新たな出発
それからどれくらい月日が流れただろうか。僕とアリスは恋に落ちた。僕の心は完全にアリスを愛してしまったのだ。それから、僕達は孤児院の近くに家を借りて2人で暮らし始めた。毎日が幸せでいっぱいだった。朝起きれば、そこにはアリスがいる。夜寝る時にも隣にアリスがいる。こんな幸せな気持ちは初めてだ。だが、とうとう戦争が始まった。
「アリス!ガイヤ!もしこの街が戦火に包まれるようなことになったら、その時はこの子達のことを頼む。」
「司祭様はどうするんですか?」
「私は怪我人を一人でも多く治療しなくてはならないからな。」
「でも、彼らは兵士じゃないですか!勝手に戦争を初めて人を殺して・・・なのにどうして司祭様が彼らの怪我を治さなければいけないんですか!」
「それが私に与えられた使命だからだよ!わかってくれ!アリス。」
「わかりません!この国に大切なのは兵士じゃない!司祭様です!」
司祭様は何も言わずニコニコしているだけだった。僕はナデシア様にお願いして戦争を終わらせてもらおうと神界に戻った。神界では神々が話し合っていた。
「あら、ガイア。また地上に行っていたのですか?」
「知っていたんですか?ナデシア様。」
「当たり前です。」
「ナデシア様。地上では戦争がはじまりました。大勢の人々が悲しみ苦しんでいます。戦争を終わらせてくれませんか?」
「それはできないわ。人は我々の操り人形ではないのですよ。善悪を考えて自分の責任で行動しなくてはいけないのです。そうしないと彼らは成長しませんから。」
「ですが、そのために苦しむ人達が大勢いるんですよ。何の罪もないに。」
「ガイヤは優しいのですね。ですが、優しいだけだはダメなのよ。時には心を鬼にしても我慢する必要があるの。わかってちょうだい。」
「わかりません!僕は人が大勢死ぬのを黙って見ていられません!」
僕は自分の力で戦争を止めようと地上に降りた。だが、地上には黒龍が現れ、大混乱となっていた。孤児院も教会も破壊され、中にいた子ども達や司祭様の姿はない。アリスのことが心配になり2人で暮らしていた家に向かったが、家は黒龍に破壊され、僕の目の前でアリスが黒龍に噛み殺されたのだ。
「アリスー!」
僕は自分の中の糸が切れるのを感じた。身体からは漆黒のオーラが溢れ出て、背中に漆黒の翼が現れた。僕は魔王へと変化したのだ。黒龍を滅ぼしたが、僕の怒りは治まらない。黒龍を生み出した人間の国々への怒りが込み上げてくる。そして、戦争を起こした2国を滅ぼしてしまったのだ。その後、神々の加護を受けた勇者がナデシア聖教国で召喚され、その勇者によって打ち取られた僕は、深い眠りについたのだ。
「思い出したようね。」
「はい。全部ではありませんが。」
「そうよ。全部は返さないわ。だってまだ修行の途中ですもの。」
「修行ですか?」
「そうよ。あなたまだ罪を償ってないでしょ?あなたが犯した罪は大罪なのよ。罪が償われるまでは、不老不死の存在として地上で生きていくことになるのよ。」
「かなり厳しい罰ですね。」
「そうね。きっとあなたはまた人間に恋をするわ。その相手がどんどん老いて死んでいくのよ。我慢して見ていられる?それが何度も何度も訪れるのよ。」
「本当に厳しいですね。」
「当たり前じゃない。あなたはそれほどの罪を犯したのよ。そろそろ戻りなさい。」
「あの~。最後にもう一つ聞きたいんですが。」
「何かしら?」
「リンは?リンはどうなったんですか?」
「彼女なら大丈夫よ。元気にしてるから。そうそう。あなたが降り立つ地上は10年経過しているからそのつもりでね。あなたの年齢は15歳。もう成長も老化もしないわよ。」
「そうですか~。」
ロッテンシティーの森に降り立ったオレは、スチュワート王国から離れようと南に向かった。南にはグラッセ王国がある。さらにその向こうにはフェアリー大陸が広がっている。フェアリー大陸には獣人族、エルフ族、ドワーフ族の国があるのだ。
「あ~あ。お父様とお母様は心配してるだろうな~。だって、あんな殺され方したんだもんな~。絶対にオレが死んだと思ってるよな~。」
すると、どこからか声が聞こえた。
「当たり前じゃないの!私が助言しなかったらこの国だって黒龍に破壊されてたんだからね!少しは感謝しなさいよ!」
聞き覚えのある声だ。周りを見渡しても姿が見えない。
「ここよ!ここ!」
前方の高い木の枝に一人の少女が腰かけていた。ショートパンツ姿の美少女だ。その少女は、こともあろうか5m近い高さから飛び降りた。
「えっ?!」
「何を驚いているの!アスラ!私が誰かわからないの?」
「もしかして・・・リン?リンなのか?」
「そうよ。あなたの師匠のリン様よ!」
「何でリンが人間の姿をしてるんだ?」
「指輪のままだと一人ぼっちになったアスラが寂しがるでしょ!だから、ナデシア様にお願いして人間の姿で来させてもらったのよ!」
「リンって何者なんだ?」
「私?私は天使見習いよ!私が一人前の天使になるためには、あなたの罰が許されないといけないのよ。わかってるの?!!!」
「わかったよ。」
「それで、これからどうするのよ?」
「とりあえず南のグラッセ王国に行こうと思って。」
「そう。それで、あなた、お金とかあるの?」
「ないよ。」
「お金もないのに旅をするの?」
「行く途中で魔物を狩って、冒険者ギルドで報奨金をもらおうと思ってさ。」
「仕方がないわね。でも、それが一番間違いなさそうね。じゃあ、行くわよ!」
リンが一緒に行くことになって物凄く嬉しかった。それになぜかリンに物凄い懐かしさを感じた。
「ところでアスラ。あなたウイリアム伯爵とジャネットさんに挨拶しなくていいの?」
「だって、オレが行ったらまずいだろ?魔王になったんだから。」
「あなた馬鹿じゃないの?魔王になったって悪になったわけじゃないでしょ!正義の魔王だっていいじゃない!」
「でも、人々からすれば魔王は悪の象徴だからね。あの二人には迷惑かけられないよ。」
「なら、こっそり行ってくればいいわよ。転移魔法が使えるんだから。」
確かにそうだ。オレは転移魔法が使える。でも、オレのあの姿を見たお父様には会いづらい。オレが悩んでいるのがわかったのか、リンはそれ以上何も言わなかった。
「アスラ。あなたのその恰好ちょっと変よ。」
「何が?」
「あなた、冒険者を名乗るんでしょ?冒険者なのに私みたいに剣を持ってないじゃん。」
リンを見ると背中に剣を担いでいる。それに対して僕は何も武器を持っていない。
「どうしよう?リン。」
「なら、これでも使ってなさい。」
空間収納からリンが1本の剣を取り出した。それを握った瞬間、僕の身体中に熱い何かが走った。
「リン。これは?」
「私も知らないわ。私の空間収納に入っていたものだから。なかなかの業物よ。」
「そうだね。」
オレはその剣を背中に背負った。そして、どんどん森の奥へと入っていった。




