帝国の進軍
その頃、帝都の帝城では皇帝トラヤスが大会議室で会議を開いていた。
「軍務卿。古代兵器は無事なんだろうな。」
「ハッ 魔王が王都ジャイールに戻る前にすべて運び出しましたので。」
「そうか。ならばいよいよ反撃の時が来たということだな。」
すると、アントニウス公爵が聞いた。
「皇帝陛下。陛下はなぜオルセン王国やランド王国に侵攻するのですか?先帝オクタビ様は他国と協調しようとしていたのに。」
「アントニウス!そなたはわしに意見をするのか!そなたは、我々の子孫達が永遠に魔王や黒龍に怯えて生きていく方がよいと考えているのか?」
「いいえ。そうではありません。黒龍も魔王も世界に悲しみや苦しみが溢れた時に現れると言われています。陛下もご存じのはずです。ですから先帝オクタビ様は他国と友好的な関係を築いていたのです。」
今度は軍務卿が言った。
「アントニウス殿。我らがいくら他国と友好的にしようと黒龍と魔王は現れたではありませんか。他の国々では貧富の差が激しく、内乱も起こっています。そればかりか、自分の国民を奴隷にするような国さえある。人々の悲しみや怒りが無くなることはないと思いますよ。」
「軍務卿の言う通りだ。この世界から人々の悲しみや憎しみをなくすことなどできぬ。ならば、我が帝国が世界を征服するしかなかろう。黒龍も魔王も滅ぼしてしまえばよいだけのことだ。」
「ですが、本当に魔王を倒すことができるのでしょうか。オルセン王国から戻った兵士の話によれば、魔王の力は神の力に匹敵するように思います。」
「アントニウス!そなたはこの帝国軍が負けるとでも言いたいのか?」
「いいえ。そうではありません。何の関係もない人々が苦しむことになるかもしれないのです。こちらがこれ以上何もしなければ、魔王も何もしないのではないのですか?」
「お前はこのわしに魔王に屈しろというのか?」
「陛下。民のためです。」
「もうよい!軍務卿!アントニウスを捕らえよ!謀反だ!」
「ハッ」
「お待ちください!陛下!陛下ー!」
アントニウス公爵は兵士に捕らえられ、帝城の地下牢に閉じ込められてしまった。
一方、ランド王国から帝国兵を追い返したオレ達は、アズベルトに報告するためランド王国の王城にやってきた。
「アスラ殿、リン殿、マロン殿、ミコト殿。この度は本当にありがとうございます。」
「アズベルトさん。フィリップさんにも言ったけど本当に大変なのはこれからですよ。帝国がこのまま黙っているとは思えませんから。」
「そうですね。恐らくトラヤス帝のことですから、再び大群で攻め込んでくるでしょうね。」
「ええ。ですから、その前に国内の守りをしっかり固めておいた方がいいですよ。」
「わかりました。」
アズベルトに報告したオレ達は帝都に様子を見に行った。さすがに帝都では兵士達があわただしく走り回っている。どうやら本格的に反撃の準備をしているようだ。
「ねえ。アスラ。帝国はどっちの国に攻め込むつもりなのかしらね?」
「確かにリンの言う通りだよな~。ランド王国とランセル王国は方向が違うもんな~。2つの国を同時には攻められないだろうし。」
「アスラ。もし私が皇帝なら邪魔な魔王を倒すことを考えるぞ。魔王さえいなくなれば2つの国を攻めるのはたやすいことだからな。」
「でもどうやってアスラをおびき出すのよ。」
「それは私にもわからん。皇帝がどれだけアスラの情報を持っているのかわからんからな。」
するとマロンが心配そうだ。
「アスラ兄は本当に死なないんだよね?」
「大丈夫だ。マロン。心配するな。」
街を歩いていると白い鎧の兵士達の姿が見える。
「あの人達は何かしらね?」
するとミコトの顔が青ざめていく。
「あいつらは聖騎士だ。」
「聖騎士?」
「ああ、そうさ。聖騎士がいるとなると聖教国が帝国に味方をしたのかもしれないぞ。」
ありえない話ではない。魔王は邪悪な存在とされている。ナデシア聖教にとっては許し難い存在なのだろう。
「あいつらは教皇から与えられた魔道具を持っているのさ。その魔道具は魔法が使えない人間でも魔法を使えるようにするんだ。しかもかなり強力な魔法をな。」
「まあ、私達の敵じゃないわね。」
「余裕!余裕!」
オレは不死の存在だし、リンも不死に近い存在だ。だが、マロンとミコトは違う。2人は魔族と人族だ。死ぬ可能性がある。
「アスラは優しいのね。マロンとミコトのことを心配してるんでしょ?」
「まあな。」
「2人なら大丈夫よ。私が守るから。」
「ああ、頼むよ。リン。オレは帝国軍との戦いに専念する可能性があるからな。」
「そうね。相手の狙いはアスラなんだから。十分気を付けてね。」
その後、オレ達は帝都の食堂で食事をした。お昼時ということもあり、食堂には兵士達が沢山いた。兵士達の話では、どうやら帝国中から兵士が集められているようだ。その数、およそ10万人にまで膨れ上がるらしい。
「でもさ~。良くこの帝都にそれだけの兵士が泊まれる宿があるわよね~?」
「何言ってるんだ。リン。地方から来た兵士達はみんなテントか何かに泊まるに決まってるだろ!」
「そうなの?」
「ミコトの言う通りだろうな。いくら帝都と言ってもその数を収容できる宿屋なんかないさ。」
「そうよね。それにしてもここの料理ってイマイチよね。」
「リン姉が残したの初めて見た!」
「マロン。私はただの大食いじゃないのよ。グルメなのよ!」
「ふ~ん。」
「フ~ンって何よ!」
兵士達の話を聞いていると、どうやら東に進軍するようだ。だが、ランセル王国もランド王国も帝国の北に位置するはずだ。東にあるのは、スチュワート王国だ。
「リン!帝国はスチュワート王国に進軍するかもしれない!」
「そうね。アスラがスチュワート王国の出身ぐらいの情報は、皇帝の耳に入っているはずよ。」
「どうするんだ?アスラ!」
「一応念のためお父様に伝えに行こうか。」
「そうね。万が一のことがあるかもしれないしね。」
オレ達は食事をした後、転移でスチュワート王国のお父様に会いに行った。
「あら~。アスラちゃん。久しぶりね~。」
いつものようにお母様がオレに抱き着いてくる。
「お母様。お父様に話があるんですが。」
するとお母様の声が聞こえたのか、お父様が奥の執務室からやってきた。
「どうしたんだ?アスラ。」
「はい。実は帝国がこのスチュワート王国に攻めてくるかもしれません。」
「なんだと~!それは本当か?」
「はい。」




