戦場に現れた黒龍
お父様が王城に行くと、すでに戻ってきている王派閥の貴族達が集まっていた。
「ウイリアム伯爵殿。よく5日で戻ってこれましたな。」
「はい。子爵殿こそ早いですね。」
「馬をかっ飛ばしてきましたよ。それよりもせがれのマイケルがいつもアスラ殿の噂をしておりますぞ!よき息子に恵まれて羨ましいですな。ハッハッハッハッ」
そこにユリウス公爵とビクトリ国王がやってきた。
「みんなよく来てくれた。おかげでこちらも4万の兵を用意することができた。感謝するぞ!」
ここで、お父様が陛下の前に出た。
「陛下!この戦争は防ぐことはできないのでしょうか?」
すると、他の貴族から罵声が飛んだ。
「伯爵殿!臆病風に吹かれたか!もう戦は始まるんだ!今更何を言っておるんだ!」
すると、ユリウス公爵が怒鳴った。
「ひかえ~!陛下の御前だぞ!」
罵声を浴びせた貴族は後ろに下がった。そして、ビクトリ国王がみんなに語り始めた。
「伯爵よ。そなたの気持ちはよくわかる。戦をすればその犠牲になるのは国民達だ。そなたは国民の犠牲を出したくないのだろう。だが、それは不可能だ。こちらから仕掛けた戦いではないんだ。相手から挑んできたのだ。こちらにはどうにもできないんだ。」
「申し訳ありません。陛下。」
「よいよい。伯爵の忠義はよく知っておる。その優しさもな。」
「ありがたきお言葉です。では、先陣はこのウイリアムがお引き受けいたしましょう。」
会議室の貴族達から声があがった。
「おお~!さすがホフマン家だ!」
そこに騎士団長がやってきた。
「動きがあったのか?ロビンソン!」
「はい。斥候からの報告によりますと予定通り明朝には王都に到着しそうです。」
すると、会場に緊張が走った。当然だ。貴族として偉そうにしていても誰も戦の経験などないのだ。敵が来たという報告を聞いて、一気に現実味が出たのだろう。公爵がみんなに告げた。
「皆の者。2日持ちこたえよ!さすれば3万の援軍がやってくる。我らの勝ちはゆるぎない!」
「お—————!!!」
貴族達は会議室を出て行った。そして翌日の早朝、王都の周りに廻らされた城壁の外側に5万の反乱軍の姿があった。反乱軍は大きく2つのグループに分かれていた。どうやらバッハ侯爵の指揮する軍勢と、ロベルト辺境伯の指揮する軍勢がいるようだ。城壁の内側の最前列には、伯爵であるお父様とその軍勢がいる。いつでも出撃できる大勢だ。
「いよいよですね。陛下。」
お城の最上階からビクトリ国王とユリウス公爵が状況を見守っている。
「ああ、そうだな。これから大勢の死人が出ると思うと心が痛むな。同じスチュワート王国の国民なのに悲しいことだ。」
僕はお父様が心配だったので、魔法で姿を隠してこっそりと城壁の上から様子をうかがっていた。いざという時にはお父様を助けるつもりだ。
パッパパーン パッパパーン
大きな音が聞こえると反乱軍が一斉に動き始めた。王都に向かって前進を始めたのだ。すると空の様子がおかしい。急に真っ黒の雲が現れ始め、あっという間に空全体を覆いつくした。昔見たことのある光景だ。僕の背筋に冷たいものが走った。
“リン!もしかして・・・”
“そうよ!黒龍よ!黒龍が来るわよ!”
前進していた反乱軍達も立ち止まって上空を眺めている。すると、上空から巨大な翼を持ったドラゴンが舞い降りてきた。
「こ、こ、黒龍だー!」
「逃げろー!」
もうこうなると戦どころではない。黒龍にとっては反乱軍も国王軍も関係ない。口から巨大な炎を吐き出して地上の兵士達を殺していく。
「逃げるなー!戦えー!」
バッハ侯爵も必死に兵士達に呼びかける。ロベルト辺境伯は馬から転げ落ち、ただただ目の前の光景に腰を抜かしていた。
“リン!行くよ!”
“アスラ!ダメよ!絶対にダメ!”
“どうしてだよ?目の前で大勢の人達が殺されているんだぞ!”
“アスラの怒りと憎しみが一気に増えて私の手に負えなくなるのよ!”
すると、城門が開いてお父様が兵士達を連れて黒龍に向かっていった。単身で黒龍に向かうシュバルツの姿も見えた。黒龍が翼を広げてお父様に向かって風を起こした。お父様は馬から転げ落ちて、地面を転がっていく。兵士達も後ろに大きく吹き飛ばされた。黒龍がお父様に向かって歩き始めた。その瞬間、僕の糸が切れた。
「待て!黒龍!貴様の相手はこの僕だ!」
僕は黒龍の前まで転移した。いきなり僕が現れたことに黒龍は驚いたようだ。そして、僕は剣に魔法を付与して黒龍に斬りつけた。轟轟と炎を揺らめかした僕の剣が黒龍の足を斬った。黒龍の足から真っ黒な血が噴き出す。
グオー ギャオー
「お父様!逃げて!お願いだから!」
「アスラ!お前・・・」
ザック達が無理やりにお父様を後ろに下がらせた。シュバルツが僕に大声で話してきた。
「アスラ!お前、魔法が使えるのか?」
「まあね。シュバルツ!今の君には無理だ!黒龍は僕が相手をするから、後ろに下がっていてくれ!」
「わかった!」
黒龍が僕に向かって炎のブレスで攻撃してきた。僕は炎に包まれた。
「アスラー!」
お父様の叫び声が聞こえる。炎がおさまった後、そこには無傷の僕が立っていた。炎のブレスが来る前に結界を張ったのだ。それを見ていた兵士達は何が起こったのか理解できないでいるようだ。
「お返しだ!すべてを焼き切れ!『シャイニングビーム』」
僕の手から放たれた光線が黒龍の腹に直撃した。黒龍はたまらず空中に舞い上がる。
「逃がすものか!」
僕は黒龍の前に転移した。だが、それが黒龍の罠だったのだ。黒龍は僕が転移してくるのを予測していたのか、僕めがけて巨大な爪を振り下ろしてきた。転移したばかりの僕に避けるすべはない。黒龍の巨大な爪が僕の胸を貫いた。
グハッ
僕は地面に真っ逆さまに落下した。すかさず、黒龍が僕を踏みつける。
グホッ ゲボッ
思わず僕は大量の血を吐き出した。僕の意識がどんどん遠のいていく。




