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一回戦の試合は順調に進行し、第七試合には観客の盛り上がりも最高潮に達した。
僕は闘技場の中央でアーティアと対面し、軽く挨拶を交わすとすぐに試合が開始された。彼女は左手で腰の剣を抜き、教団の力を開放することで右手に円形の盾を召喚する。左利き、もしくは利き手に盾を持ったようだ。
僕もイコルの力を片目で開放し、まずは膨大な魔力を前方一点に集め、ブラッドで覚えた技術である一列の容量で魔力を細い線のようにして打ち出す。高速で放たれた魔力の線はアーティアの左手に握られた剣を打ち抜き、剣は宙を舞い地面を転がった。
本来は盾で防ぎたかったのだろうが、一列の速度についてこれなかった様子だ。アーティアは驚いた表情を見せる。
すかさず距離を詰めようとしたが、彼女の方から接近してきた。盾を前方に構え大きく踏み込むと、彼女は魔法の詠唱を開始し足元には魔法陣が展開される。更にもう一歩を踏み込むとその足元にも魔法陣が展開され、同時に闘技場の地面が一瞬にして凍り付くと、僕は完全に足をとられ体制を崩した。その間にアーティアはもう一つの魔法詠唱を終え、彼女の持つ盾が帯電し始める。その盾を水平に構え、武器のように叩きつけてきた。僕は膨大な魔力を凝縮させることで小手を生成し、両腕をクロスさせて盾の攻撃を受けると、その衝撃と帯電された雷も含め、全てのダメージを自身の魔力で相殺していく。それから数回、アーティアは僕に向かって盾で殴打を続け、途中腕では防ぎきれなくなり全身に魔力の鎧を纏うことで彼女の攻撃を凌いだ。
アーティアが一度距離をとると、僕はその場に膝をついた。上手く凌いだと思ったが、体には痺れが回っていて、彼女の盾を改めて見ると、纏う雷がより強力になっているようにも見える。魔力の鎧では相殺しきれていなかったようだ。
アーティアが再び魔法の詠唱を開始すると、それを見て僕は二つ目の能力を開放した。左右の目に別の輝きが宿り、第二期教団の能力により魔人化すると、体の痺れを振り払い、足の拘束を解き、アーティアとの距離を一気に詰める。彼女の眼前に飛び出すと、僕は魔人の手で拳を握り振り抜いた。彼女は咄嗟に盾で受け、衝撃が反転し拳が弾き返される。僕は痛みに怯んで後退し、腕を確認すると数か所から出血していた。
「その目はなんですか……?まさか、二つの能力……」
アーティアは僕の目を見て驚き、一度魔法の詠唱を停止している。
僕が腕に力を込めると、魔人化の能力によりすぐに出血が止まり傷口も塞がった。彼女の盾には衝撃を反射する力がある。恐らく正面から突破するのは不可能だろう。
僕は三つ目の能力を開放し、手に黒い剣を召喚すると、その剣に膨大な魔力を込めていく。剣は黒く濁った魔力に覆われ、僕はそれを上段に構えた。
「いえ、三つです」
彼女の言葉に応えると、僕は大きく息を吐き、足に力を込めて地面を蹴った。魔人化によって得たスピードで彼女の背後をとると、そこから流れるような動きで素早く剣を差し込む。剣は彼女の盾をかわしたが鎧に阻まれ、そこで魔力を放出すると、放たれた混沌の魔力は一列に並び鎧ごと彼女の体を貫いた。
対人型混沌一列。混沌一列を簡易的にすることで発動までの時間を大きく短縮し、殺傷力も対人向けに抑えた技。この大会を見据えて完成させた技の一つだ。
アーティアは呻き声を上げて怯むと、傷口を抑えて地面に片膝を着き、盾の影に隠れることで追撃を拒んだ。僕は再び足に力を込めようとしたが、地面を埋め尽くす巨大な魔法陣が完成していることに気づき、衝撃に耐えるため全身に黒い魔力の鎧を再構築していく。
ルドラの毒は効いている筈だ。毒が回る前に魔法の詠唱を終えていたとすれば、恐らくこれが彼女にとって最後の魔法となるだろう。
凍結した地面が溶けて水が湧きだし、急速に増幅する水は僕の周囲を分厚い壁で囲んだ。僕は咄嗟に跳躍しようとしたが水に阻まれ、完全に水中に閉じ込められると、周囲の水は急激に冷え出し凍結していく。体は冷え、呼吸も出来ず、すぐに対処する必要はあるが、この程度であれば簡単に脱出できそうだ。これが彼女の最後の魔法と思うと、少し残念にも思える。
僕は周囲に膨大な魔力を放出ことで氷を砕くと、傷口を抑え絶望の表情を見せる彼女の前に立った。
思えばまともな対人戦では勝利した覚えが無い。D地区では蒼炎に、浮遊大陸ではアウローラに、皇国ではロダに敗れた。G地区でのルドラとの戦闘も、アイカと対峙したときに戦闘を放棄したことだって敗北に数えてもいい。ルークに対しては何度負けたか分からない。学生時代に一度も勝てず、教団の力を開放して挑んだ決闘も、闘技大会での再戦でも敗れている。
俺に認められた男が、簡単に負けるなよ。いつかルークに言われた言葉を今でも覚えている。いままで何度も破り続けた約束を、初めて守るときが来た。ここでの勝利を足掛かりに、この先僕は誰にも負けない。
僕は足に力を込め一瞬でアーティアの背後をとると、咄嗟に振り向こうとする彼女の、敗北の悔しさに歪む表情を見た。僕は再び剣を差し込み混沌の魔力を一列に並べる。
対人型混沌一列。三つの能力で圧倒的な力を見せつけた、これは僕にとっての始まりの勝利だ。




