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翌日、朝いつものようにギルド拠点となっている酒場へ向かうと、僕はギルド長の男に呼び出された。彼は申し訳なさそうな表情で告げる。
「アラン、非常に言いづらいのだが、君をこのギルドから外すことになった。今日からの仕事は別で探してもらえないか」
「えっ……除名、ですか……」
「ああ……すまないが、そうなる。君とパーティーを組んだ者たちから打診があってな……。今後は別の才能を探してみるのもいいんじゃないか?確か君の家は店を営んでいるだろう?まずはそこの手伝いをしてみるとか……」
「そうですね……少し考えてみます。今までお世話になりました」
僕は一度深く頭を下げ、その場から立ち去った。
酒場を出ると、丁度道の向こうにリリアの姿が見え、彼女は僕に手を振って声をかける。
「アラン、どうしたの?忘れ物?」
「いや、その……まあ、そんなところかな。いつ戻れるか分からないから、今日は先に依頼受けておいて」
「えっ、一緒に行こうよ。別に待ってるけど?」
「ごめん、今日は……また明日」
「ああ、うん……」
僕が家のカフェに戻ると、アカリが少し驚いた表情で出迎える。
「あれ、アラン?忘れ物?」
「いや、その……今日からは別で仕事を探すように言われちゃって……」
「えっ……!?く、クビってこと……?」
「そうだね……。少しの間心配かけるかもしれないけど、僕は大丈夫だから」
「そ、そう……。ちょっと一回話し合う?今日はお店も閉めよっか」
「いや、大丈夫。寧ろ手伝えることがあれば言ってよ。今日はたぶん部屋で暇してるから」
「そう……?何かあれば言ってよ……?」
「うん、ありがとう」
僕はカフェの二階にある自分の部屋に戻り、今後について考えた。
今最も気がかりなのは皇国カオスブラッドの戦況だ。できる限り情報を集めたいが……それでもしブラッドが不利な状況だったとして、今の僕に何ができる?国境へ駆けつけて加勢するか、王都へ戻って統括と戦うか?
違う。僕はもう、その争いからは退場したんだ。ロダに敗れた僕に、再び戦地へ戻る資格はない。今の僕は、パールの一戦闘員に過ぎないのだから。
僕は大きくため息を吐き、部屋にある椅子に座った。
パールの戦闘員、ということは血の色も変わっているのだろうか。僕は試しに自分の指を噛んでみたが、歯が平坦すぎるのか上手く出血ができない。ブラッドの人間は歯の形すら進化していたのかもしれない。
その後部屋の中で刃物を探してみたが、ナイフの一本も見つからず、僕はカフェの包丁を借りるために店が閉まるのを待った。
夜、カフェが閉店し姉の姿が無いことを確認すると、僕は一階へ降りて包丁を探した。台所でそれを見つけると、明かりを点けて手首を切った。痛みと共に血が流れ、その僅かに紫色を帯びた綺麗な色に驚く。
「これが、僕の血……?」
何の改造も施されていない、研究される前の人間の血。傷口はすぐには塞がらず、絶えず血が流れることに不安を覚える。ブラッドの戦闘員が異常だっただけで、これがまともな人間の感覚なのだろう。
「アラン?何してるの?」
振り向くと姉の姿があり、僕は慌てて包丁を隠そうとしたが、その拍子に手首から血が飛び散った。
「あっ、いや、これは……」
「ちょっと、血が……!何……!?包丁……!?」
アカリは僕に近づくと、その手から包丁を奪い取り、一度台所を出るとすぐに救急箱を持ってきた。
「ごめんね……。もっとアランの気持ちを分かってあげなくちゃいけなかったね……」
「えっと……これは、そういうことじゃなくて……」
アカリは僕の手首に包帯を巻き、そして優しく抱きしめてくれた。
「今後のことなんかすぐに決めなくていいから。ゆっくり考えていこうね。今日は私の部屋で一緒に寝よう?」
「ごめん、誤解なんだ……。ちょっと血の色を確認したかっただけで……」
「血の色……えっと、どういうこと?」
「昨日、顔つきが変わってきたって言ってくれたよね。嬉しかったし、その通りなんだよ。まさに昨日、僕は変わったと思う。もうすぐパールにも情報が入ると思うけど、今皇国はカオスブラッド連合軍と戦争をしてる。僕はその中心で戦ってきたんだ」
「へ……?ご、ごめんなさい、全然分からない……」
「今は分からなくていいよ。とにかく、僕は昨日から別人に生まれ変わった。部隊を除名されたのは一昨日までの僕で、そのころの僕はもうここには居ない」
「そう、なの……。そうなのね……。うん、分かった。信じてみる」
「ありがとう、姉さん。心配ばかりかけてごめん。今日はもう大人しく寝るから」
「ああ、うん……おやすみなさい……」




