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気が付くと僕は草原に立っていて、目の前にはダイアウルフの姿があった。魔物の咆哮に空気の振動を肌で感じていると、後ろから男の声が聞こえる。
「アラン、どけ!邪魔だ!」
次の瞬間ダイアウルフが炎に包まれ、僕はその炎の勢いに押されて草の上に転倒した。
パールの魔法だ。ダイアウルフはどうにか炎を振り払ったが、続けて放たれた氷の槍がダイアウルフの首元に突き刺さると、血飛沫を上げてその巨体が草の上に伏した。
僕が思考の整理をしていると、一人の女性が側に駆け寄ってきた。彼女は僕と同年代でリリアという名前の幼馴染だ。
「アラン大丈夫?なんかボーっとしてなかった?」
「ああ、うん……」
「立てる?ほら」
彼女が差し出してくれた手を握り返そうとしたが、自分の伸ばした手が異常に震えていることに気づき、僕はその手を暫く眺めていた。
「おいリリア、帰るぞ!そんな奴ほっとけ!」
男の声がしてリリアが声の方を向く。
「いや、なんかアランの様子が変なんだけど……」
「魔物にビビってるだけだろ?動けねえなら置いてきゃいい」
「そんな……ちょ、待ってよ!」
僕は呼吸を整えて立ち上がると、何事もなかったように歩き出す。
「僕は大丈夫。ありがとう」
「あ、アラン……?さっき、手が……」
「なんでもないよ。行こう」
僕はロダに負けた。彼の技を頭部に受け、恐らく即死だったのだろう。ルドラの毒で技を封じた筈だが、毒が効かなかったのか……。分からないが、技を封じたという思い込みによる僅かな油断、そこに生じた隙を突かれた。彼は僕に対する唯一の勝機を掴んだのだ。
ブラッド統括に、合わせる顔が無い。皇国騎士第十二席、明らかな格下にすら勝てず、何が人類の進化の証だ。ブラッドの歴史も、長年の研究も、そして研究により犠牲になってきた人々の想いも、何もかも、僕が全てを台無しにした。勝てるチャンスは何度もあったのに、余計な慈悲で見過ごしてしまった。今更悔いても過去は変えられないが、僕は本当に愚かな選択をした。
ギルドへの依頼報告を終えると、僕は付近にあるカフェへ向かった。クローズドの看板を無視して中へ入ると、一人の女性が僕を出迎える。
「お帰り、アラン。コーヒー淹れるね」
彼女はアカリという名前で僕の姉だ。現在は一人でこのカフェを経営している。
「あ……ありがとう……」
「ん?どうした?何かあった?」
「その……皇国の話って、聞いてる?」
「皇国?ああ、うん、聞いたよ。新しく女帝が即位したんだよね。第十三席も新設されたって。なんか色々変わってきたね」
「いや、そうじゃなくて……ごめん、なんでもない」
ロダに殺されたことで別の体に意識が移り、記憶が統合されている。今の僕にはブラッドとパール、両方で過ごした記憶がある。昔、まだ子供だった頃にカオスからブラッドへ体が移ったときと同じ現象だ。今の僕は三番目の体ということになるが、ということは、皇国に四人目が居るのか……?いや、でも僕は女帝の即位式で顔と名前を公表している。もう一人の僕が皇国にいるのならどこかで騒ぎが起きていてもおかしくはない。教団の力はどうなっている?イコルとルドラに異変は……。
『はい、ここに居ます』
『おい、何が起きたんだ?』
良かった。二人とも引き継いでいる。
ルドラ、何か変化があったの?
『ああ、なんというか……部屋が、広くなったな……』
え……?
「はい、コーヒー。何か考え事?」
「あ、いや……。ありがとう」
「なんだか顔つきが変わってきたよね。部隊ではどうなの?しっかりやれてる?」
「えっと、どうだろう……。まだ迷惑かけてばかりだと思うけど……」
「そう。明日も頑張ってね」




