貴族派閥の反乱
王城に貴族派閥が挙兵したことが報告された。そして、王派閥の貴族を集めるためにユリウス公爵とロビンソン騎士団長が部屋から出て行った。それから間もなくして、お父様のところにもすぐに登城するようにと連絡が来た。
「お父様。何かあったのですか?」
「ウイリアム。何かあったの?」
「ああ。貴族派の連中が蜂起したようだ。すぐに王城に行く。支度を!」
そうなると心配なのはシュバルツだ。彼はバッハ侯爵の長男なのだ。シュバルツはバッハ侯爵の一族とともに北に位置する侯爵領に戻っていた。
「父上!何故です?なぜ王族に反旗を翻すのですか?自重なさってください!」
「黙れ!お前に何がわかる!」
バッハ侯爵邸の執務室には、シュバルツ以外に側室のアンネットと次男のネロがいた。
「そうですよ!シュバルツ。あなたにもわかるでしょう。もうこのスチュワート王家は天に見放されているのですよ。何せ、私達の後ろにはオスマイ帝国のトラヤス皇帝がいるのですから。」
「そうですよ!兄上!父上がこの国の新たな国王になったら、私が皇太子となり、兄上も公爵ぐらいにはしてあげますよ。」
「父上!戦争が起これば民が苦しみます。親を亡くした子どもが溢れかえることになるのですよ!」
「そんなことはわかっておる!だが、平民などいくらでもおるわ!大事のためには仕方あるまいて。」
「いいえ。父上は間違えております。例え父上が勝ったとしても、帝国がその後にやって来て占領するでしょう。父上は帝国に利用されているのですよ。何故わからないのですか!」
「うるさい!シュバルツ!貴様!わしのことをぼんくらとでも思っているのか!そのぐらい、わしだって考えておるわ!」
シュバルツの説得も虚しく、バッハ侯爵はシュバルツと次男のネロを引き連れて、王都に向けて進軍を始めた。幸いなのは、王都までの街の領主がすべて貴族派だったために、死人を一人も出さずに進軍していたことだろう。同様に北からもロベルト辺境伯が大軍を引き連れて王都を目指していた。
バッハ侯爵とロベルト辺境伯が反乱軍を率いて王都に進軍を始めたころ、王城の大会議室には王派閥の貴族達が集められていた。
「皆の者。良く集まってくれた。話は聞いているだろうが、貴族派の連中が蜂起した。その数およそ5万人だ。」
「お~!」
相手の数を聞いて、その場にいた貴族達の顔が青ざめた。
「皆の者にお願いする。急いで領地に戻り、王都に兵を集めて欲しい。」
「陛下!反乱軍はどのくらいで王都に来るのですか?」
すると、ロビンソン騎士団長が答えた。
「早ければ6日で到着するでしょうな。」
「6日ですか?!ならば急いで準備をせねば!」
大会議室から貴族達が出て行った。残っているのはビクトリ国王とユリウス公爵、それにロビンソン騎士団長だけだ。
「公爵よ。この戦い。勝てると思うか?」
「正直、難しい戦になると思います。ですが、我々は勝たねばなりません。この国の民達のためにも。」
「そうだな。」
すると、ロビンソン騎士団長がポツリと言った。
「なぜこのタイミングなのでしょうか?」
「騎士団長殿。王立学院ですよ。王立学院が3週間の長期休暇に入りましたから、貴族派の子女達はみんな王都を離れたのでしょう。」
「なるほど。自分の子ども達を非難させることのできるタイミングだったということですね。」
「そうでしょうな。」
ユリウス公爵の言った通り、貴族派の子女達はシュバルツを含めて全員が王都を離れていた。残っているのは王族派の子女だけだ。
王城から父上が帰ってきた。
「おい!今、帰ったぞ!」
「ウイリアム!それでどうだったの?」
「どうもこうもない!貴族派の連中は何を考えているのだ!6日後には5万の大群で王都に攻め込むようだ。」
「大変じゃない!どうするのよ!」
「アスラ!アスラはいるか!」
僕は居間に呼ばれたので慌てて降りて行った。
「アスラ!頼みたいことがあるんだ!」
「なんですか?お父様。」
「実は6日後に5万の軍勢で反乱軍がやってくるんだ。すぐにでも王派閥の軍隊を揃えないといけないんだ。だが、私が今から領地に帰っていたら間に合わん。そこで、お前の魔法で私を領地に連れて行ってはくれないか。」
「わかりました。すぐの方がいいですよね。」
「ああ、頼む。それともう一つ頼みがある。もし王城が陥落するようなことがあった場合は、陛下達を転移魔法で助けてやってくれ。」
「でも、そんなことしたら・・・」
「大丈夫だ。私が決してお前のことを魔王扱いはさせない!だから頼む!」
「わかりました。」
僕は転移でお父様をロッテンシティーの屋敷まで連れて行った。そして、再び転移して王都の屋敷に戻ると、居間のソファーでお母様が青い顔をしてうつむいていた。
「大丈夫ですよ。お母様。お父様は強いですから。」
「ありがとう。アスラちゃん。でも、心配なの。」
僕は暫くお母様の手を握っていた。いつもなら暖かい手も今日は冷たくなって震えていた。僕は心が落ち着くようにリラックスの魔法をかけた。
「あら。不思議ね。なんか気分がよくなってきたわ。」
「よかったです。」
「アスラちゃんの優しさが伝わってきたからよ。」
僕は自分の部屋に戻ってベッドに寝転びながら考えていた。
“どうしようか。このままだと戦争になっちゃうよ。そしたら大勢の人が死ぬんだよな~。もう人が死ぬのは嫌だ!”
目の前に黒龍に襲われたときの村の光景が浮かんできた。僕の全身に暗く重いものがのしかかってくる。
“アスラ!ダメよ!一人で抱え込んじゃ!また、怒りと憎しみが溢れ出てるわよ!”
“リン。僕に戦争を止めることはできるかな~?”
“そうね。今のあんたならもしかしたら何とかなるかもね。でも、そんなことしたらもうこの家にはいられなくなるわよ!”
それから毎日のように王都に近い王派閥の貴族達が兵士達を連れて王都に戻ってきた。王都の中は兵士達で一杯だ。当然泊まる場所がないから、いたるところにテントを張っている。そして、5日目にお父様が兵士達を連れて戻ってきた。さすが伯爵だけのことはある。総勢5000人の軍隊だ。
「ウイリアム。ご苦労様。ゆっくり休んで。」
「私も休みたいがそうもできないんだ。すぐに登城しないといけないからな。アスラはどうしてる?」
「部屋にいるわよ。」
お父様が僕の部屋にやってきた。鎧を着たままだ。
「アスラ!お前に頼みたいことがある。」
「なんでしょうか?」
「この前、王族を守るようにお願いしたが、この屋敷の者達も守ってやってくれないか。特にジャネットは私がいなくなったら相当悲しむだろうからな。」
どうやらお父様は死ぬ気なんだろう。僕には素直に『はい』とは言えない。
「どうしたんだ?」
「お父様。以前、僕はお父様とお母様に魔法を見せましたよね。」
「ああ、そうだったな。」
「僕がこの戦争を終わらせます!もう大勢の人が死んでいくのを見るのは嫌なんです!」
「アスラ!お前・・・」
「もういいんです。僕は魔王にされても構いません。それより、大勢の人が死んでいくのを止められるのに、何もしないなんて僕にはできない!昔の僕には力がなかったから仕方ないけど、今の僕なら・・・・」
それ以上は言葉が出なかった。遅れて部屋に入ってきたお母様が僕に駆け寄って抱きしめてきた。
「アスラちゃん!優しい子!私の私の可愛いアスラちゃん!私はあなたと離れ離れになるぐらいなら死んだほうがマシよ。」
「お母様~!!!」
「アスラ!早まるな。まだ戦争が始まったわけじゃない。陛下にお願いしてみよう。何とかこの戦争を避けられないか、話してみるよ。」
お父様は王城に向かった。




