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ルークと二人で高台の頂上に着くと、そこでアヤが待っていた。
「やっと来たね。二人共、準備できてる?」
「はい、いつでも大丈夫です」
「俺もいいぜ。始めるか?」
「うん、じゃあお願い」
アヤはそう言い教団の力を開放して、背の両翼を羽ばたかせる。僕も同じく力を開放し、指を噛んで流した血を事前に増幅させておいた。ルークは上を見上げて拳に気力を込める。
「何も見えねえが……本当に届くんだな?」
「うん、歪みはすぐそこにあるよ」
「分かった。じゃあ、いくぜ」
ルークは天に向かって拳を突き上げ、その拳は何もない空間を捕らえた。強烈な衝撃が上空へ伝わり、一瞬大気に亀裂が入ったようにも見える。僕はそれに合わせて血を操り亀裂に血を差し込もうとしたが、しかし途中で制御できなくなり周囲に散ってしまった。
「待て、アラン!駄目だ!」
ルークの言葉に一度彼の方を見ると、その拳からは血が流れていた。今の一振りでかなりの反動を受けているようだ。
「くそ……もう一度だ。次は行ける」
「大丈夫なの?」
「ああ。技は出てる。あとは微調整だ」
ルークは深く深呼吸をして、再び拳を構える。
そして振り抜いた拳は空間を捉え、先ほどとも違う鋭く尖った衝撃を上空へと飛ばした。周囲には轟音が響き、今度ははっきりと打ち砕かれた空間を見た。僕は素早くその空間に血を滑り込ませると、教団の力を最大限利用することで穴をこじ開け、最後は血を硬化させて通路を作った。
次の瞬間、強烈な上昇気流が吹き上げ、それと同時に腕を引かれる。
全てが一瞬の事で、気付くと目の前には宙に浮く大陸が見えていた。僕はアヤに腕を掴まれ空を飛んでいて、すぐ隣ではルークも同様の状況で大陸を眺めている。
大陸は全体が何かの結界で覆われていて、その結界に支えられ空中に留まっているようだ。
「上手くいったね!二人ともありがとう!」
「アヤさんは大丈夫ですか?重くないですか?」
「大丈夫!すぐに着くから!」
そう言うアヤの手に少し力が入ったのか、彼女の鉤爪が僕の腕に食い込み血が流れた。彼女はそのことに気付いていない様子で、吹き抜ける風に乗り翼を羽ばたかせていた。
大陸を覆っていた結界は、物理的には干渉されず通り抜けることができた。浮遊大陸に降り立つとそこは自然で満ちていて、上陸した場所も木々で囲まれた森の中だった。
「ごめん、強く掴み過ぎてた……」
アヤは僕とルークの腕を放すと、そこから流れる血を見て謝罪する。
「大丈夫です。これくらいならすぐに治るので」
「ならいいけど……。ルークの腕は?」
ルークの片腕は損傷が激しかった。一度目で既に相当の反動を受けていたが、同じ技を二度も撃ったのだから当然だ。
「右腕は暫く動かねえな。まあ、片腕あれば十分戦える。問題ねえよ」
「でも、あの技は暫く無理じゃない?」
「さすがにな。あれは右腕でしか打てねえ」
「じゃあ、とりあえず街に行こっか。ルークはそこで休んで、帰りのために回復させておいて」
「道が分かるのか?」
「もちろん。迷ったら飛べばいいから」
森の中を進んでいると、前方から一頭の獣が現れた。犬のような外見で、向こうから襲ってくる気配は無い。
「なんだあいつ、気持ちわりいな……。あれが異形か?」
ルークの言葉にアヤが頷く。
「うん、針金の犬だね。全身の毛が尖ってるけど、それくらいかな。そこまで危険はないと思う。血を採っておく?」
「そうしたいが、道具がねえ。襲ってこねえなら一旦無視だな」
「そうね、分かった」
針金の犬、カオス領にあった異形の図鑑で見た姿だ。地上では絶滅したと言われる異形だが、この場所では今も生息している。過去に僕を殺したあの首の無い巨人も、この浮遊大陸から下の地上へ落下したのかもしれない。
暫く歩くと森を抜けて街に出た。その街並みは地上のものと大差ないが、建物はほとんどが木造のようだ。
「じゃあ、適当に宿見つけて休んでて。私はやることがあるから」
アヤはそう言いい立ち去ろうとしたが、僕は彼女を呼び止める。
「待ってください。何をしに行くんですか?」
「別に……ちょっと様子を見に行くだけ。この場所を離れてもう十年以上になるから」
「十年以上?そんなに前だったんですか?」
「そうだけど、なんで?」
「いえ……丁度重なるかもしれないと思って」
「重なるって、何が?」
「実は昔異形に襲われたことがあって……首の無い巨人の異形だったんですけど……」
「えっ……?地上で……?」
「はい、カオス領の街で……」
「何よそれ……。どういうこと……?」
「分かりません。ですが、この大陸と関係があるように思います」
「そうだね……。じゃあ、アランも一緒に行こう。ルーク、悪いけど一人で休んでて。色々確認したら戻るから」
僕たちはルークを街に残し、二人で別の場所へと向かった。




