえが、全員は諦めろ」
「いや、全員だ。全員生きて地上へ送り届ける。だって、この大陸はもう飛んでいる必要なんてないんだから」
どれくらい前になるのかは想像もつかないが、かつてこの地を浮かせた人々はきっと守りたかっただけなのだと思う。その石の輝きと、そしてこの地の平穏を。
翌日、僕たちは四人全員で宿を出た。目的地はアウローラの待つ宮殿だ。
復讐、開放、そして改革と破壊。それぞれ思いは異なるが、成し遂げるための障壁は同じ。まずはアウローラを、その地位から引きずり下ろす。
宮殿のある街に着いたとき、そこは前回来たときは違った異様な雰囲気に包まれていて、住民の姿も見当たらなかった。代わりに僕たちの前には人の異形、首の無い巨人が立ちはだかる。
「人の異形……。それに、この雰囲気は一体……」
僕がそう呟くと、突然すぐ横の建物が倒壊し、中からまた別の巨人が現れた。首の無い巨人、目の前のと同じ異形だ。
「おい、なんだこいつら……。とりあえずぶっ倒すか?」
「待って、ルーク。何かおかしい」
来た道を振り返ってみると、結界の境目が見える。どうやら今僕たちの立つ場所は結界の外、この街だけに結界を無効化する力が働いているようだ。
『アラン様、気を付けてください。結界の外では異形の血が浄化されません』
浄化?それって……つまり、今まではずっと浄化されていたということ?
『はい。本来異形の血は触れるだけで他者を異形化させます』
カオスの女王が言っていたことは正しかったのか。
僕はすぐにルークに伝える。
「ルーク、やっぱり異形の血は触れるだけで駄目みたいだ。今までは結界が血を浄化していたから、この地で暮らす人々にはその認識が無いんだと思う」
「おう、分かった。触れなきゃいいんだな?」
「それはそうだけど……。交戦自体避けた方がいい。危険すぎるよ」
「もう遅えだろ。ここは俺に任せて、お前らは結界を無効化してる原因を潰してこい」
「いや、僕も残るよ。結界の方はアヤさん達にお願いしたい」
僕の言葉に、アヤともう一人の女性は宮殿の方へ向かって走り出す。
ルークは不満そうに僕を見た。
「おい、これくらい一人で十分だ。お前も行け」
「一人で十分なのは知ってるよ。でも、さすがに血を避けるのは面倒だと思って」
僕は指を噛んで血を流し、教団の力を開放した。増幅した血をルークの体に纏わせ硬化させることで鎧を形成する。返り血を気にせず戦えるように、ルークの肌を全て隠した。
「こういう鎧を作るのは苦手だよね?」
「確かに、この方がやりやすいか。強度は十分なんだろうな?」
「もちろん。安心していいよ」
ルークは既に眼前に迫っていた首の無い巨人に向かって更に距離を詰め、右拳を振り抜いた。拳は巨人の足に当たりその骨を砕くと、巨人はバランスを崩し前傾する。ルークはそれを見てもう一度拳を振るい、対象の体の中心近くを捕らえると、ヒットした箇所から生じた亀裂が巨人の体を切り裂いていった。黒く淀んだ血が大きな飛沫となって噴き上がり、その巨体は後方へと倒れる。
僕は巨人の血を浴びないように自分にも鎧を纏った。
ルークは一度両拳の手甲を合わせてこちらを向く。
「いいじゃねえか。今のでぶっ壊れねえなら十分だ」
「手や足は強度を上げておいたよ。あと一体くらいなら……あれ、あと何体いるの?」
気付くと周囲は首の無い巨人で囲まれていて、その数は二体や三体どころではない。
「数えきれねえな……。こいつらどっから湧いてんだ……」
「もしかして、スプレーじゃないかな?ルークも宿でかけられたよね?」
「ああ、あれが異形の血を含んでるのか?結界の無効化に気付かずに……いや、そもそも異形の血を浴びるだけで駄目だってことも、スプレーの成分すら知らねえかもな。そんでいつも通りにスプレー撒けばこうなるわけか」
「そうだと思う。にしても、全部同じ見た目だね。人の異形にも色々種類があった筈だけど……」
「なんでもいいだろ。今はこいつらを蹴散らすぞ。お前は俺のサポートに徹しろ。装備の耐久力を切らさねえようにな」
「分かった。邪魔にならないように、後ろで君の動きに合わせるよ」
「おう。行くぞ、アラン!」




