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翌日、朝一階に降りると、カフェにリリアの姿があった。彼女は僕を見て口を開く。
「あ、アラン……。今日から来ないって聞いたんだけど」
「ごめん……」
「もう一回ギルド長と話してみよ?私も同席するから」
「ありがとう。でも、ギルドへ行くのはやめておくよ。仕事はまた別で探すから、大丈夫」
「そんなこと言わないでよ……。これまでアランがどれだけ頑張ってきたか、私は知ってる。それが全部無駄になるなんて、嫌だ……」
「無駄にはしないよ。すぐに別の部隊を探す気もないけど……今は少し、自分の戦い方とか色々見直そうと思ってるんだ。じゃあ、今日は来てくれてありがとう」
「えっ、どこ行くの?」
「ちょっと開けた場所に。魔法を練習しようかと……」
「それなら私も一緒にいくよ。草原の方?」
「一人で試したいことがあるんだ。リリアに頼ってばかりじゃいられない」
「そ、そう……分かった。応援してるから」
「うん、ありがとう」
僕は一人で草原地帯まで来ると、パールの僕がこれまで習ってきた魔力操作について一通り復習した。
部隊を除名になるくらいの実力だ。パールの僕はあまり戦闘の才能に恵まれなかったのだろう。それでもその道を志していたことを今は感謝したい。
結局僕がまともに扱えた魔法は一つもなかった。できることは手から魔力を放出して、適当に飛ばすくらいだ。しかし、これだけできれば十分。魔力を操る感覚はブラッドの血を操る感覚と似ている。時間さえあれば、またあの技を完成させられる筈だ。
イコル教団の力を開放すると、内に宿る魔力が増大した。やはりイコルの能力は体に流れる血に応じて変化するようだ。増大した魔力は暴走し、初めは制御しきれず周囲に放たれた。しかしブラッドでの感覚を思い出すことですぐに暴走は収まり、魔力は手中に凝縮されていく。
パールの僕、これまで本当によく頑張ったね。ここから先はもう大丈夫。ブラッドの戦闘センスと二教団の力で、一気にパールの頂点まで駆け上がろう。
それから十日以上が経過したある日、僕の暮らす街にもようやくその情報が届いた。その日僕が自主訓練から戻ると、アカリは少し興奮気味にその話を始めた。
「あ、お帰り!アランの言ってた通りだったよ!皇国がカオスブラッドの連合軍と戦争を始めたって!」
「そ、それで?今の戦況とか、何か分かってる?」
「えっと、すぐに収束しそうって聞いたから、たぶん皇国優勢なんじゃないかな?詳しいことは王都とかもっと情報が集まる場所に行かないと分からないかも」
「そっか……。それ、何書いてるの?手紙?」
「うん、そう。これはちょっとメアさんにも送っておかないと。あの人こういう話好きそうでしょ?」
「メアさん……ああ、そうだね……」
メア。親の居ない僕たちの、育ての親。その人はいつも、紫色に染まった海を眺めて世界が終わる日について語っていた。世界はいずれ魔物によって滅ぼされる。この先人類がどれだけ進化を続けようと、その結末が変わることはないのだと。




