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翌日、僕はカオス領にある城の一室で朝を迎えた。体は拘束はされていない。部屋にも鍵はかけられておらず、窓からは外も見える。捕虜としては自由過ぎる身だ。夜の間に逃げることだってできたかもしれない。
暫くすると誰かが部屋のドアを叩いた。僕が返事をすると、昨日看護してくれた黒い服の女性がドアを開けて中へ入ってきた。
「おはようございます。着替えを持ってきました」
「あ、ありがとうございます……」
「昨日はよく眠れましたか?何か不便があれば言ってください」
「いえ、その……どうしてそこまで親切にしてくださるのですか?僕はブラッドの人間で、貴女にとっても敵の筈です」
「貴方は客人の一人ですよ。勢力間で争っているからといって、貴方個人に恨みがあるわけではありませんから。それに、貴方の方だって城を襲ったりしないじゃないですか」
「それは……そうですね。治療してもらったこともありますが、そもそもカオスと争っている理由も知りませんし……。あの青いローブの人には、僕の性格も全部見透かされていたのかもしれませんね……」
「ふふ。きっとそうですね。では、着替えはここに置いておきますので」
彼女はそう言い部屋を出て行った。
暫くの後、再び誰かが部屋のドアを叩いた。僕が返事をすると、今度はあの青いローブの男が部屋の中へと入ってくる。
彼はあの時と同じ格好をしていたが、全身至る所に包帯が巻かれており、まだ僕との戦闘の傷は癒えていないようだ。
「元気そうだな、アラン。私は完治まで暫くかかる」
「だいじょう……いえ。貴方は、どうして僕を殺さなかったんですか?」
「それは……そうだな、見せた方が早いか。ついてこい。少し遠出になるが」
「遠出……?」
「見せたい場所がある」
僕は彼について部屋を出て、そのまま城をあとにした。
城を出た先の街で馬車を拾い、僕たちは二人で街を出た。
「どこへ向かっているんですか?」
馬車の中で僕が尋ねると、ローブの男は外の景色を眺めながら答える。
「私の故郷の街だ。あと一時間ほどで着くだろう」
「故郷……」
「それを見てお前が何を思うかは分からないが」
「もし何も思わなければ……?」
「戦闘になるかもしれないな。その時は私への恨みを晴らせばいい」
「そこまでして……?」
「ああ。確認しなければならないことだ」
それからほとんど会話もなく目的地に到着した。僕たちは馬車を降り、ローブの男は街の外れへ向かって歩き始める。暫く歩くと目の前には森が広がり、そこで彼は足を止めた。
「昔、弟が居た。アランという名で、まだ小さい頃にこの森に迷い込み、命を落とした」
「え……?」
「元々魔物の報告もあまり無い場所だったが、その日は違った。首の無い巨人のような魔物が発見され、弟の死後、街に滞在していた部隊が総出で討伐に当たっている」
「それって……」
「記憶にあるか?」
「多分、僕です……確かに、言われてみればこの森ですね……。過去にここへ来たことがあります……」
「しかし弟は死んだ。遺体は発見され、既に埋葬されている」
「じゃあ、僕は一体……」
「何者だ?お前の宿す教団の能力の一部なのか?」
「それは、違うと思いますが……。ブラッドとカオス、両方の記憶があるのかもしれません……」
「カオスの方を忘れていたのか?」
「そうですね……まだ小さい頃でしたから……」
「ああ、確かにな……」
僕たちは森の中へは入らずに一度街へと引き返した。
改めて見渡すと、そこは見覚えのある街だった。この場所で過ごした日々が、確かに僕の記憶の底に眠っている。
「この街……僕たちの故郷だ……」
そう呟いた僕に、ローブの男は笑みを向けた。
「そうか……よく生きていてくれたな。ここの記憶があるのなら、お前は私の知る弟だ」
「じゃあ、亡くなったのは一体……」
「一つあてがある。メアに手紙を出してみよう」
「メアって……」
「大陸へ渡る前の保護者のようなものだ。彼女と会うことはできないが、鳥を使って文通している」
「し、知っています……。僕の妹も同じことをやっていて……。もしかして、二つの体が同じところで生まれたんじゃ……」
「そういうことか……。一度問い詰めてみよう。彼女の行った研究が、お前を生み出したのかもしれない」




