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気が付くと目の前に紫色の海が広がっていた。暫くその景色を眺めていると、後方から声をかけられる。
「もうすぐ次の波が来るらしいよ。この前の知らせの通り、規模は大きくなりそうだって」
僕は掌に視線を落とし、それから彼の方を振り向く。
「アキト……。戻ったよ」
「えっ……もしかして、意識が……?」
「うん、全員一緒に。よかったよ、これで僕たちの役目は一つ減った」
「じゃあ、完成したんだね……。メアさんにも報告に行こう。多分小屋にいるだろうから」
僕は頷いて島にある小屋へ向かった。
この島は四勢力のある大陸から少し離れた場所にある、どの勢力にも含まれない土地だ。ここで四人の僕が生まれ、他の三人は兄妹と共に大陸へ送られた。僕は一人この場所に残り、最後の体として大陸へ向かう時を待っている。
その小屋では一人の女性が椅子に座ってくつろいでいた。濃い紫の髪に同色の瞳の彼女は、年齢は僕よりも下だが、数百年分生きた記憶を持っている。原理は僕と同じ、死ぬことで別の体に意識が統合され、記憶を引き継いでいるのだ。
「メアさん、全員の意識が戻りました。貴女の研究は成功したようです」
彼女、メアは僕の言葉を聞いて笑顔を見せた。
「そうか……それは良かった」
「教団の力は既に三つ引き継いでいて、戦闘経験も十分過ぎるくらいです。それ以外にも面白いことが沢山あって……本当に、色々な経験をしてきたようです」
「ふふ……聞かせてくれる?どんな人生だったの?」
「はい。最初に亡くなったカオスの記憶はまだ子供の頃でしたので……」
僕は彼女にこれまでの記憶、三人分の人生について話した。振り返ってみればとても幸福な人生を歩んできたのだと思う。周囲の人間はいい人ばかりで、僕に期待してくれる人も多く、その期待を僕は最後まで裏切り続けてしまった。カオスでは女王や蒼炎の誘いに応じられずブラッドへ帰った。ブラッドでは前統括アスラの期待に応えられずロダに敗れた。皇国ではシルヴィアやギルバードの期待に応えられずブラッドの立場をとった。そしてパールでは、王やアーティアの期待に応えられず四勢力合同大会でルークに敗れた。
ルークはその後どうなっただろうか。兄妹たちの知らせを待てば直に分かるかもしれない。兄妹たちは全員がメアに文を送るための鳥を飼っていて、大陸での出来事を島に知らせてくれている。特に魔物に関する情報はメアの研究にも深く関わるため、新種が発見された際には重要事項としてすぐに知らせが届くことになっている。
メアの研究は魔物の進化についてのものだ。ブラッドが異形の力で人類を進化させようとしたのに対し、メアは魔物の進化の方法を奪おうとした。その結果四人の僕が生まれ、内三人が亡くなった今、研究は一つの完成を迎えたと言える。
これから僕は、四人分の力を自分一人のものにして、今後来る波に備える。魔物の進化を参考に僕が生まれ、死ぬ度に強くなってきたのなら、魔物もまた死をもって進化を繰り返すということだ。パールで僕がアポピスを討伐したことによって、魔物は更に進化する。それが先ほど弟のアキトも言っていた波、紫色の海底から湧き上がる、進化の兆しだ。




