戦いの準備
オレ達は帝国の動きを知らせるため、スチュワート王国のお父様のところにやってきた。
「帝国が攻めてくるというのは本当か?」
「はい。」
「どのくらいの兵力なんだ?」
「10万ほどいると思います。」
「10万だと~?!」
「はい。帝国中から兵士を集めているようですから。」
「いつぐらいに到着する予定なんだ?」
「1週間後には国境まで来るでしょう。」
「わかった。ならばすぐに王城に行って陛下に報告せねば。アスラ達も来てくれるんだろうな。」
「はい。」
オレ達はお父様と一緒に王城に向かった。王城の大会議室で待っているとユリウス公爵とビクトル国王がやってきた。
「久しいの~。アスラ。」
「はい。」
「帝国軍が10万の兵力で攻めてくると聞いたが、誠なのか?」
「はい。」
「何故、帝国軍は我が領土に攻め込んでくるんだ?」
オレはランセル王国とランダ王国を帝国から解放したことを伝えた。
「どうしてそれが我が国と関係があるんだ?」
するとユリウス公爵が説明した。
「陛下。魔王の正体はアスラです。アスラは我が国の貴族ホフマン家の者です。恐らく、その情報は世界中に知れ渡っているでしょう。」
確かにそうだ。グラッセ王国のジェイムス国王も知っていたぐらいだ。トラヤス皇帝が知らないわけがない。
「そうか。そうであったな。それで、10万人の帝国軍を相手に勝てるのか?アスラ。」
オレは返答に詰まってしまった。すると、ビクトル国王は不安そうに聞いてきた。
「アスラ!どうなんだ?勝てるのか?勝てないのか?」
隣で聞いていたリンが国王に言った。
「勝てるに決まってるじゃない!アスラは魔王なのよ!10万人どころか100万人でも相手にならないわよ!でも、アスラは死者を出したくないのよ。そうでしょ?アスラ。」
リンの言葉にユリウスが驚いたようだ。
「アスラ。それは本当なのか?」
隣ではお父様が心配そうな顔で見ている。
「帝国兵達にも家族はいるでしょう。もしここで父親が死んだとなれば、親のいない子ども達が沢山溢れます。その子達の面倒は誰が見るのですか?オレには簡単に兵士達を殺せないんです。」
するとビクトル国王が言った。
「やはりそなたは優しいな。最初、魔王が現れたと聞いて肝を冷やしたが、魔王がそなたでよかったよ。アスラ。」
今まで黙っていたお父様が言ってきた。
「アスラ。お前の優しさはわかる。だがな。このまま帝国軍が攻めてくれば我が国に親のいない子ども達が沢山出るのだぞ!帝国の子ども達も我が国の子ども達も同じではないか!」
オレの頭の中はぐちゃぐちゃだ。一体どうしたらいいんだろう?どうすればこの戦争を終わらせることができるんだろう。
「アスラ兄。召喚の指輪。精霊さん達にお願いするしかない。」
「そうよ。アスラ。マロンの言う通りよ。精霊女王も協力してくれるわよ!」
ビクトル国王もユリウス公爵も口を開けて驚いた。
「今、精霊女王とかなんとか聞こえたんだがな。」
「ああ、世界樹に行ったときにお目にかかったんです。」
「それは誠か?」
「はい。」
「アスラ。お前は何者なんだ?本当に魔王なのか?」
「アスラは間違いなく魔王よ!それ以外の何者でもないわ!」
結局、国王陛下は国境付近にスチュワート王国軍7万人を配置してくれた。最悪の場合に備えておくためだ。
「さて、これで準備万端ね。」
「これからどうするんだ?」
「そうだな~。今後のことを考えて世界樹に行こうか?」
するとミコトが驚いたようだ。
「私も世界樹に行っていいのか?」
「何言ってるのよ!ミコト!あなたも私達の仲間でしょ!」
「仲間!仲間!第3夫人!」
「マロン!なんで私が第3夫人なんだ!」
オレ達は世界樹まで転移した。するといきなり光の球が現れ、精霊女王ラミリスと7大精霊達が現れた。
「ガイア様!お待ちしてましたよ!」
するとウンディーネとシルフィーがオレの左右の腕に抱き着いてきた。やはり大人の女性の感触だ。
「ガイアちゃん!よく来たね!昔みたいにお姉さん達と遊ぼ!」
「私もずっと寂しかったんだからね!」
その隣ではノームとサラマンダーが呆れた様子で見ている。
「まあまあ、あなた達。ガイア様は用事があって来たんですよ。そうですよね?」
「はい。」
流石精霊女王だ。オレ達が来た理由がわかっているようだ。それでもウンディーネとシルフィーが離れようとしない。
「ウンディーネ!シルフィー!アスラは私達のものなんだからね!」
リンがいきなりウンディーネをどけて腕にくっついてきた。それを見てマロンが真似をして、シルフィーをどけてオレにしがみついてくる。ミコトはみんなのやり取りに呆気に取られていた。
「キャッ」
みんなの仲裁に入ったのは双子の大精霊のウイスプとシェイドだ。
「ガイアが可愛いのはわかるけどさ。あんまりくっついてばかりいたら逆に嫌われちゃうんじゃないかな~。」
「私達はアスラの妻になるんだから!嫌われるわけがないじゃない!」
このままでは話が進まないので、オレはリンとマロンを無視して話し始めた。
「ラミリスさんはもう知っているんですよね?帝国の件。」
「ええ、知っていますよ。ガイア様と敵対しようなんて許せませんね。」
「そうよそうよ!」
「ガイア様!俺達も協力するぜ!」
「私も協力するわよ!」
「ありがとう。ウンディーネ。サラマンダー。シルフィー。他のみんなも。」
ここで精霊女王ラミリスが聞いてきた。
「それで我々はどうすればいいんですか?」
「オレ、誰も殺したくないんだ!」
大精霊達は驚いたがすぐに騒ぎ始めた。
「やっぱりガイアちゃんよね。昔からガイアちゃんは優しかったもんね~。」
「そうそう。でもね。ガイア様。命あるものはいつか必ず死ぬんだよ。死なないのは私達大精霊や神界にいる存在だけなのよ。死ぬことが成長につながることだってあるんだから。」
確かにシルフィーの言う通りかもしれない。だが、オレの心の中にどうしても許せないものがあった。
「寿命で死ぬのは仕方ないけど、戦争で死ぬのは違うんじゃないかな。この世界に寿命前に死んでいい存在なんかいないと思うんだけど。」
ラミリスがオレを胸に抱きしめた。
「優しい子。でも、ガイア様は優しすぎなのよ。ガイア様が優しすぎたから黒龍なんかが生まれたんですよ。ガイア様が優しすぎたから魔王になんかなったんですよ。でも、それがガイア様なんですよね。わかりました。みんな力をお貸ししましょう。」
オレにはラミリスの言っている意味が分からなかった。