グラッセ王国の街エルナンド
サンブルクの街を出て街道沿いを歩いていると、結構な数の馬車に追い越された。先ほどまでいたサンブルクから農産物を運ぶ馬車だ。すると、1台の馬車が速度を落として話しかけてきた。
「お前さん達。どこまで行くんだい?」
「王都キャンベまで行きたいんですけど。」
「だいぶ遠いな~。良かったら次の街まで乗っていくかい?」
「いいんですか?」
「ああ、いいさ。その代わり、魔物や盗賊が出たら護衛を頼むな。」
「はい。」
オレとリンは荷台の後ろに乗せてもらった。
「お前さん達はどこから来たんだ?」
「スチュワート王国ですけど。」
「そうなのか。あの国も大変だったようだな。なんか黒龍と魔王が同時に現れたんだってな。」
「そうみたいですね。」
「なんか人ごとみたいだな。」
「オレ達は田舎に暮らしてましたから。」
「そうだったのか。だが、黒龍も魔王も討伐されたらしいが、よく勇者じゃないものが討伐できたもんだな~。」
「そうですね。オレ達も見習って強くなりますよ。」
「ああ、頑張れよ。まだまだ若いんだから。」
どうやら黒龍と魔王の話はこの国の農民達にまで知られているようだ。絶対に自重しようと決めた。すると、リンが突然オレの手を握ってきた。
「どうしたの?」
「べ、べ、別にいいじゃない!」
なんだかんだ言っても彼女は優しい。多分心配してくれているのだろう。馬車に揺られて知らないうちに寝てしまったようだ。何もなく次の街エルナンドに到着した。エルナンドに到着したオレ達は、馬車に乗せてもらったお礼に金貨1枚を渡して街を散策することにした。
「おいおい!これはもらいすぎだぞ!」
「いいんですよ。取っておいてください。」
「そうよ。おじさんの優しさに感動したんだから。そうでしょ?アスラ。」
「そうですよ。」
「じゃあ、遠慮なくもらっておくよ。」
エルナンドの街は工業都市のようだ。街の周りにあまり畑はなかった。それに街のいたるところに工房がある。
「リン。冒険者ギルドに行って魔物を換金しないとお金がないよ。」
「なら、すぐに行きましょ。お腹空いちゃったのよね。」
オレ達は冒険者ギルドを探した。街を歩いている女性に聞いてみようと声をかけたが、どの女性も早足で通り過ぎてしまう。
「リ~ン!なんでオレが声をかけると逃げちゃうんだ?おかしいだろ!」
「アスラ~!あなた以前も言ったけど、ちょっとは自覚した方がいいわよ!あなた凄く美形なのよ!だから、あなたがいきなり話しかけたらみんな恥ずかしいのよ。」
「別に道を聞いただけじゃないか!」
「いいわ。私が聞いてあげる!」
リンが女性に声をかけて道を聞いた。
「わかったわよ。急いでいきましょ!」
なんか納得できない。頭の中が悶々とした状態でギルドに行った。ギルドに入ると結構な数の冒険者達がいる。どうやら採取した薬草や小型の魔物を換金に来たようだ。冒険者達が手にホーンラビットや薬草を持っていた。
「魔物の買取をお願いしたいんですけど。」
受付の女性に声をかけると不思議そうな顔で聞いてきた。
「魔物はどこなの?」
「この中です。」
魔法袋はかなりの貴重品だ。他の冒険者達に聞かれるわけにはいかない。そこで腰に吊るしてある魔法袋を指さした。最初、受付の女性はキョトンとしていたが、慌てて裏の解体場に案内してくれた。
「それって魔法袋でしょ?」
「はい。祖父の形見なんです。」
「そうなのね。換金したい魔物を出してくれるかな。」
「はい。」
オレは魔法袋からレッドボアを2匹取り出した。すると、受付の女性が驚いたようだ。
「これを君達が討伐したの?!」
「ええ、そうですよ。2人で討伐しました。」
「ちょっとカードを見せて!」
オレとリンがカードを見せると受付の女性は再び驚いた。
「あなた達、FランクとGランクじゃない!よく命があったわね~!」
「こんなの余裕よ。」
受付の女性が固まってしまったので慌てて弁明した。
「余裕なんかじゃなかったです!何言ってるんだ!リン!2人で罠を仕掛けてようやく討伐したんだろ!お前なんか転んで大変だったじゃないか!」
「そうだっけ?」
2人のやり取りを聞いていた受付の女性が疑いの目で見ながら言ってきた。
「まあ、どっちでもいいわよ。受付に来てちょうだい。報酬を渡すから。」
受付まで行って待っていると金貨6枚と銀貨6枚を渡してくれた。そしてカードを返してくれたのだが、何故か2人ともDランクになっていた。
「ありがとうございました!」
オレ達は食事をしようと冒険者ギルドを後にしたのだが、オレ達が帰るとすぐに受付の女性がギルドマスターの部屋に行った。
「マスター。本当にあの2人をDランクにしてよかったんですか?」
「ああ、もっとランクを上げてもいいぐらいだ。あのレッドボアを見ただろ?」
「はい。なんか2人が罠を張ってやっとのことで討伐したと言ってましたが。」
「なるほどな。それは嘘だな。どっちのレッドボアも一撃で頭を割られていたぞ。」
「本当ですか?でも、どうして嘘なんかついたのでしょうか?」
「なんか訳ありなんだろうな。余計な詮索はしない方が身のためかもしれんな。」
街の中を歩いていると、様々な工房から音が聞こえてくる。オレには煩く感じるこの音も、街の人達にとっては聞きなれたものなのだろう。馬車を作っている人達もいれば、剣を作っている鍛冶屋のような人達もいる。
「リン。あの店って何を作ってるんだ?」
「ああ、あれね。あれはポーションよ。昔の時代にはなかったの?」
「昔はみんな魔法が使えたからね。中には聖魔法や光魔法が使える人達もいたしね。」
「そうなのね。確かに魔法が使えると便利よね。」
「リンに聞きたいんだけどさ。」
「何?」
「どうして人々は魔法が使えなくなったんだ?」
「学問や技術が発達してきたからよ。私もよく知らないけど、神々の考えなんじゃない。アスラだって神界にいたんでしょ?」
「そうなんだけど、神界の記憶はほとんどないんだ。それに、オレが魔王になった時の記憶もぼんやりしかないんだよな~。」
「不思議ね~。私もおんなじなのよ。昔の記憶がないの。いつの間にか天使見習いになってた!」
「ふ~ん。」
「何よ!『ふ~ん』って!もっと違う答え方があるでしょ!」
そんなやり取りをしながら歩いていると、少し先に看板が見えた。
「ねぇ!あそこの食堂に入らない?」
「いいよ。」
その後、食事をして宿屋で一泊し、再び王都キャンベに向けて出発した。いくつかの街や村を越えて、ようやくキャンベの街に到着した。途中で何度か乗り合い馬車に乗って、ここまで来るのに5日はかかった。
「やっと到着だ!」
「そうね。なんか潮の香りとこの風が心地いいわ~。」
リンを見ると、太陽の光に照らされて物凄く綺麗に見えた。思わず見とれてしまった。
「何よ!なんでそんなに見てるのよ!」
「べ、別にただリンがきれいに見えただけだよ。」
「ふ~ん。やっと私の魅力に気付いたのね。」
「別にそんなんじゃないけどな。」
「ハッハー!誤魔化そうとしているな!正直に言うがいい!若者よ!」
「だから~!そんなんじゃないから!それより早く行こうよ。」




