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試合が終了して暫く後、僕が闘技場の中を歩いていると、アーティアが怒りをあらわにこちらへ向かってきた。怪我は待機していた医療班によって既に治療を受けたようだ。彼女は僕の胸倉を掴むと、強い力で壁に押し付ける。
「アラン……!私は貴方のことを絶対に許しません……。いつか貴方を超える力を持って、徹底的に叩き潰して、この試合のことを必ず後悔させます……」
「そうですか……」
「来なさい。まずは貴方を踏み台に同じ土俵まで上がります」
「ふ、踏み台って……」
アーティアは僕の腕を掴んで強引に引っ張り、とある女性の元に連れて行った。その女性はメイド服を着ていて、どうやらアーティアの元で働いている使用人のようだ。
「この者を宮殿で雇います。担当の者に準備させなさい」
「えっ!?さ、先ほど試合された方ですよね……?それに、男性ですが……」
「特例で認めます。私は控室に戻りますから、この者を監視しておくように。大会が終わった後、この者を連れて宮殿へ帰ります」
「は、はい……。承知しました……」
その後僕はメイド服の女性に監視されながら闘技大会の残りの試合を観戦した。大会は二日に渡って実施され、二回戦以降は二日目に行われたが、初日の観戦を終えると宿にまで監視を付けられた。
二日目、全ての試合が終わり、優勝したのはアーティアだった。彼女は勢力合同闘技大会の最後の参加者として僕を指名し、これでパールからの参加者三名が決定したことになる。
一回戦の試合、僕は彼女に敗れたのだ。
最後の一撃、混沌一列を僕はわざと彼女の盾に向かって放ち、反射した技が僕の体を貫いた。予想以上の威力に僕が膝を着くと、彼女は僕の頭部を盾で強打し、その一撃が試合を決めた。今彼女が腹を立てているのは、僕がわざと負けたことに気付いているからだ。
敗北を選んだ理由は、勝利の価値以上にそれによって失われるものが怖かったから。これまでの敗北を思い返したときに、ここで勝つべきではないと思った。ここで勝ってしまったら、これまで積み上げてきたことが全て無駄になってしまうような気がしたのだ。
パールの体になっても僕の目標は変わらない。見据える勝利はただ一人、ルークに対してだけだ。もはや異次元の強さを持つ彼に、勝てるのは世界でも僕だけだと思う。勝利を積み上げてきた彼に対して、僕の積み上げてきた敗北だけが勝機を見出すとしたら、自ら選んだ敗北にも十分な価値がある。それが迷信の類だとしても、試合の中での一瞬の判断を決めるには十分だった。
試合後アカリに会ったとき、彼女の悲しげな表情を見て、僕は自分の犯した過ちと敗北によって支払った代償を知った。心から応援してくれていた彼女のその表情は、一時の感情に任せた行動を後悔するには十分だった。
大会が終わると僕はアーティアに連れられ彼女の宮殿を訪れた。僕のための部屋はすぐに用意され、その部屋でアーティアは僕を問い詰める。
「それで、貴方はどうしてわざと負けるような真似を?」
「一時の感情を優先させてしまいました。恨まれて当然です。本当にすみませんでした」
「一時の感情?一時的に負けたいと思ったのですか?」
「そうですね……そのような感覚です。恐らくどう説明しても共感は得られないかと思います」
「ならこれ以上は聞きません。明日からは私の戦闘訓練に付き合っていただきます。詳細なスケジュールはメイドのどなたかに確認しておきなさい」
「訓練のために僕を連れてきたのですか?」
「ええ、それが貴方を超える一番の近道ですから。ギルドはどこに所属していますか?私から話をつけておきます」
「今はサカズキ様から直接依頼を受けていまして……」
「そうですか、分かりました。貴方のことを暫く借りると言っておきます。それではお休みなさい。朝は絶対に寝過ごさないように」
「あ、あの、どうして僕を指名したのですか?」
「何がですか?」
「勢力合同の闘技大会です。指名して頂いたのはとてもありがたいのですが、何故僕を?」
「貴方の愚かな行動さえなければ、優勝していたのは貴方でしたから。ですが、勘違いしないで下さい。別に貴方の実力に期待しているわけではありません。私程度に負けた弱さを、世界に晒せばよいのです」




