3/132 (3/8)
目を覚ますと学内の医務室にあるベッドの上で寝かされていて、すぐ側では同じ班のシルベが椅子に座っていた。
シルベは僕が目を覚ましたことに気づいて声をかける。
「あ……大丈夫?」
「うん、どうにか。試合は?」
「さっき全部終わったよ。今回もルーク君の優勝」
「ああ、だろうね……。シルベとサキはどうだったの?」
「私たちは一回戦負け。班としては四位だったみたい」
「サキも一回戦負け?珍しいね」
「そうかも。アラン君はいい試合してたよね」
「いや、一方的だったよ。ルークの体術は何度受けてもよく分からないままだし、彼の技を見ることすらできなかった。結局前回と大して変わらない」
「体術?分からないって、どういうこと?」
「一撃の威力が高すぎるから、単に体を鍛えてるだけじゃない気がするんだ」
「じゃあ、血の力かな?」
「身体能力を上げるだけの技なんて無い筈だけど……もしかして、彼専用の技とか……。だとしたら、血の合成方法に秘密があるのかもしれない」
「それって……じゃあ、普通の技を使わないのも、何か理由があるんじゃないかな?」
「え……?そうか……使わないんじゃなくて、使えないのか……。その分身体能力を強化するような、そういう血の合成方法があるとしたら納得できる」
戦闘専門学校の生徒は自分の血を特殊な手法で合成し強化している。学内にも血を合成する専門の施設が設置されていて、血の研究をする研究員も在籍している。
医務室のドアが開き、一人の女性が中へ入ってきた。背が高く髪が長い、歳は二十代後半から三十代。彼女はヴィオラという名前で僕たち五年目の生徒を担当している教師だ。
「起きてるな、アラン。調子は?」
彼女はそう尋ねながら使用されていないベッドの一つに腰を掛ける。
「もう大丈夫です。明日からも普通に登校できます」
「そうか、ならいい。しかしお前らの班はルークだけで成り立ってるようなもんだな。ルークに頼るなとは言わないが、この状況に慣れすぎるなよ。あいつは卒業したら……」
「分かってますよ。ルークはトップの部隊にスカウトされる。でも僕たちは一緒に行けないから、ルークだけが班を抜けることになる。そうなれば班の評価も落ちるし、最悪個人で所属できる部隊を探すことになるかもしれない」
「そういうことだ。だが、三人残れるならまだいい」
「え……どういうことですか?」
「まあ、あえてここで言わせてもらうが……シルベ、お前はこのままだと卒業できない。個人の実力があまりにも足りないんだ」
シルベは一瞬教師を方を見たが、すぐに目を逸らして俯いた。
「聞いてるのか?アランの心配をするのもいいが、まず自分のことを考えろ。今日の模擬戦は何が悪かった?反省して次に活かせ。もう卒業まで時間はないぞ」
「はい、すみません……」
力なく返事をするシルベを見て教師はため息を漏らし、ベッドから立ち上がると医務室を出ていった。
シルベが卒業できない可能性については、班のメンバーも皆気付いている。当然本人が一番理解しているだろうし、そのことでシルベを追い詰めたところで何の意味も無い。
「シルベ、その……先生の言うことは気にしなくていいよ。先生はシルベのことを何も知らないし、知ろうとも思ってないだろうから」
「でも、本当に卒業できなかったらどうしよう……」
「大丈夫だよ。一緒に卒業できなかったとしても、少し時期がずれるだけだから。変に焦って無理をする必要はないよ」
「うん、ありがとう……」
「じゃあ、今日はもう帰ろう」
僕はベッドから立ちあがり、シルベと二人で医務室を出た。