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女王の束ねた混沌  作者: GGGolem
2/15 カオス編
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 その日、朝目覚めるといつものように黒い服の女性が僕の部屋に来た。最近知ったことだが、彼女の名前はミラというようだ。


「おはようございます、アランさん。今日も教会へ行かれますか?」


「いえ、今日はやめておきます。戦闘員が街に戻って、人手も足りているようなので……」


「そうですか。じゃあ、今日は私と二人ですね。女王陛下と蒼炎様は二人で外出するようなので」


「どこへ行かれるんですか?ブラッドとの交渉の場だったり……」


「ああ、どうでしょう……。もちろんその件も進んではいるとは思いますが……ブラッド側ではカオス以上に混乱があったみたいで、少し長引くかもしれません」


「混乱?何かあったんですか?」


「一部地域で皇国の侵攻があったと聞いています。戦争に乗じてブラッドを攻めたのでしょうね」


「皇国が……。それで、どうなったんですか?」


「すみません、私も詳しいことは分かりませんが……。心配、ですよね……」


「そうですね……」


 皇国は大陸の北に位置する勢力だ。四勢力の中で最も広い領土を保有しブラッドとも隣接している。確かに以前からあまりいい関係性ではなかったが、侵攻を受けたとなればブラッドとしては見過ごせない筈だ。




 その日は一日やることもなく、僕はミラの案内で城内を散策した。


 途中、城の書庫へ入り、書棚の中から魔物の図鑑を見つけた。僕はその図鑑を手に取り1ページずつ目を通していったが、やはりあの魔物、かつて僕を殺した首の無い巨人の情報は書かれていない。


 僕は図鑑を書棚に戻し隣にあったもう一冊を手に取る。それは汚れの目立つ古い図鑑で、表紙には異形という文字が記されていた。中を開くと載っていたのは知らない魔物ばかりで、その中にようやく首の無い巨人についての情報を見つけた。どうやらこの魔物は通常の魔物とは異なり、異形というものに分類されるようだ。


『異形は魔物とは異なる性質を持っています。異形には元となった生物が存在し、過去に私たちを襲ったあの首の無い巨人は人間が変異したものです』


 君は知っているの?そういえば、あの日見た巨人のことを初めから異形と言っていたよね。


『ええ、彼女が異形化するところを見ていますから。異形はかつて魔物以上に恐れられ、数々の教団を滅ぼした存在です。私の正体もその中の一つ。ある日、異形の研究によって生み出された私は、所属していた教団、イコル教団の教徒を喰らうことで彼らの力を取り込みました』




 夜、僕は木刀を手に城の中庭へ出た。暫くそこで素振りをしていると、蒼炎が同じく木刀を手に現れ僕に声をかける。


「ブラッドではあまり剣術を学ばないのか?」


「いえ、そんなことは……。やはり未熟に見えますか?」


「そうだな……。構えに隙がある。動作が遅い。体重移動が甘い。剣士としての基礎ができていないように見える」


「そうですか……。確かにブラッドでは剣術についてあまり指導体制が完成されていません。ブラッド全体の風習として、剣術自体が軽視されているようにも思います。貴方に負けた理由の一つかもしれませんね」


 蒼炎は頷くと、僕の前に立ち木刀を構えた。


「あの日、装備の性能ではお前の方が上回っていた。だが、正しい振り方を知らなければ性能差も意味をなさない。強くなりたければ本物の剣術を学べ」


「教えてくれますか?貴方の剣を」


「一から丁寧に教える気はない。私の動きを見て盗め。他勢力の人間に言えるのはそれくらいだ」


 蒼炎はそう言って大きく踏み込み木刀を振った。深い踏み込みに距離感が狂い、素早い振りに反応が遅れる。気付くと手の木刀は宙を舞っていて、それを目で追うと肩を木刀で軽く叩かれた。


「あっ……」


 剣が手を離れても、それを目で追っていてはまともに追撃を受ける。


 僕は木刀を拾い、再びそれを構えた。蒼炎を見ると今度は僕の動きを待っているようだが、こちらから動こうにも隙が無い。構えとはこうあるべきと語っているようだ。


 それから暫くの間、僕は蒼炎と木刀で打ち合った。彼は終始無言だったが、その中で学ぶことは多く、学校での演習以上に自身の成長を感じた。




 蒼炎と夜遅くまで打ち合いをしていると、その場に女王が現れた。彼女は僕たちを見て口を開く。


「なんだ蒼炎、他勢力の人間に稽古か?」


「女王陛下……これは、その……」


「ふふっ、別にいいよ。アランと敵対することは無いからね。少なくとも私が王の内は」


「確かに、そうかもしれません」


「でも今日は寝た方がいい。明日も一日出かけるんだから」


「分かりました。アラン、続きはまただ」


 僕が頷くと蒼炎は城の中へ戻った。彼が去った後、僕は女王に声をかける。


「あの、女王陛下……」


「リヴィでいいよ」


「では、リヴィ様……。今日城の書庫で異形の図鑑を見ました。異形とは何なのでしょうか?」


「異形の図鑑か……そんな古い本、良く見つけたね。異形というのはもう絶滅している生物で、ある種の病のようなものだ。異形の血を浴びた者がまた異形となり、他者から他者へ伝染する。かつては魔物以上に恐れられ、人々は神にすがり至る所に教会を建てた。やがて祈りを捧げる者たちによって教団が形成され、彼らは異形に対抗する術を見出した。それが今のカオスを……いや、我々カオス教団を支える戦術の軸となっている」


「カオス教団……」


「カオスだけじゃない。パールも皇国も、ブラッドもそう。今残る勢力は全て、異形の時代を生き抜いた、ほんの一握りの教団が行き着いた姿だ」


「では、異形を絶滅させたのも、今の四勢力ということですか?」


「いや、それは違う。異形を絶滅させたのはカオスだ。今では英雄と呼ばれる、カオスのある一人の男……。だから今も戦争をしている。四つの勢力仲良く平和になんて、ならないのはそのせいだ」


「どういうことですか?」


「カオスが異形を滅ぼし、ブラッドが異形を作った。ブラッドが再び異形を生み出さぬよう、我らカオスの英雄が作り上げたこの時代を守るため、私の父はブラッドを破壊すべきと考えたんだ」


「そういう理由で……。僕は、何も知らずに……」


「君が思いつめる必要はないよ。無知は仕方のないことだ」


「ですが……だとしたら、リヴィ様は何故ブラッドと和解したのですか?」


「私に父の意思を継ぐ気がないからだよ。カオスの英雄、ブラッドの失態、そんな過去に興味はない。時代は守るものではないからね。どうしたって移り行くものだ」

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