アニム王国の港町ラオシ
エメルと別れてからその日の夜は大変だった。
「ねえ、アスラー。見てて!」
リンが大人の女性に変化した。それもかなりグラマーな美女だ。それに負けまいとマロンまで変身した。やはりグラマーな女性だ。
「あのさー!なんか誤解されてるようだから言うけど、オレは別に大きな胸の女性が好きなわけじゃないから。そのままのリンやマロンの方が可愛いし、好きなんだけどな~。」
2人が変身を解いてオレの隣にやってくる。
「そうなの?アスラがそんな風に思っていてくれたなんて、全然知らなかったわよ。」
「あたしも知らなかった。アスラ兄は胸の大きな女の人が好きと思ってた。」
「違うから。確かにターシャさんやアレクシアさんは魅力的だったけど・・・」
「やっぱりね!」
「アスラ兄、変態!」
「違うから。あの2人にはそれなりに魅力はあったけどそれだけだよ。オレの家族はリンとマロンなんだから。」
ニコニコしながらリンとマロンがオレの左右の手を握ってきた。
「それより、指輪なんだけどさ~。この指輪は魔法道具の一種なのかな~。」
「アスラ!あなた何を言ってるのよ。エメルさんを迎えに来た人魚達を見て何も気づかなかったの?」
「何が?」
「全員女性だったでしょ!」
「ああ、そうか~。人魚って男はいないのか?!」
「違うわよ。この指輪よ。この指輪で変身しているのよ。本来人魚は人と魚の融合した魔物なのよ。ただ、長い年月の間に魔物が魔力と知能を持って変化した存在なのよ。」
「そうなの?」
「そうよ。この指輪は人魚の鱗で作られているのよ。」
「へ~。リンって物知りなんだな~。」
「当たり前でしょ!」
するとマロンが聞いてきた。
「リン姉。どうして女性の姿にしてるの?」
「身を守るためよ。人族や他の種族に見つかった時に、男の姿だったらすぐに殺されるでしょ。」
「どうして?」
「みんな、人魚の鱗が欲しいからよ。ドラゴンの牙とおんなじね。物凄く価値があるんだから。」
「なんか可哀そうな種族なんだな。」
「そうね。」
するとリンのお腹がグー、ググググーとなった。
「お腹空いちゃったわ。そろそろご飯に行きましょ!」
「ああ。」
「あたしもお腹空いた!」
そして船は順調に進んでいき、いよいよフェアリー大陸が見えてきた。
「もうじき獣人族の国アニム王国の港町ラオシだ。船を降りる準備をしておけよ。」
「はい。」
船長さんに言われて、オレ達は船を降りる準備をした。準備と言っても何もない。荷物は全てオレの空間収納に収まっているのだから。
「着いたぞ!」
「お世話になりました。」
「ああ。ここから先は人族が少なくなるから気をつけろよ。」
「はい。」
港には大勢の人達が集まっていた。船から荷物を降ろしたり、逆に荷物を積み込んだりするためだ。周りを見渡すと確かに人族は少ない。ほとんどが獣人族だ。
「どうする?アスラ。」
「せっかくだからこの国の王都に行ってみようか?そこがよかったら当分そこで暮らそうよ。」
「そうね。」
マロンも獣人族が珍しいのか、辺りをキョロキョロしている。
「どうした?マロン。」
「また魔族がいないか調べてる。」
どうやらこの前のルシフの一件がトラウマになっているようだ。
「大丈夫だ。オレの魔力感知にも反応がないから。」
「うん。」
マロンがオレの手を掴んできた。汗をかいている。やはり不安なのだろう。
「王都に行く前にこの街を散策しましょうよ。」
「そうだな。」
少なからずこの国を観光するために訪れる人族もいるようだ。お土産屋が並んでいる。
「なあ、リン。この国のお金を持ってないんだけど。」
「そうよね~。どこかで両替できるんじゃないの。」
「聞いてみようか。」
オレはお土産屋に入って両替できる場所がないかどうか聞いた。
「すみません。オレ達、グラッセ王国から来たんですけど、どこか両替できるところはありませんか?」
「お兄さん達。観光かい?」
「ええ、まあ。」
「そうかい。両替しなくても大丈夫だよ。このフェアリー大陸では、人族の通貨も使えるんだよ。ただし、国によって金や銀、銅の含有量が違うから、重さを計って使うようにしてるのさ。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
「なんか買って行っておくれよ。」
「ああ、そうですね。なら、これをください。」
「毎度!」
オレはリンとマロンに皮でできた靴を買った。
「ありがとう。アスラ兄。」
「ありがと。アスラ。」
「いいさ。それより他の店も見て回ろうよ。」
「うん。」
すると前から厳ついカッコをした狼耳族の男達がやってきた。
「どけどけ~!」
「あの人達何かしら?」
「さあね。」
男達が目の前にやってきた。
「お前達は観光か?」
「ええ、まあ。」
「この国に来たからには入国税をいただくぜ!一人金貨1枚だ。出しな!」
「この国には入国税なんていうのがあるんですか?」
「なんだ!お前!俺達のことを疑っているのか!」
周りの人達が可愛そうなものを見る目で見ている。オレは目に魔力を集中させた。男達の背後に真っ黒の影が見える。どうやら嘘をついているようだ。
「わかりました。」
「えっ!アスラ!こいつらにお金を渡すの?」
「だって入国税なんだからしょうがいないじゃないか。」
オレは懐から金貨を取り出し、相手の手に渡すと同時に相手の手を握った。
「貴様!何をする!」
「別に入国税を払っただけですけど。」
バキバキッ
「痛ぇ!放せ!」
オレが力を入れると男の手の骨が砕けたようだ。そのまま金貨を地面に落とした。
「あ~。いらないんですね。良かった。ならこれは仕舞っておきますね。」
「き、貴様~!なめた真似をしやがって!やっちまえ!」
男達は腰の剣を抜いて斬りかかってきた。咄嗟にリンが背中の剣を抜いた。
シュッ
男達のズボンのベルトが切れたようだ。男達は慌ててズボンを持ち上げる。
「どうするの?まだやるの?」
ヒエー タッタッタッ・・・・・
男達はその場から逃げていった。
パチパチパチパチ・・・
見物人達からは拍手が起こった。どうやら、あの狼耳族の連中は街の嫌われ者のようだ。




