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女王の束ねた混沌  作者: GGGolem
1/15 開戦
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 日が暮れかけている。頭上を覆う木々の隙間から橙色の光が差し込むのを見て、僕は凡その時刻を悟った。森に迷い込み既に数時間が経つ。そろそろ帰路を見つけなくては。


 前方を見ると、一人の少女が木の陰からこちらの様子をうかがっていた。僕が声をかけると少女の方からこちらへ歩み寄ってきて、近くで見ると彼女は全身微かな光を放っている。それは彼女が人間でないことの証明に思えたが、その口から発せられたのは僕にも理解できる言葉だった。


「何をしているのですか?この森は危険です」


「危険……?魔物は滅多に出ない筈ですが……」


「今この森には異形の者がうろついています。すぐに出口を探しましょう」


 耳を澄ますと足音が聞こえ、その音は次第に大きくなり僕たちの元へと近づいてきていた。


「早く逃げないと……。手を貸して下さい」


 少女の差し出す手を握ると彼女は目の前から姿を消してしまい、やがて木々をなぎ倒す轟音と共にその巨体が目の前に姿を現した。首の無い巨人のような外形をしたそれは、両腕を大きく振り上げると、丁度僕の真上から握られた両拳を振り下ろした。



ーーー



 何年も前のことを今になって夢に見た。こうして夢として見れば本当にただの夢だったようにも思えるが、あの日森の中で出会った少女は今も僕と共にある。あれ以来、僕は彼女に取り憑かれていた。


 少女は僕の体の中に潜み、時折脳内に直接語りかけてくる。以前学校の授業で知ったことだが、このように人に宿る意思のことを「教団の力」と呼ぶらしい。過去に宗教団体を形成していた人々の怨念が、人の形で具現化し世界中に存在しているようだ。


 この日僕はいつものように家から学校へと向かった。戦闘専門の学校であるその施設には戦闘員の志望者が集い、日々戦闘についての知識や技能を学んでいる。この学校を卒業した生徒は全員、僕の住む地域一帯を治める組織の部隊の一員として任務に就くことになる。


 学校が近づくと道を歩く他の生徒の数も増えていき、その中の一人に声をかけられた。


「よお、アラン。今日は模擬戦だな」


 茶髪で僕より少し背の高い彼は、ルークという名前で同じクラスの生徒だ。僕にとっては一番の親友でもある。


「ルーク、おはよう。またトーナメント形式かな?」


「だろうな。ま、俺はいつも通り全員ぶっ倒すだけだ」


「今回は僕も負けないよ。君に勝つために照準を合わせてきたんだから」


「はっ、お前は決勝まで来れるかも分からねえだろ。せいぜい頑張れよ」


「うん、精一杯やるよ」


 ルークは少々乱暴な性格ではあるが、戦闘能力に関しては学内でも群を抜いている。一つ上の最上級生である一人を除き、恐らくこの学校で彼に並ぶ者はいない。


 学校の前まで着くと、校門を眺めて立ち尽くすだけの生徒が一名。彼は目に涙を浮かべ体の震えを堪えているが、この学校では珍しい光景でもない。


 戦闘専門学校は六年制。毎年の入学者は千人を超えるが、その中で二年目を迎えられるのは半数以下。そこから三年目四年目と学年を上げていく毎に生徒数は減り、最終的に卒業できるのは毎年百人を切る。


 そんな厳しい学校での生活も、僕とルークは今年で五年目だ。全ての座学を終え、授業は今日のような模擬戦が月に数回。その他の時間は学内の施設を利用した自己演習のみとなっている。


 立ち尽くす生徒よそに僕はルークと二人で平然と校門を通過し、学内に設置された闘技場へと向かった。




 闘技場に到着すると、既にクラスメイトの半数以上が集合していた。その中の一人、桃色の髪の女子生徒に声を掛けられた。


「あ、二人共、さっさと来て。登録するよ」


 彼女はサキという名前で、同じ班のメンバーだ。


 戦闘専門学校では気の合う仲間と班を組むことができる。班を組むことで協力して授業に参加できるが、様々な連帯責任が発生する他、今日のような模擬戦でもメンバーが揃わなければ参加登録できない。それでもこの学校で過ごすために協力は不可欠と言え、僕と同じ五年目を迎えた生徒は全員が他の誰かと班を組んでいる。


「おう。揃ってるな」


 班のリーダーであるルークは、メンバーが全員揃っていることを確認しサキと二人で登録へ向かった。


 僕の班は全部で四人。その場に残ったもう一人の女子生徒も同じ班の仲間だ。僕はその女子生徒に声をかける。


「おはよう、シルベ」


「おはよう。頑張ろうね。私は足を引っ張っちゃうと思うけど……」


 彼女はシルベという名前で、戦闘能力に関しては僕の班で最も低い。彼女が五年目まで進学できたことも、周囲からは同班のルークのおかげだと囁かれている。けれど、ルーク本人がそれを聞けば違うと一蹴するだろう。シルベが同じ班にいるのは、彼女がこの班にとって必要だからだ。


「大丈夫。ルークは班の成績なんか気にしないよ」


「そうかな……。アラン君は?」


「え?僕は……もちろんみんながいい結果を残すのが一番だと思うけど……苦手なことは誰にだってある。それを補うのが班なら、今日頑張らないといけないのは僕やルークだ」


「うん……ありがとう。応援してる」


 ルークがメンバーの参加登録を終え、それから暫くの後、トーナメントの対戦表が公開された。僕はそれを確認して大きくため息を吐く。ルークの方を向くと、彼は口元に笑みを浮かべていた。


「初戦かよ。全く運が悪いな」


「ははは……本当に、そうだね……」


 対戦表は完全にランダムで決定され、同じ班でも容赦なく対戦が組まれる。僕の初戦の相手はルーク。前回模擬戦での決勝カードが初戦に組まれる形となった。

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