オルセン王国の奪還
その日ガルロの宿屋に泊まったオレ達は、翌日再び森の屋敷を訪ねた。
「おはようございます。フィリップさん。」
「ああ、アスラ殿達か。」
「今日はフィリップさん達にこれからの件でお願いに来たんですけど。」
「どんなことですか?」
「オレ達、今日から早速行動します。その後、フィリップさん達に取り戻した街をそれぞれ管理してもらいたいんです。」
「なんか話を聞いていると、すぐにでも帝国から街を取り戻せるようないい方だけど。」
するとリンが言った。
「そうよ。今日、あんたの国をそのまま取り戻すのよ。だからしっかり管理しなさいよってことよ。」
フィリップも兵士達も驚いている。
「どういうことですか?アスラ殿。」
「リンの言った通りですよ。じゃあ、オレ達これから取り戻しに行きますから。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!説明してくれないと・・・」
「じゃあ、そこで見てなさいよ!驚きすぎてちびらないでよ!」
オレ達は魔力を解放する。すると、オレとマロンの背中に漆黒の翼が出た。リンの背中には純白に翼が現れた。ミコトの背中にはうっすらと妖精の翼が出た。
「アスラ殿達は・・・・」
「オレは魔王さ!」
「魔王?!」
オレ達は昨日止まった街の上空にやってきた。そして、街中に聞こえるように魔法を使ってしゃべった。
「帝国の者達よ。この街をすぐに出て行くがよい。さもなければ皆殺しにする!10分待ってやる。」
街中の兵士が中央広場に集まり始めている。そして、上空にいるオレ達に向かって矢を放ってきた。
「そうか!それがお前達の答えか!わかった!」
オレはさらに魔力を解放した。バーンという大きな破裂音とともに上空の空が真っ黒な雲で覆われていく。まるで夜のような暗さだ。さらに、上空から雷が地上に向かって落ち始めた。兵士達の顔が青ざめていく。
「マロン!やってみろ!」
「うん!」
隣にいたマロンが魔法を唱える。
「漆黒の闇よ。兵士の武器を食らいつくせ!『グラトニー』」
すると、上空に現れた黒い靄が兵士達を覆っていく。そして気が付けば、兵士達の武器はおろか服までもすべてはぎ取った。
「魔王だ!」
「魔王が現れたぞー!」
「逃げろー!」
兵士達は何も持たずに街から出て行った。そして、オレ達が地上に舞い降りてしばらくしたころ、フィリップ達が兵士達と一緒にやってきた。
「アスラ殿は魔王だったのですか!」
「まあね。人々からはそう言われているかな。」
ここでミコトがフィリップに聞いた。
「あなたはアスラが怖くないのか?」
「ええ。だってアスラ殿は悪い存在じゃないですから。私達にしてみれば救世主ですよ。」
「そうか。アスラが救世主か。なるほどな。」
フィリップ達も兵士達も喜んでいる。だが、これで終わりではない。
「フィリップさん。他の街も取り戻しに行きますよ。」
「はい。でも、他の街までは大分距離がありますけど。」
「なら、帝国兵を追い出したらオレが迎えに来ますよ。」
「アスラ殿がですか?」
「アスラは魔王なのよ。転移魔法ぐらい使えるから!」
「転移魔法?」
「まあ、そういうことなんで。じゃあ。」
オレ達はそれから次々と街から帝国兵を追い出した。そして、その都度数人を残してフィリップ達を街まで連れて行った。約束通り1日だ。一日で帝国からオルセン王国を取り戻したのだ。
「ありがとうございます。アスラ様。」
なんか『殿』から『様』になっている。以前も同じようなことがあった気がする。
「フィリップ!アスラは『様』とか言われるの嫌いなのよ!」
「申し訳ありません。では、今まで通りアスラ殿でよろしいでしょうか?」
「オレは魔王ですよ。魔王に『様』はおかしいでしょ。それ以外なら何でもいいですよ。」
「わかりました。この度は本当にありがとうございました。」
「感謝するのはまだ早いですよ。フィリップさん。」
「えっ?!」
「あなた、帝国がこのまま黙っていると思う?大群を引き連れて攻めてくるわよ!」
その頃、帝都のお城では魔王の出現が報告されていた。
「魔王が現れたというのは誠か?軍務卿。」
「はい。皇帝陛下。どうやら我らが征服したオルセン王国からわが軍を追い出しているようです。」
「そうか。十数年前にスチュワート王国に魔王と黒龍が現れた時は、我が国でなくてよかったと思ったが、いよいよこの帝国に現れたか。ならば黒龍も現れるかもしれぬな。」
「皇帝陛下。お言葉ですが、黒龍は出現周期が2000年と言われています。それに、本来魔王は黒龍が現れる時に出現するとされています。なぜ、黒龍が現れないのに魔王が現れたのでしょう?」
「余がそんなことを知るはずもなかろう。だが、現実に魔王が現れたのだ。それよりも以前より準備していた黒龍対策の兵器はどうなっている?」
「はい。古代遺跡から発掘した物を我が軍が全力で研究開発しております。」
「そんなことは知っておる。使えるのか、使えないのか聞いておるのだ!」
「ハッ。もうしばらく時間がかかると思われます。」
「それでは間に合わないではないか!急がせよ!何としてもこの機会に魔王を討伐するのだ!」
「ハッ!」
オレ達はフィリップに言って、いったん帝都まで戻ることにした。帝国軍の動静を調べるためだ。帝都に戻ったオレ達は意外な光景を目にした。恐らく、帝国は再びオルセン王国に攻め込む準備をしているだろうと思ったのだが、帝都の中は以前と変化なく普段通りだったのだ。
「アスラ。どういうことかしら?」
「わからないよ。」
「トラヤス皇帝はかなり智恵の回る男だ。何か企んでるのかもしれないな。」
ミコトの言う通りかもしれない。帝国軍が戦わずして敗走したにもかかわらず、まったく動きがないこと自体がおかしい。
「アスラ兄。ランダ王国も取り返しちゃう?」
確かにマロンの言う通りかもしれない。帝国がオルセン王国を攻めるつもりがないのであれば、ランダ王国に行くのもありだ。
「リン。ミコト。マロンの言う通りランダ王国に行ってみようか?」
「そうね。2つの国を奪い返せば帝国の兵力も落ちるものね。」
「アスラ。フィリップ殿には伝えなくていいのか?」
「いったんフィリップさんのところに行ってからにするよ。」




