勇者の末裔ミコト現る!
ジェリアの街を後にしたオレ達は、次の街でサンチェスから預かっていた支払い明細を見せて報酬をもらった。帝国の白金貨を手にして結構な大金持ちだ。それから贅沢な食事をしながらいくつか街を通って、やっと帝都カサンドラにやってきた。
「さすが帝都ね。賑わっているわね。」
「ああ、スチュワート王国やグラッセ王国の王都よりも大きいと思うよ。」
「アスラ兄。皇帝は悪い人なの?」
「どうかな~。会って話をしてみないとわからんさ。」
「でも、みんな明るくて元気そう。暗くない!」
「そうね。マロンの言う通りね。国民達を見る限り、悪政をしているようには見えないわね。」
オレ達はとりあえず宿をとることにした。宿を探しながら街を歩いていると、前方から一人の女性が歩いてきた。身なりからすると平民のようだが、彼女からはすさまじいオーラを感じた。彼女もすれ違いざまにオレ達を見た。何か感じるものがあったのだろう。
「アスラ。今の女性、ただものじゃないわよ。」
「ああ。わかってる。」
オレもリンもマロンも年齢的には17歳だ。見た目もまだ少年、少女のように見えるはずなのだが、世界でも珍しい黒髪で黒い瞳の彼女は、まるで強敵を見るかのような目で見てきたのだ。
「アスラ兄。あれ何かな~。」
マロンが指さした方向には大道芸人達がいた。子どもが喜びそうな服を着て道化のようなことをしている。オレ達も見てみようと近くに行った。女性の頭の上に果物を置いて、それを手裏剣で落としていた。少しでも手元が狂えば大惨事だ。そのスリルが楽しいのだろう。拍手が起こる。
「マロン。もういいか?行くぞ。」
「うん。」
オレ達は再び宿屋を探し始めた。街はずれに小さな宿屋があった。目立たないようにするには絶好の宿屋だ。オレ達はその宿に泊まることにした。
「すみません。5日ほど連泊でお願いできますか?」
「いいよ。連泊ならサービスして、1泊2食付けて1人銀貨7枚だ。」
オレ達は宿の主人にお金を払って部屋に行った。当然部屋は広めの部屋を1部屋だ。今回はベッドも広くなっている。しかも、部屋にお風呂までついていた。
「この宿、最高じゃない!」
「まあね。」
「お風呂入りたい!」
「なら、マロンとリンで先に入って来いよ。」
オレは2人が風呂から出てくるまでベッドで寝ころんでいた。どうしても昼間の女性が頭から離れないのだ。
「アスラ。あなた昼間の女性が気になってるんでしょ?」
風呂から出てきたリンが聞いてきた。
「まあな。」
「そうよね~。黒い髪だけでも珍しいのに、あの魔力だもんね。彼女は魔族か何かじゃないの?」
するとマロンが反応する。
「魔族じゃない!魔族の実力者なら私が知ってる。」
「ということは、彼女は人族でありながら並外れた魔力を持っているということよね。」
「ああ、だから気になるんだ。」
「ふ~ん。まあ、いいわ。アスラもお風呂に入ってきなさいよ。」
オレは風呂に入っている間も昼間の女性について考えていた。あの魔力にはなんとなく覚えがあったのだ。
そして翌日、オレ達は再び街を散策し始めた。やはり、昨日の大道芸人がいた。すると、手裏剣がオレ達の方向に飛んできた。オレは咄嗟に2本の指で手裏剣を掴んだ。すると、大道芸人が申し訳なさそうにオレ達のところにやってきた。
「すまないな。つい手元がくるってしまって。」
「いいさ。けが人が出なかったんだし。」
すると大道芸人がお金を包んだ紙を渡してきた。
「これはお詫びのしるしだ。これで許してくれ。」
オレは別にお金は欲しくなかったが、彼から感じるものがあったのでそのまま受け取った。
「どうして受け取ったのよ?」
「お金!お金!お肉!お肉!」
紙にはかなり古い金貨が1枚包まれていた。どこか見覚えのある金貨だ。そして紙に何やら書いてあった。
「魔王よ。郊外の西の森で待つ。」
どうやらオレのことを知っている人間のようだ。
「あの大道芸人は何者かしら?それにその金貨ってどこの国のものなの?帝国で使えるの?」
ふと大道芸人の方を見るとすでにそこにはいなかった。
「呼ばれたんじゃ仕方ない。行ってみるか。」
「アスラ。これは罠よ。危険じゃない?」
「アスラ兄。やめた方がいい。」
「でもな~。このままにしておく方が厄介じゃないか。」
「そうね~。まあ、何かあれば転移で逃げればいいしね。」
オレ達は紙に書いてあった通り王都の郊外の西の森に来た。オレの魔力感知には3人の反応があった。
「隠れてないで出て来いよ!」
すると、先ほどいた大道芸人と見たことのない男性、そして黒髪の女性がいた。
「来たか。魔王。やっと見つけたぞ!」
黒髪の女性が言ってきた。
「オレのことを魔王とか言ってるけど、お前達は誰だ?オレはお前達なんか知らないぞ!」
すると黒髪の女性が名のった。
「私は勇者ハヤトの末裔、ミコトだ。スチュワート王国に黒龍と魔王が現れたと聞いてお前を探していたんだ。アスラ=ホフマン。」
「そっちの二人は?」
「この者達は私の従者だ。お前にはここで滅んでもらうぞ!」
なんか物凄く面倒だ。勇者の末裔とか言われても、今のオレには関係ない。
「なぜオレを殺すんだ?なんか意味があるのか?」
するとミコトが言ってきた。
「今、世界は再び混乱し始めている。この帝国も小さな国を攻めてるしな。魔大陸でも魔族同士が争っていると聞いた。すべてお前のせいだ。どうせ邪悪なお前がやらせているのだろう。正体を現せ!魔王!」
なんかこの女性、見た目は物凄い美人なのに残念な女性だ。ここでリンが口を挟んだ。
「あなた、頭がおかしいんじゃないの?この世界の怒りや悲しみ、憎しみが満ち溢れた時に黒龍と魔王は生まれるのよ。黒龍や魔王が混乱を招くわけじゃないわよ!」
「お前は何者だ?なんでそんなことがわかる!」
「どうせあんた達に言っても理解できないだろうけど、スチュワート王国の内乱を収めたのは誰よ?グラッセ王国の混乱を鎮めたのは誰よ?あなた達、知ってるの?ここにいるアスラなのよ!何でアスラが悪者なのよ!」
「そんなこと信じられるか!スチュワート王国には『黒龍殺しの英雄』が現れたはずだ!」
「ああ、シュバルツね。彼はアスラの仲間よ。」
「嘘を言うな!もういい。」
ミコトが剣を抜いた。その剣は昔のオレを消滅させた聖剣リジルだった。だが、聖剣でありながらまったく輝きがない。ただの剣と同じだ。他の2人も腰から剣を抜いた。
「行くぞ!魔王!」
ミコトの身体から魔力が溢れ出る。人族でこれだけの魔力を溢れさせることができる者はいない。だが、昔の勇者に比べればお粗末なものだ。オレは変身することもなく、その剣を受け止めた。
「お前!本当にあの勇者の末裔か?なんか信じられないな~。お前、ちゃんと訓練してるのか?」
「なんだと~。」
ミコトが必死に剣を動かそうと力を入れるがピクリとも動かない。
「アスラ。こんな茶番に付き合ってられないわよ。帝都に戻ってご飯を食べましょ。」
隣ではマロンが騒いでる。
「お肉!お肉がいい!」
オレは力を緩めた。すると、ミコトは前に転んだ。
「貴様~!」
オレは少しだけ魔力を解放した。辺り一帯に冷たい空気が流れ込み、上空に真っ黒な雲が出てきた。オレの背後には黒色の竜が姿を現す。そして一言言った。
「お前、弱すぎるんだよ!そんなんじゃこの世界を平和になんかできないぞ!世界の平和を口にするなら、もっと力をつけろ!今のままじゃ、殺されて終わりだ!」
オレは魔力を戻して、リンとマロンと帝都に戻った。




