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シルベが寮へ戻った後、暫くすると教師のヴィオラが医務室へ来た。
「止めるべきだったよ」
医務室に入るなり彼女はそう口にした。
「先生はルークのことを知っていたんですか?」
「混血であることは知っていた。ある程度皇国の技術を身に着けていることも。ただ、あれほどとはな」
「やっぱり、ルークは皇国の格闘術の中でも凄いことをしていたんですか?」
「凄いなんてものじゃない。あれは皇国でも使い手が限られる皇国流格闘術だ。見たところ技としての完成にまでは達していないが、それでも驚異的な練度だった」
「皇国流格闘術……。技として完成していないというのはどういうことですか?」
「皇国流には技が三つしかない。ルークのあれは、その中の一つ『破空』と呼ばれる技の出来損ないと言ったところだな。皇国流の基本動作をいくつか組み合わせただけだ」
「それであの威力ですか……。あの、ルークはどうなるんでしょうか。除籍なんてことにはなりませんよね?」
「ああ、学校側から何か処分が下ることは無いと思うが……本人がどうするかは別の話だ。最悪の場合、学校を去るどころか……いや。それより、これを渡しに来たんだ」
彼女は僕に鍵を渡した。鍵には部屋の番号が記されている。
「これ、寮の鍵ですか?」
「そうだ。お前が帰ってくると聞いて部屋を手配しておいた。寮までの道は分かるか?」
「はい、なんとなく……」
「そうか。なら私はこれで」
ヴィオラはそう言い医務室を出て行った。
暫くして僕も外へ出ると、辺りは既に暗かった。夜の学校を歩き敷地の外へ出て、そこから更に数分歩いて寮に到着する。中に入り自分の部屋へ向かうと、その途中廊下でルークの姿を見つけた。
「あれ、ルーク?」
「おう、アラン。お前も今日から寮か」
「うん。ルークは元々寮生だっけ?」
「いや、戦争の後からだ」
「じゃあ、ルークの家も戦争で……」
「家は無事だが……まあ、色々あった。俺の生まれた街はブラッドと皇国の中間にあってな、元々混血が多いんだ」
「中間って、もしかして……」
「気づいたか?俺の故郷は戦争で皇国に奪われた街だ。選択肢は色々あったが、一旦ブラッドで生徒を続けるために寮生になったんだよ」
先程教師が言おうとしてやめた言葉が分かった気がする。彼は今もブラッドの生徒としてここに居るが、周囲が彼を非難し居心地が悪く感じれば家へ帰るかもしれない。帰ればそこは皇国領で、彼は皇国の戦闘技術を持っていて、つまり最悪の場合、彼は学校を去るどころかブラッド勢力を去るかもしれないということだ。
僕はルークと二人で寮の屋上へ上がった。雲一つない空には星々が輝いている。
「アラン、お前はあれの正体を知ってるか?」
「星の正体?知ってるよ。亡くなった人たちが星になるんだ。その証拠に、戦争前よりも輝きが多い」
「はっ、何言ってんだ。もう少しマシな話をしてくれ」
「そういう君は?なんだと思うの?」
「あれは映像だ。空には天井があって、巨大なスクリーンになってんだよ」
「スクリーン……って、何?」
「知らねえのか?まあブラッドじゃあまり見ねえからな。皇国だとそこら中にスクリーンがあって、いろんな映像が流れてる」
「ルークは皇国に行ったことがあるの?」
「ああ、昔な。王都の闘技大会を見に行ったんだ。あの日見た試合は、今でも鮮明に覚えてる」
「そうなんだ。でも、だとしたら天井のスクリーンは誰が作ったの?」
「神かなんかだろ。多分今もあの天井の向こう側で、お前の話を嘲笑ってる」
「もしそうなら、最悪な世界だよ」
「最悪だろ。そうでなくても」
「ルーク……今日は僕の負けだ。認めるよ、君の力を。でも次は負けない。君のことをこれまでずっと目標にしてきたけれど、これからも同じだ。僕は君のように強くなりたい」
「ああ、そうか」
「君がこの先どれほど力を付けようと、僕はそれを追い続けて、いずれは超えて見せる。だから、君は安心して自分の道を突き進んでほしい」
「はっ、何の話だ?別にお前が弱くなったって、俺もつられて弱くなるわけじゃねえ。俺の強さにお前の存在は関係ねえよ」
「ははは、君らしいね」
「でもな……初めてだったぜ。試合中に負けるかもしれねえと思ったのは。お前は強えよ。俺もお前の力を認めてやる」




