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魔王少年アスラ  作者: バーチ君
グラッセ王国
31/151

リンと二人旅

 オレ達は街をぶらぶらしながら食堂を探した。大通りから少し脇に入ったところに小さな食堂があった。



「なんか、この店からいい匂いがしてくるんだけど。」


「じゃあ、この店にしようか。」



 中に入ると10歳前後の少女がいた。



「お母さん!お客さんだよ!」



 厨房から30歳前後の美人な女性が出てきた。



「いらっしゃい。好きな席に座っておくれ。」



 オレ達は一番奥の席に座った。壁に書かれたメニューの数が半端ない。厨房を見てみると店の主人だろうか、男性が一人いる。



「アスラ!たくさん頼んでもいいわよね?」


「いいけど、食べきれる程度にした方がいいよ。」


「わかってるわよ。」



 オレは女将さんを呼んだ。



「決まったかい?」


「はい。オレは日替わりランチをお願いします。」


「私はボアの生姜焼きと若鳥の唐揚げ、それに・・・・」


「あんた。そんなに食べきれるのかい?」


「はい。それとオム定食をください。」



 少女がオレ達のところに来た。そして、リンに向かって言った。



「残したらいけないんだからね!ボアさんや鳥さんの命をいただくんだから!」



 10歳前後にしては思慮深い。この店の夫婦の教育がしっかりしているのだろう。



「大丈夫よ。私、お腹ペコペコだから。あなた、お名前は?」


「私はハナよ。お姉ちゃん達は?」


「オレはアスラ。」


「私はリンよ。」


「アスラ兄ちゃんとリン姉ちゃんなのか~。二人は恋人か何かなの?」



ブッ ブッワー



「汚いな~!もう~!お水だからいいけどさ~!」


「ごめんごめん。オレ達は幼馴染の冒険者だよ。」


「ふ~ん。お兄ちゃんもカッコいいし、お姉ちゃんもかわいいからお似合いだと思たんだけどな~。」


「こらっ!ハナ!何してるの!お客さんに迷惑でしょ!」



 ハナちゃんはお母さんに叱られて奥に入っていった。オレ達の目の前には豪華な料理が運ばれてきた。因みにリンの前には料理が置ききれず、隣のテーブルに置かせてもらった。オレが頼んだ日替わり定食は焼き魚がメインだ。一口食べて感動の声が出た。



「旨い!この魚めちゃくちゃ旨い!」


「ボアの生姜焼きも最高よ。もう右手が止まらないわ!」



ガツガツガツガツ



「フ~!お腹いっぱい!もう何も食べられないわ!」


「リン!凄いね!まさか一人で食べきるとは思わなかったよ。」


「当然でしょ!食べきれる量しか注文しないもん!」



 食後動けずにいると女将さんが飲み物を持ってきてくれた。



「これはサービスよ。美味しそうに食べてくれたお礼だから。」


「ありがとうございます。」


「ところで、二人はどこから来たんだい?」


「隣のスチュワート王国ですけど。」



 すると厨房の中からご主人も出てきた。



「そうか。二人はスチュワート王国から来たのか。そりゃ、大変だっただろうに。」


「ええ、結構距離がありましたからね。」


「そうじゃないさ。あの国には10年前に黒龍と魔王が出たんだろ?お前さん達は逃げて来たのか?」


「いいえ。オレ達は田舎に住んでいましたから。噂は聞きましたけど。」


「なんか、魔王と黒龍が戦って、最後は『黒龍殺しの英雄』が黒龍にとどめを刺したようじゃないか。すごいな~。俺なんか、目の前に黒龍が現れたら気を失っちまうぜ。ハッハッハッハッ」


 

 どうやらシュバルツは反乱の罪にはならなかったようだ。そのことが分かっただけでも嬉しかった。そして、オレ達はお金を払って食堂を出て、再び宿屋を探し始めた。



「確か食堂の女将さんが言っていた宿屋はこの辺りなんだけどな~。」


「アスラ~。あれがそうじゃない?」



 リンの指さした建物を見ると確かに宿屋だ。入り口には『ブランシェハウス』と書いてあった。



「入ってみようか。」


「そうね。」



 中に入ると正面に受付があった。



「いらっしゃいませ。お二人様ですか?」



 頭の上に長い耳のついた女性が声をかけてきた。



「はい。」


「お部屋はどうしますか?」



 すると横からリンが答えた。



「1部屋でいいです。」


「畏まりました。では、朝食付きでお一人様銀貨7枚になります。」



 お金を払うと不思議そうに聞かれた。



「あの~。お荷物は?」


「ああ、オレ達冒険者なんで荷物はないんですよ。」


「そうでしたか~。では、お部屋までご案内します。」



 奥から今度は狐のような耳と尻尾をつけた女性が出てきた。



「こちらです。」



 部屋に案内された後、オレはリンに聞いた。



「なあ、リン。あの耳は本物なのか?」


「あたり前じゃない!彼女達は獣人族よ。受付の女性は兎耳族ね。案内してくれたのは狐耳族よ。」


「そうなんだ~。オレ初めて見たよ。」


「そうね。スチュワート王国には奴隷制度があったからね。獣人族やエルフ族は容姿が整っているから奴隷にされやすいのよ。」


「そうなんだ~。じゃあ、この国にはどうして獣人族がいるんだ?」


「このグラッセ王国では奴隷は禁止なのよ。それに、海の向こうにはフェアリー大陸があるでしょ。この国はフェアリー大陸の国と交流があるのよ。」


「へ~。なんか知っているようで知らないことって結構あるんだね。」


「そうね。」


「ところでどうして1部屋にしたんだ?ベッドが一つしかないよ。」


「いいじゃない。一緒に寝れば。お金がもったいないでしょ!」


「別にいいけどさ。」



 昔から一緒にいたせいか、リンに対しては女性という感覚はない。むしろ、姉のような感覚だ。だからかもしれない。一緒に寝ることに対しても何の抵抗も感じなかった。翌朝、寝苦しに耐えかねて起きてみると、リンの右足がオレの腹に乗っかっていた。



「リン!起きろ!朝だぞ!」


「う~ん。もう朝なの?」


「お前、寝相が悪すぎだよ!見てみろよ!」



 リンは真っ赤な顔をして言い訳してきた。



「仕方ないじゃない!指輪になって窮屈な生活をしていたんだから!」



 2人で1階の食堂に降りていくとすでに朝ごはんの用意ができていた。コーンスープに柔らかいパン。それに人参たっぷりの野菜サラダとオムレツだ。どれも美味しそうだ。



「今日はどうするの?」


「次の街に行くさ。この国の王都キャンベに行こうと思うんだ。」


「いいわね~。なら早く行きましょ。」


「急にどうしたんだ?」


「王都のキャンベは港町なのよ。海の幸がいっぱいよ。それに、劇場があって物凄く楽しい街なんだから。」


「なんでそんなに詳しいんだ?」


「当たり前じゃない。上から色々見ていたもん。」


「ああ、そういうことか。よっぽど暇だったんだな。」


「違うわよ!失礼ね!仕事で見ていたのよ!」


「どうだかな~。」



 この世界には異世界から召喚された勇者が伝えた食事や食材がある。だが、それだけではない。演劇や音楽のような文化やリバーシやカードのような娯楽もある。勇者の影響はかなり大きいようだ。


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