フェニックスの幼鳥ピーちゃん
サーシャさんの屋敷を後にしたオレ達は、ドワーフ王国に向かうことにした。ドワーフ王国の王都ドゲルはここから徒歩で2か月かかるらしい。仕方がないので飛翔していくことにした。見渡す限り森林地帯だ。たまにオレの魔力感知に大物の魔物の反応があった。その都度地上に舞い降りて、マロンが討伐するようにしている。
「そろそろ休憩しようか。」
「そうね。」
オレ達は川沿いの少し開けた場所に降りた。なんかマロンが寂しげな様子だ。
「どうした?マロン。」
「アスラ兄は魔王様じゃなくて神様なの?」
「いいや。オレはマロンが知っている通り魔王さ。確かに神界にいたけど、記憶がないんだよ。」
「リン姉も天使様なんでしょ?」
「違うわ。見習いよ!天使見習い!」
「でも、やっぱり神界にいたんだよね。」
「まあね。」
「もしかして、マロンは自分だけ神界にいなかったとか思ってるのか?」
「そんなことない!」
「気にするな。マロン。どこに住んでいようとオレ達は家族なんだから。」
「違うもん!」
マロンが森の中に走って行った。
「アスラ!どうする?追いかける?」
「マロンももう十分強いし大丈夫だろ。」
「そうね。」
オレとリンが川原で食事の用意をしている間、マロンは泣きながら森の中を走っていた。
“ここどこだろう?”
我武者羅に走ってきたので方向がわからない。すると、突然木の上から石が落ちてきた。上を見るとレッドアイモンキー達がいた。
キッキッキッ
周りには人がいない。そこで、マロンは背中から翼を出して飛翔しながらレッドアイモンキーに向かって行った。
シュッ スパン
3匹ほど討伐したところでイエローモンキー達は森の奥に逃げていった。
ピッ ピッチ ピピ
どこからか鳥の泣き声が聞こえる。辺り一帯を見渡してもそれらしいものはいない。
ピッ ピッ ピッ
耳を凝らして聞いてみると、やはり鳥の鳴き声が聞こえる。ふと足元を見るとそこに巣があり、巣の中には赤い小鳥がいた。どうやら親鳥はいないようだ。マロンはその小鳥を寒くないように胸に入れて上空に舞い上がった。森の中を流れる小川が見える。そのまま小川に向かって飛翔した。
“あっ、いた!”
「どこ行ってたんだ?マロン。ご飯だぞ!」
「心配したんだからね。」
「ごめん。でも見つけた。」
マロンが胸から鳥のひなを取り出した。
「どうしたの?そのひな。」
「森で見つけた。親がいなかった。」
「そうか。どうするんだ?」
「私が育てる。」
「大丈夫なの?」
「うん。」
オレもリンも何のひなか分からない。でも、マロンが育てたいというなら勝手にさせようと思った。そして、みんなで夕食を食べていると、そのひながマロンの食事をくちばしで突っついた。
「マロン。お前の肉を欲しいんじゃないのか?これを食べさせてみろ。」
「ありがとう。アスラ兄。」
ひなにレッドボアの肉を食べさせるとすごい勢いで食べた。
「こいつ、結構デカい鳥のひなかもしれないな。名前はどうするんだ?」
「もう決めてある。ピーちゃん。」
「何よそれ?」
「ピーピー鳴くから。」
ハッハッハッハッ
「ピーちゃんか。いいんじゃないか。」
どうやらマロンのご機嫌も直ったようだ。マロンもまだ子どもだ。もしかしたら寂しかったのかもしれない。その日はそこで野宿して、翌日から再びドワーフ王国の王都ドゲルを目指すつもりだった。だが、ここで事件が起きた。ピーちゃんがいないのだ。マロンは泣きながら必死に探している。
「アスラ!魔力感知で探してみたら。」
「そうだな。」
オレが魔力感知で調べてみるとピーちゃんらしきものの反応はない。だが、上空にかなり大きな魔物の反応があった。
「マロン!もしかして、あれがピーちゃんじゃないのか?」
「えー!うそー!信じられない!」
リンが声を上げるのも無理はない。上空を飛んでいたのは真っ赤なフェニックスだったのだ。マロンが大きな声で呼んだ。
「ピーちゃ~ん!ピーちゃ~ん!」
すると上空を舞うフェニックスは、まるでこちらに挨拶をするかのように上空を旋回して飛び去った。
「マロン!」
「大丈夫!アスラ兄!ピーちゃんも元気!私も元気!」
その日は一日マロンに優しくしようと思った。そして、オレ達はドワーフの国に向けて飛翔した。
「見えてきたわよ。多分あれがドゲルじゃない?」
オレ達は少し手前で地上に舞い降りた。そこからは徒歩で向かう。ごつごつとした岩山を登り、その先に街が見えた。
「お前達は人族じゃねぇか。どっから来たんだ?」
「海の向こうのグラッセ王国ですけど。」
「ずいぶん遠くから来たな~。大変だっただろうに。」
「ええ。」
意外にもドワーフ達は友好的だ。すぐに街の中に入れてくれた。街を見ると当然だが宿屋はない。店もほとんどない。あるのは野菜や肉を売っている店だけだ。
「何にもないわね~。ここまで来る意味あったの?」
「来てみたかっただけさ。何もなければすぐに転移で帰ればいいから。」
「そうね。一度来れば、何かの時にすぐに転移で来れるもんね。」
転移魔法の欠点は一度行ったことのある場所にしか行けないということだ。別に転移魔法が使えないということはないのだが、やたらに転移して水の中や火山の中に落ちたら大変なことになる。
「ちょっと街を散策しようか。」
「そうね。」




